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無自覚な悪役令息は無双する  作者: ひよっと丸


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第29話 仰せのままに、ではないのだよ


「処罰せよ」

「なりません」

「なぜだ」

「レイミー様が望んでおりません」


 ハッキリきっぱり女官のセシリアは国王陛下アルベルトにお断わり申し上げた。

 本来なら国王陛下の鶴の一声でお家取り潰しは断行されるものなのだが、なぜだかたかだか後宮の女官のセシリアが止めてきた。事の次第を報告しに来たというのに、いったい何がしたいのか、考えあぐねてアルベルトは首を傾げた。


「レイミーが望んでいない?」

「左様にございます」

「あれは優しいから言えないだけだろう」

「違います」

「なぜわかる」

「報告にございました。レイミー様はぶつかった令嬢とワゴンを押していた給仕に怪我がなかったのか心配されていた。と」

「なるほど」


 思わずふんっとアルベルトは鼻を鳴らした。


「陛下が先回りをしてそのような無体なことをしてしまわれますと、レイミー様の悪評が立ちます」

「なぜだ」


 思わずアルベルトは取り乱し立ち上がった。アルファの国王であるアルベルトが立てば、ベータで女官のセシリアはとても小さく見えた。だがしかし、セシリアはひるむなんてことはしない。


「報復でお家取り潰しなどをしてしまえば、レイミー様は後宮随一の寵姫で国王陛下を意のままに操る性悪オメガとささやかれてしまいます」


 セシリアにはっきりと言われてしまい、アルベルトは腰を下ろした。そして銀の盃の水を飲み干す。


「アルファとオメガの内情を知らないベータは面白おかしく噂話をするのです。件の令嬢はマーガレット様の妹君にございます。一族の中でオメガがどのような地位に座するのか知らなかったが故の行為でしょう」

「ふむ。マーガレットにはよくしてもらったからな、無下には出来ぬ」

「明日になれば、マーガレット様から陳情書が届きますでしょう?その前に対処すべきです」

「いかように?」

「お見舞いの品をおくればいいのです。もちろんレイミー様の名前で」

「ふむ、良しとしよう」

「かしこまりました。噂はいずれ隣国にも届きますでしょう」


 女官のセシリアはそう告げると国王陛下アルベルトの御前を後にした。




「こちらの飴細工をこの箱に」


 女官セシリアは仕事が早かった。

 国王陛下アルベルトから許可さえ出れば、あとはセシリアの独断上だ。あくまでも心優しいレイミーの代理として最適なことをすればいいのだから。つまり、高価な品は送らない。あくまでもレイミーは貧乏子沢山のマイヤー元子爵家の長男なのだから。


「こ、このような立派なお箱に?」


 城下町の飴屋は狼狽えた。だってそうだろう。突然黒い箱馬車でやってきたのは城仕えの女官で、差し出されたのは何やらの家紋が付いた立派な桐箱だ。


「そうです。この箱はマイヤー伯爵家のもの。お届け物としてこちらの飴細工が指定されました」


 しれっと述べるセシリアであるが、もちろんそんな指定は受けてなどいない。ただ単にレイミーが大好きな綿菓子が使えないから飴細工になっただけだ。


「かしこまりました」


 マイヤー伯爵家と聞いてすぐにピンと来た飴屋はなかなか頭の回転が早かった。もちろんうわさ話に敏感なこともあるが、何よりこの飴屋はこの間城内で開催されたサーカスの際出店していたのだ。だからマイヤー伯爵家と聞いてすぐに理解した。そうつまり、この飴細工を入用としているのはマイヤー伯爵ではなくあのお坊ちゃまだ。


「犬、猫、鳥、兎とございますが、今回も全部で?」

「もちろんです」

「直ぐにご用意致します」


 飴屋はすぐに思い出した。そう、あの日も全てを一つづつ用意させられた。間違いなくこ女官だ。全て用意したら一つづつじっくりと吟味されたのだ。そして、鳥のくちばしをもっと丸く、うさぎの耳は垂れた状態に、と注文をつけられたのを思い出した。


「あの、店にあるものはうさぎの耳が上を向いておりまして」

「構いません。贈り物ですから」

「左様で」


 飴屋は一つ一つ確認をして箱の中に丁寧に並べた。箱には元から綺麗な布が敷かれていたから、飴細工が動かないようにきっちりと詰め込んでみた。


「このような感じでいかがでしょう?」


 作り置きにかぎりがあったので、箱の真ん中には丸いうずまき模様の飴を置いてみた。そうでもしないと箱が埋まらなかったのだ。


「あら、なかなか、可愛らしい」


 箱の中を眺めてセシリアは満足そうに微笑んだ。


「お代はこちらで」


 セシリアはカウンターに金貨を一枚置いた。もちろん、店中の飴細工を買い占めたのだから、それで足りるかどうかなど分かってなどいない。


「お、お釣りのご用意を」

「いりません」

「いや、しかし」


 箱に詰めた飴細工は確かに店の在庫全てであったが、買い占められた訳では無い。なぜなら店に展示してある飴細工は見本なのだ。だから色や形が全てバラバラなのだ。


「お釣りは受け取りません。理由はわかるでしょう?」


 セシリアが、そう居丈高に伝えれば、飴屋は黙って頷いた。

 そうしてセシリアは飴細工の入った箱を持ち、向かった先は件の令嬢の家だ。本人はまだ帰宅していないはずだ。何事も先手必勝である。


「伯爵様はご在宅で?」


 立派な箱馬車から降りてきた女性が着ているものは女官の制服。しかも恭しく匣を両手で持っている。これは一大事と執事が伯爵夫人を急いで応接室に連れてきた。

 応接室のソファーでは、女官のセシリアが優雅にお茶を飲んでいた。最早身分がどうのの問題では無い。城仕えの女官がやってきたことが問題だ。まさか、今更オメガの娘を後宮に戻せと言うのかと伯爵夫人がドキドキしていると、セシリアの口からまさかの言葉が飛び出した。

 伯爵夫人の顔が見る間に青ざめていくが、セシリアは気にしない。


「レイミー様がとても心配なされておりました。こちらはお見舞いの品にございます」


 そして出されたのは先ほどの飴細工が詰まった箱である。見慣れない家紋がマイヤー伯爵家のものだと伯爵夫人は瞬時に理解した。


「なんて、お心のお優しい」


 伯爵夫人は心の底から感謝した。そうして、家族全員が揃って箱を開けた時、全員が箱に向かってひれ伏したのは言うまでもなかった。なにしろ箱の真ん中にはうずまき模様の丸い飴が鎮座していたのだから。

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