第40話 僕のお仕事について確認です
「ねぇ、陛下」
レイミーは祝い菓子をすっかり食べ終えてとても満足していた。満足しているからこそ、確認しなくてはならない。なぜなら後宮に来てレイミーは自分のお仕事をようやく達成感できたからだ。回りは褒めてくれたけれど、問題は雇い主である目の前の国王陛下アルベルトが本当に満足してくれているかなのだ。
ここは一つ、思い切って確認するしかない。
レイミーはふんすっと鼻を鳴らした。
「どうした?」
毎度の事ながら、自分のオメガが可愛いかよ。な状態に、アルファの国王アルベルトの鼻の下は伸びきっていた。伸びに伸びているのだが、そんなだらしのない顔を見せる訳にはいかないので、アルベルトは自分で顎の下の辺りに手を当てて表情を引き締める。もちろん、ヨダレなんか垂らしてはいないし、唇もキチンと引き締めた。
「僕のお仕事が成功した。って、聞きました。本当ですか?」
予想していない。まったく想定外の質問に、さすがのアルファの国王アルベルトも目を見開いて無言になった。
お仕事とはなんぞや?
だがしかし、聞かれたことには答えなくてはならない。なぜならアルベルトはアルファの国王だから。そう、アルファである。目の前にいるのは愛しい番のオメガである。完全で正しい答えを口にしなくてはならない。そう、間違いは許されないし、曖昧な答えなど言語道断だ。
「ふむ。レイミーの仕事か」
言われたことを口にして、考える素振りを見せる。これは立派な時間稼ぎである。はてさて、後宮に居を構えるオメガの仕事とはなんぞや。答えはひとつなのだが、果たしてそれをそのまま伝えていいものなのか。あるベルトは頭の中で素早く考えた。平たく言えば、後宮のオメガの仕事はアルファの国王の子を成すことだ。確かに少し前までは、アルファの有り余る性欲を発散させるために複数のオメガが後宮にいた。彼女たちは実に良い仕事ぶりであった。そんな彼女たちと入れ替わるように後宮にやってきたのがレイミーである。
しかしながら、この四年あまり、レイミーがしてきたことは前任のオメガたちと全く違っていた。引き継いだはずなのに、まるで違うことを閨でしてきたのだ。だが、アルファの国王アルベルトは大いに満足した。何の不満もなかった。いっそこちらの方が心地よかった。アルファの性欲よりも、アルファの欲望が満たされたからだ。だから、レイミーはずっとしごとをキチンとこなしてきたと言っていいだろう。
「レイミーは、ずっと仕事をしてきたと思うが」
アルベルトはそこで一旦言葉を区切る。そうして目の前にいる愛しの番、レイミーの顔を見てみれば不安と期待の入り交じったような、なんとも言えない微妙な表情をしていた。応えをうっかり間違えれば、いつぞやの時のように大泣きするに違いない。
「僕、お仕事ずっと頑張ってきました」
褒めて褒めてとレイミーの顔が言っている。どこからどう見ても言っている。言っていると言ったら言っているのだ。
「そうだな。とてもよく仕事を頑張ってきた。学園に通いながら、よく仕事に励んだ」
アルベルトは国王らしく臣下をねぎらうような言葉でレイミーを褒めた。当初はまだ子どもであったレイミーだが、今ではすっかり大人なのだ。成人もしたし、学園も卒業する。
「僕、頑張りましたか?」
「とてもよく頑張った」
アルベルトはそう言ってレイミーの頭を撫でた。成人したとは言っても、レイミーはオメガだ。アルファのアルベルトから見れば小柄で華奢でかわいらしい存在である。
「陛下、僕、記憶がほとんどないんですけど」
レイミーが意を決した顔で口を開いた。
「僕のお腹の此処まで届く陛下のモノは、ちゃんと僕の中に入ったのでしょうか?」
そう言って、レイミーはペロンと腹をめくって見せた。それも盛大に。なんのためらいもなく。そうやって見せられたレイミーの腹は、白い肌にまだ発情期の名残が散見された。もちろんアルファの国王アルベルトには、しっかり記憶にあるものなのでなんとも思わなかったのだが、オメガのレイミーは自分で言ったとおり、記憶がないのである。自分で腹を出しておきながら、そこに残された情交の痕をみて驚いてしまった。
