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無自覚な悪役令息は無双する  作者: ひよっと丸


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第30話 僕もやりたいんです


「それが宿題にございますか」


 学園からの帰りの馬車で、セシリアはレイミーの取り出したモノを見て首を傾げた。セシルも学園を卒業した身の上なので、分からないことはない。が、宿題なんて大層なものだっただろうか?


「これに絵を描いて、中に宝物を入れるんです」


 ふんすっとレイミーの鼻息が荒い。


「こちらは学園で使われるのですか?」


 なんとなくだが、記憶にあるのでセシリアは探りを入れてみる。


「違うよ。僕たちの作ったたまごを教会に寄付するの。教会で謝肉祭の時に使うんだって」


 レイミーの話を聞いて、セシリアはようやく答えが見つかった。教会で行われる謝肉祭は神からのめぐみに感謝するお祭りで、五穀豊穣と子孫繁栄を祈る祭りだ。全ての家庭で玄関先に麦の穂とうさぎを飾る。子どもたちだけが参加出来る催物として、たまご探しがあるのだ。昔はホンモノのたまごを探していたらしいが、今では作りもののたまごを大人が隠し、子どもが探すというある種の宝探しゲームのようなものになっている。たまごの中にはお菓子やおもちゃなどが入っているので、子ども達はお目当てのたまごを必死に探すのだ。もとろん、貴族家庭においては時分の邸の庭で行うのが普通である。


「僕も参加したかったなぁ」


 やはり、と言うレイミーのつぶやきを聞いてセシリアは悟った。そう、マイヤー子爵家は貧乏子沢山なのだ。それ故に本来貴族の家庭の子どもたちは参加しないはずの教会での謝肉祭に(以下略)


「レイミー様、中には何を入れられるのですか?」


 たまごの入れ物にどんな絵を描こうか考えているレイミーに、後宮の女官セシリアは聞いてみた。散々参加してきたのだろうから、中身については熟知しているだろう。だからこそ、とんでもなく高価なものを入れられても困ると言うものだ。


「お菓子かなぁ、ぬいぐるみもいいよね」


 レイミーの頭の中で思いつくお菓子はきっとふわふわしているに違いない。いやいや、そのふわふわしたお菓子は溶けてしまうから絶対に入れてはダメなやつだ。


「お菓子でしたら、焼き菓子のご用意を致します。ぬいぐるみですとやはりうさぎでございますね」


 レイミーの口からレイのふわふわしたものの名称が出てくる前に、セシリアは先手を打った。そうしないととんでもないことになる。まがり間違ってもレイミーの考えを否定して泣かせるようなことがあってはならないのだから。


「焼き菓子……」


 その言葉を口にしてわかりやすいぐらいに落ち込んだレイミーを見て、セシリアはやはりと思うのだ。


「レイミー様、謝肉祭のたまご探しは外で行いますから、飴などは溶けて形が崩れてしまうので向かないのですよ」


 できるだけやんわりと、直接的でなく、でもしっかりとクギを刺さねばならない。そうしないと、とんでもなく面倒なことになるからだ。


「うーん、じゃぁ僕たちうさぎさんのぬいぐるににします。お裁縫は得意なんです」


 ふんすっと鼻息荒く宣言をするレイミーを、またもや説き伏せなくてはならないセシリアは、きっと閨でとんでもないことになる。そう、嫌な予感を胸に抱いたのであった。


「陛下、うさぎのたまごって知ってますか?」


 案の定。閨での話は謝肉祭だ。


「うさぎはたまごを産まないぞ」


 分かっているけど、ついつい口にしてしまうアルファの国王アルベルトなのである。


「違います。謝肉祭の催し物です」


 むうっと、レイミーが唇を尖らせると、アルベルトはその唇にちょっかいを出したくてたまらないのだが、ここは我慢の一択である。


「ああ、うさぎを入れたたまごを探すやつだな」


 優秀なアルファの国王陛下であるアルベルトはもちろん知っている。幼少の頃、後宮でやったことがあるからだ。隠したのはオメガの母であったから、幼子であったとはいえアルファのアルベルトは匂いで全部見つけてしまった。しかも、あっさりと。それ以来、アルベルトは隠す側になり、探すのは後宮の侍女たちになったのは言うまでもない。


「お菓子も入れます」


 レイミーが、力説するのでアルベルトは素直に「そうか」と答えるのだった。要はあれだ、探す相手に合わせて中身を変えるのだ。侍女たちが探した時は、たまごの中身はシルクのハンカチや髪飾りなどを入れておいたものだ。菓子を入れるあたり、レイミーはまだまだお子様なのだとアルベルトは改めて思うのだ。


「それで、どうしたいのだ?」


 アルベルトにとって大切な(まだつがっていない)であるレイミーが閨でお願いごとをしてきた(多分)のだ。願いは叶えなくてはならない。それがたとえどんなに困難であったとしても。


