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無自覚な悪役令息は無双する  作者: ひよっと丸


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第31話 うさぎのたまごが沢山です


「会場のセッティングを致します」

「はい。僕頑張ります」


 今日は一段と鼻息も荒く、レイミーが会場に現れた。会場はこの間サーカスを開催した中庭である。サーカスのテント(屋根だけ)と国王陛下アルベルトの観覧席が残され状態だ。

 ささやかなお茶会とうさぎのたまごを開催する旨が書かれた招待状が届いてから約二週間。貴族たちはソワソワしっぱなしだった。なぜなら招待されたのが子どもたちだからだ。しかも招待してくれたのはアルファの国王陛下アルベルトが建国記念の折に「余のオメガである」と宣言をしたレイミー・マイヤー伯爵子息だ。

 つまりはあれだ。決して失敗は出来ない。貴族の子どもが全員招待されているのは周知の事実なのだから。


「レイミー様、おひとりで全てのたまごを隠すのは時間がありません」

「えぇ、そんなァ」


 セシリアに指摘され、レイミーはわかりやすいぐらいにしょんぼりした。だがしかし、そんなことをしていることさえ勿体ないのだ。会場のセッティングはたまごを隠すことだけでは無い。テーブルや椅子を並べ、花を飾り謝肉祭にふさわしい会場にしなくてはならないのだ。テーブルクロス一つとっても、国王陛下アルベルトの唯一の寵姫であるレイミーにふさわしいものにしなくてはならないし、並べる菓子は最高のものにしなくてはならない。もちろん招待客が貴族の子どもたちだから、飲み物はジュースだ。お茶はミルクティーだ。渋くて苦いお茶など出すはずがない。だってレイミーの弟妹たちが来るのだから。とびきり美味しいものをお兄ちゃんとして食べさせてあげなくてはならないのだ。


「レイミー様、こちらのたまごを隠してください。わたくしどもはあちらに隠しますから」


 セシリアに渡されたカゴの中にはカラフルなたまこが沢山入っていた。大きさも色々あって見ているだけでウキウキしてしまう。


「よぉし、僕頑張るぞ」


 レイミーは小さく両手を握りこぶしにして、張り切って椅子の下や花の中にたまごを隠していったのだった。


「これ、隠れてるの?」


 屋根の下に設置されたお茶会のテーブルセットの中に、たまごたちのお茶会が開催されていた。小さな椅子に座るたまごたち。お菓子のようにテーブルにならんだカラフルなたまご。王冠を被ったうさぎのぬいぐるみの手にはやはりたまごがあった。


「木を隠すなら森の中、というではありませんか」


 そんなことを言われても、イマイチピンとこないレイミーなのである。それに、テーブルクロスをめくればカゴに入ったままのたまごが沢山あったり、テーブルの上に普通に飾られたりしていた。何しろ招待客の数が多いのである。普通に隠していたら隠す場所が足りないのだ。だから、侍女たちは後宮の女官セシリアの指示の元、あえて見えるように隠しているのである。


「大きいのから順番にちっちゃくなってる」


 木の後ろに一列に並んだたまごを見てレイミーが言った。正面から見れば確かに隠れているけれど、横から見たら丸見えだ。もっとも、貴族の子どもとは言え、年齢は赤子から学園に入学前までだ。知能と体力の差がありすぎる。だからひと目でわかるようなものから、しっかりと隠されたものまで用意する必要がある。沢山見つけても一人ひとつの約束が招待状に書かれているため、独り占めするような意地汚い、もとい意地悪なことをする子は現れないだろう。何しろ主催がアルファの国王陛下アルベルトの大切な番様(まだつがってはいない)なのだから。


「レイミー様、そろそろお支度をしなければなりません」


 後宮の女官セシリアに促され、レイミーは会場を後にする。チラチラと確認をすれば、ここにもあそこにもたまごが見えて、レイミーの胸の高鳴りはどうにもとまらないのであった。


