第36話 僕のお仕事の内容は如何に
「待たせたな」
できる限り落ち着いた声で言ったつもりではあるが、はやる気持ちはどうにも抑えきれないアルファの国王アルベルト。31になってようやく思い人と添い遂げられる喜びで胸がいっぱいなのだ。だがしかし、それをきちんと隠してとにかく落ち着いて望まなくてはならない。なぜなら目の前のオメガは大切に大切に今日まで育て上げた無垢なる番(まだ番っていない)なのだから。
「……陛下」
今まで見たことのないような潤んだ瞳、そして嗅いだことのないかぐわしい香り。上気した頬はまさにバラ色で、両膝を寝具の上に置いて座る様はどうにもアルベルトの雄、もといアルファの本能を刺激した。欲望の赴くままにむさぼりつくしたい。その欲のすべてをあの細くか弱い、華奢な身体に叩き込みたい。己の内に渦巻く熱いドロドロとした欲望をアルベルトは必死に抑え込んでレイミーの傍に片膝をついた。
「レイミー、ようやくこの日が来たことを嬉しく思う」
感情を押し殺し、恭しく口上を述べるも、はやる気持ちのせいで喉が渇く。何度も唇を舐め、アルベルトは己を律するのだが、肝心のオメガのレイミーが動かない。
「陛下、僕……僕」
そう言って、レイミーが下を向いた。小さな体が、より小さく見える。しかも白い項が目の前だ。噛みつきたい欲望がアルファの国王アルベルトの内にあっという間に広がった。
「どうした?」
とにかくアルベルトは己の内なる欲望を抑え込み、できる限り優しい声でレイミーに問いかけた。
「僕、お腹が空いてるんです。ここがキュウキュウ鳴ってるんです」
そう言ってレイミーが示した場所はオメガの子宮がある場所だ。思わずアルベルトの喉が鳴る。
「僕、腹ペコオオカミになっちゃったみたいなんです」
それは違う。腹ペコオオカミの話は教会の説法で、オメガは番を一人しか持てないが、アルファは複数と番えるから気を付けなさい。という話だ。レイミーはこの年まで話の内容を素直にそのまま受け止めていたらしい。だがしかし、今この時にそんな話を真面目に聞けるアルファがいるだろうか?いやいない。だがしかし、ここにいた。
「そうか、ならば腹を満たさねばならぬな。何が欲しい?」
アルファの国王アルベルトだ。あくまでも国王としての品位を損ねないよう発情期まで冷静に対処していた。
「ここを、陛下ならいっぱいにしてくれるって聞きました。だから、陛下、僕のお腹をいっぱいにしてください」
またもやレイミーがふんすっと鼻を鳴らしてとんでもないことを口にした。
ここを?
いっぱいにしてください?
そこは何処だ?
いっぱいにしてもいいのか?
しちゃっていいのか?
いや、いいと言った。
してもいいのだ。
せねばならぬのだ。
強請られたのだから。
答えなければアルファが廃る。
いっぱいにするのだ。
ありったけを注ぐのだ。
注いでいいのだ。
満たすのだ。
「もちろんだ。レイミー」
アルファの国王アルベルトの手がオメガの寵姫レイミーの頬を優しく包み込む。
「お前の胎内を私で満たしてくれよう」
その瞬間、レイミーの瞳に宿ったのは歓喜。オメガの本能が求めるものを見つけ出した喜びの色に染まった。
「陛下、僕、もう、待てない」
レイミーがそう口にすると、待てなかったのはこちらの方だと言わんばかりにアルベルトの口がレイミーの口を塞いだ。そうしてレイミーの言葉も感情も何もかもをアルベルトが飲み込んでいく。その反対に、レイミーはアルベルトから注がれるアルファの精を飲み込む。互いが互いを飲み込むように、奪い合い与えあう。いままでほんのわずかにしか香っていなかったレイミーのオメガの香りが一気に立ち上り、部屋中を満たした。それに答えるかのように、アルベルトのアルファの香りも拡散された。レイミーの放つ香りとアルベルトの放つ香りは交じり合うように、それでいて包み込むように、新しい匂いへと生まれ変わる様にその濃度を変えていった。
「陛下、もっと、もっとちょうだい」
初めての発情期、自分の中の満たされない何かを満たしてくれるアルベルトに、レイミーは貪欲に強請る。それこそ教会のありがたい説法もなにもないほどに、レイミーはオメガの本能の赴くままにその欲望をアルベルトに向けていた。もちろん、アルファの国王アルベルトだって、この時を待っていたのだ。まち望んだ歓喜の瞬間である。望まれるのなら、望まれるままにいくらでも注ぐまでである。
「陛下、僕のお臍まで……ちょうだい」
レイミーが具体的な場所を言うものだから、アルベルトのタガが外れそうになる。まだ駄目なのだ。まだ、最後までいきつくわけにはいかないのだ。アルベルトは必死に理性を保ちつつ、レイミーが欲しがるものを欲しがるだけ与え続けた。時間も回数もそんなことはどうでもよかった。ただただ愛しの番が欲しがるから(まだ番ってはいない)、欲しがるだけ与えるだけだ。細く弱弱しかった身体はいつの間にかに程よく肉付き、制服の下でゆっくりと熟成されていた。それを誰にも気づかれず、アルベルトは時を待っていた。そうしてようやく訪れた歓喜の瞬間。熟れた果実が自ら食べごろだと匂いで教えてくれたのだ。
そう、オメガはその匂いでアルファを誘うのだ。
「陛下、僕のお腹が喜んでます」
芳醇なかおりを放ちつつ、レイミーが歓喜の声をあげた。その表情は未だかつて見た事のないほどに妖艶な笑みを浮かべていた。
「そうか、腹が」
「はい。お腹が喜んでます。美味しいって」
「そんなに美味いか」
「はい。とっても美味しいです」
無自覚にレイミーはアルベルトを煽る。その言葉がどれほどアルファの本能を刺激するかも知らないで……