「僕もうさぎのたまごに参加したいです」


 思わず即答で「それはダメだ」と言ってしまいそうになったアルベルトであったが、すんでのところで押しとどめ、素早く代替案を提示する。


「レイミー、お前はもう子どもでは無い。だから参加は出来ないだろう。だから、開催すればいい」


 またもや否定された。と思った途端、なんと、素晴らしい提案がやってきた。さすがはキングオブアルファの国王陛下アルベルトである。レイミーには思いもよらない素晴らしい発想である。


「開催?僕が?」


 何度も瞬きをする愛しの(まだつがってはいない)の仕草が可愛すぎて憤死寸前のアルベルトではあるが、そこは閨である。薄暗いからバレることは無い。


「この間サーカスを開催したでは無いか」

「あれは陛下がしてくださったんです」

「お前が望めば容易い事だ。それに、お前の弟妹たちも教会のには参加なんか出来ないぞ」

「え?」


 衝撃的な事実を知り、レイミーはわかりやすいぐらい落ち込んだ。そうだった。建国記念のお祭りの時、弟妹たちは無料のサーカスをみにいけなかったのだ。もうマイヤー子爵家、もといマイヤー伯爵家は貧乏子沢山ではなくなっているのだ。下級貴族ではなく、中級貴族だ。しかも貧乏じゃない。レイミーの給金のおかげだけど。


「そんな、みんなが可哀想だ」


 泣きそうな顔をして、唇を尖らせてレイミーが不満をぶちまける。みんな楽しみにしているのだ。年に一度のお宝探し。美味しいおやつや素敵なおもちゃを手に入れる一大イベントだと言うのに。


「だからお前が開催すればいい。貴族の家庭では祖父母が一族の子どもたちを集めて開催すると聞いている。だからお前が開催して弟妹たちを呼べばいい」

「いいんですか」


 途端レイミーの鼻息が荒くなる。この話題に食いついた。食いついてもう離さない。


「ただし、この間は平民の子らを招待したから、今回は貴族の子らを招待しなさい。何事も平等にしなくてはならないからな」

「分かりました。僕頑張ります」

「招待状の手配などはセシリアに任せるといい」


 そう言ってアルベルトがレイミーの頭をひとなですれば、柔らかなアルファのフェロモンに包まれてレイミーはあっという間に夢の世界に旅立つのであった。





「レイミー様、お聞きしたいことがございます」


 学園で、いつもとは違う遠慮がちな声でエミリアが聞いてきた。


「はい、なんでしょう?」


 最近では込み入った話は食堂で食事をしながらしてきたが、どうも今回は違うらしい。いや、エミリアは廊下から様子を伺いに来ているほかのクラスの生徒たちに聞こえるようにあえて教室で聞いてきたのだ。もちろん、そんな意図はレイミーには伝わらないのだが。


「レイミー様から招待状が、届きましたの。お城でうさぎのたまごを開催されるのですか?」


 エミリアが、一言一言区切るように、やけにハッキリとした発音で聞いているのは、もちろん廊下にまで聞こえるように、だ。


「エミリア様にも届いたんですか?」


 子どもじゃないからレイミーは参加出来ないとアルベルトに言われたのに。もっとも招待状を手配したのはセシリアだから、誰に送ったのかなんてレイミーは知る由もない。


「いいえ、違います。学園に通っていない弟がおりますので、弟あてに届きましたの」

「そうなんですね。この間のサーカスは第3騎士団の平民の子を招待したから、今回は貴族の子を招待しなさい。って陛下に言われたんです」


 バカ正直に答えるレイミーをエミリアは多少なりとも心配した。そんな裏事情は口にしてはダメだろう。だが、そんな所もレイミーらしくてオメガらしいというものだ。


「そうなんですね。安心しました。陛下のお許しがあるのなら」


 あえて廊下の方に向かって演説をするかのように話をするエミリアは、少しおかしな態度なのだが、レイミーは全く気にしない。


「そうなんです。陛下がうさぎのたまごをやっていい。って言っくださったんで、僕沢山用意するんです」

「沢山、でございますか?」

「そうです。沢山のたまごを用意するんです」


 ふんすっと、レイミーの鼻がなる。


「まぁ、なんて素敵なのかしら。弟がとても楽しみにしておりますの」

「それは良かったです。ぜひぜひ来てくださいね」


 両手を小さな握りこぶしにしてレイミーが力いっぱい返事をしたところで、廊下から人気が引いて行ったのだった。もちろん、誰もが思った。招待状が届いたけれど、謝肉祭までもう二週間程しかないのだ。貴族の子どもの分のうさぎのたまごを沢山用意するなんて、間に合うのだろうか?いや、間に合わせるのだろう。きっと招待状が届いてどこの貴族の家庭も謝肉祭当日のうさぎのたまごを取りやめにしたに違いない。時間は午後のおやつの時間である。

 きっと、大勢の誰かが不眠不休で準備をするのだ。

 もちろん、そんなことはレイミーが知る由もないのだけれど。


 

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