「あー、僕のお胸がドキドキしてます」


 昼食を食べながら、レイミーはこれから起こる事を考えてしまい、お口は咀嚼よりもおしゃべりに使われてしまっている。


「レイミー様、しっかり食べてくださいませ」

「はぁい」


 昼食を食べたらレイミーだって謝肉祭のためのお祈りをしなくてはならない。そのための衣装に着替えて国王陛下アルベルトに伴い建国記念の時に足を運んだ大聖堂に行くのだ。


「レイミー様はこちらを」


 後宮の女官セシリアがレイミーに差し出してきたのは大きなカゴ。なかなか重量があって取っ手を持って運ぶのは非力なレイミーには難しい。しかも、


「ひぁ、これ、なんか動く?」


 カゴの中身を知らないレイミーはヨロヨロと部屋のかなを移動する。


「レイミー様、カゴの中はうさぎにございます」


 セシリアがさも当たり前に言うものだから、レイミーは驚きが隠せない。


「え?生きてるうさぎさん?」


 慌ててカゴの隙間から中を見れば、確かにうさぎが一羽中にいた。


「レイミー様、謝肉祭では神に五穀豊穣と子孫繁栄を祈るのです。五穀豊穣の麦の穂、子孫繁栄のうさぎにございます」

 

 セシリアが解説をしてくれたけれど、レイミーにはイマイチピンとこない。じゃあたまごは?

 

「………………」


 うさぎの入ったカゴを見つめてレイミーは悩む。


「大聖堂に行けば答えが分かりますから」


 セシリアはレイミーを促して後宮の門までうさぎの入ったカゴを運んでくれた。いくらなんでも動くうさぎの入ったカゴは、レイミーが運ぶには難易度が高かった。


「さぁ、カゴは抱えてしまいましょう」


 セシリアはレイミーの両腕にしっかりと動くうさぎの入ったカゴを持たせた。これで安定だ。


「待たせた」


 カゴを抱えたレイミーの体がふわりと浮いた。


「ひぇー」


 情けない声を出したレイミーであったが、次の瞬間ものすごく安定した。


「カゴの上にこれも乗せておきなさい」


 そう言ってレイミーの抱える動くうさぎの入ったカゴの上に麦の穂が一束乗せられた。


「では行ってくる」


 深々と頭を下げるセシリアに軽く手を挙げて、国王陛下アルベルトは大切な(まだつがっていない)のレイミーを抱えて大股に歩き出す。

 そうして着いたのはこの間の大聖堂だ。


「うわわわわ」


 建国記念とは違い、何やらカラフルで可愛らしい装飾になっている大聖堂を見てレイミーは驚いた。あちこちにたまごが飾られ、うさぎの像が置かれている。しかもうさぎは下半身がたまごの殻に入っているものが時々いた。


「ようこそ」


 低いけれど耳障りのいい声がして、レイミーが床に降ろされた。


「五穀豊穣と子孫繁栄を」


 そう言って、アルベルトはレイミーの手からカゴを受け取り、祭壇の前に置いた。

 教皇が祈るのに合わせてアルベルトが目を閉じたので、隣に立つレイミーも同じようにした。今まで教会では端の方に座っていたから、実際神父が何をしているのかなんて見たことがなかったのだ。こうやって祈りを捧げ、それからうさぎのたまごが始まっていたというわけだ。

 しかし、何故うさぎがたまご?


「レイミー、あれを見なさい」


 祈りが終わったあと、大聖堂の中庭を示され見てみれば、沢山のうさぎが見えた。


「毎年一羽神に捧げる。だからここにはうさぎが沢山いるのだ」

「ほえぇ」


 どうやらうさぎは食べられてしまう訳ではなくでレイミーはほっと胸を撫で下ろした。


「そして、これだ」


 次に示されたのはステンドグラス。昼の陽射しを浴びて色鮮やかな図柄が目に眩しい。


「ふぁ」


 そこに描かれているのはレイミーの知らない話だった。神の手から生まれたたまごからうさぎが出てきている。そのうさぎがあちこちに走り去って行く。


「たまごから生まれたうさぎは神の使いだ」

「神様の」

「実際のうさぎは卵など産まないからな。子孫繁栄の象徴がうさぎだ。分かるか?」

「子孫繁栄」


 レイミーは黙り込む。子孫繁栄、ちょっと難しいが、それを今日のこの日に国中で祈るのだ。


「お前の実家、マイヤー家は正に子孫繁栄の象徴のようなものであろう?」


 そう言ってアルベルトはレイミーを抱き上げた。そう、マイヤー子爵家改め伯爵家は貧乏子沢山と揶揄されてきた。今では子孫繁栄の見本のような貴族家である。


「じゃあ、僕はうさぎですね」

「そうだな」


 そんな会話をしたからなのか、どうかは定かではないが、この後開催されたうさぎのたまごの会場で、レイミーの頭に可愛らしいうさぎの耳が着いていたのは国王陛下アルベルトの名において公然の秘密となったのは言うまでもないのである。

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