「わわわわわ、僕のお腹、虫に刺されてる」
確かに、見ようによっては虫に刺されたかのように赤く丸い痕が沢山レイミーの白い腹にあった。だがそれは、刺されたのではなく、噛まれた。いや、正確には吸われた痕だ。普通なら、そこそこあやふやだが記憶があって、思い出して赤面するところなのだろうけれど、困ったことに初めての発情期だったレイミーは、キングオブアルファの国王陛下アルベルトのフェロモンの影響もあって、完全に飛んでいたのである。また、アルベルトも待ちに待ったオメガのレイミーの発情期とあって、興奮しすぎて我を忘れていた。恥ずかしい話、アルベルトも途中記憶がない部分があった。だがしかし、終始気持ちがよく多幸感に包まれて、この世の春を己の両手いっぱいに抱きしめていた自覚はある。何物にも代えがたい宝ものを手に入れたのは間違いのない事実だ。
だから、レイミーの白い腹に残された赤い痕も、首の後ろの項に残された噛み痕も、全てアルベルトの記憶の中にしっかりと残っている。
「レイミー、これは虫がつけた痕ではない」
そう言ってアルベルトはレイミーの腹に顔を寄せ、先ほどレイミーが示したあたり、つまりは臍の横に唇を押し付けた。
「ひゃっ」
レイミーが小さく悲鳴を上げたが、アルベルトはすぐには離れなかった。もちろんレイミーが驚いたのは、アルベルトがレイミーの白い腹を吸ったからである。驚きすぎてレイミーはまくり上げた服を掴んだままアルベルトの顔を凝視した。
「こうやってつけるのだ」
アルベルトはまるで悪戯が成功した子供のような顔をして、レイミーを見上げた。驚きすぎたレイミーは、プルプルと震えるだけで何も言わない。いや、何も言えなかった。
「それに、お前のここにまで届く私のモノなら、何回も入れたし、何度も注いだ。だからこうして番になった」
そう言って、アルファの国王アルベルトは、レイミーの項に残る噛み痕を指の腹でそっと撫でた。途端、レイミーの背中に雷に打たれたかのような衝撃が走った。声にならない悲鳴を上げて、レイミーが崩れ落ちる。
「陛下、い、今の何ですか?」
触られた場所はわかる。レイミーのお仕事が大成功をした証だと説明されたから。だが、自分で何回も触ったけれど、こんなことにはならなかった。驚きすぎてレイミーは横になったままでアルベルトを見上げた。先ほどとは逆転した状態だ。
「レイミー、お前が私の唯一となった証だ。その噛み痕は私とお前が番った証だ。誰にも消すことは出来ない。生涯を誓った相手のいるオメガだけにある宝物だよ」
「宝物」
レイミーは自分の指でもう一度噛み痕を確認した。先ほどアルベルトに触れられた時のように、雷が走ったような衝撃はやってこない。それどころか、とても穏やかで、幸せな気持ちが胸いっぱいに広がっていく。
「レイミー、お前の仕事はアルファの国王である私の相手をすることだ。後宮に入り寵姫となり、成人してこの度側室となった。つまりは出世だな」
「出世、僕出世したんですか?偉くなりましたか?」
嬉しさのあまりレイミーの鼻が何度もふんすっと鳴り続ける。その様子がまた愛らしくてアルベルトはレイミーの髪を撫でながらまたもや噛み痕を撫でた。今度は雷に打たれたような衝撃は来なかった。代わりに全身になんとも言えない心地の良い刺激が広がっていく。まるで喉を撫でられた猫のようにレイミーが目を細めた。
「大出世だ。レイミー。お前は国一番のオメガになった」
「じゃあ、お給金いっぱいですね。よかった、妹たちの支度金と、一番下の弟の制服を買ってあげられます」
「……そうか。それはよかったな」
いやそれは、いまやレイミーに負けないほど出世したマイヤー伯爵がちゃんと準備できるから大丈夫。アルベルトはそう教えてやりたかったけれど、あえて口をつぐんだ。レイミーはしっかり者のお兄ちゃんなのだ。それを邪魔するのは無粋というものだ。




