第24話 オメガのワガママは全てゆるされる
「僕も見たかった」
建国祭が終わった翌朝、レイミーがしくしくと泣いていた。
焦ったのは朝の言葉をかけた侍女だ。何しろ国王陛下アルベルトの起床よりも早く寵姫のレイミーの泣き声が聞こえてきたのだから。
だがそれでも、朝のお約束をやめるわけにはいかず、侍女は定刻通りに言葉をかけた。
「何を泣いているのだ」
国王アルベルトは起きたけれど、泣いているレイミーに困っている様子だった。だから天蓋を開けるわけにもいかず、着替えを持った侍従たちも黙って立っているしかなかった。
「僕も、サーカスが見たかった」
レイミーが泣きながら訴える。
「サーカス?」
言われたところでアルベルトには何のことだかわからなかった。もちろんサーカスぐらいは知っている。だが、なぜレイミーがそのことで泣いているのか理解ができないのだ。
ぐずぐずと泣くレイミーをあやすアルベルトだが、どうにもレイミーが泣き止まない。レイミーが泣いているから、天蓋を開けることができない。だから着替えができない。こんな困った状況を打ち破る者が一人いた。
「陛下、レイミー様が見たかったサーカスとは建国祭の折に広場に出ていた無料のサーカスにございます」
セシリアが素早く寝台の周りを動き、国王陛下アルベルトのそばで囁いた。
「サーカスは幼子が見るものであろう?」
アルベルトの放った言葉がひどかった。
「わーーん。僕は毎年サーカスを楽しみにしていたんですぅ」
余計にレイミーを泣かせてしまった。
よく考えればわかることである。レイミーの実家、マイヤー子爵家は貧乏子だくさん。娯楽なんか無いに等しいのだ。年に一回無料で見られるサーカスは何よりの娯楽、重大な楽しみなのだ。それを幼子のものだなんてあんまりなのである。
「毎年、兄妹みんなでサーカスを見るのが唯一の楽しみだったのに。僕も見てない、弟たちも見てないんですぅ」
そう言ってレイミーはさらに大きな声で泣いた。
そう、レイミーは晩餐会の後知らされたのだ、レイミーの立場上、幼い弟妹たちだけでサーカスを見に行けなくなったことを。
「だがしかし、サーカスはもう移動してしまったのだぞ」
国王陛下アルベルトは知っていた。サーカスが移動するということを。建国記念日に合わせて王都に幕を張り、終われば移動してしまうのだ。建国記念の際に無料なのは国王陛下の名前で大金が支払われていたからだ。その後回る巡業ではお金をとるが、王都の半額にはなっている。そして再び王都の戻ってきたら、通常の巡業に戻るというわけだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁん」
それを聞いてレイミーはより一層大きな声で泣いた。もう赤子のように泣いて許される年齢ではないが、レイミーはオメガである。アルファの前で泣いて許される唯一なのである。
「ああ、泣くな。サーカスぐらい呼べばよかろう」
国王陛下アルベルトが実に国王陛下らしい事を言った。いや、言ってしまった。
「呼べばよかろう。なんて、そんなひどい」
ぐずぐずしながらもレイミーが抗議の声をあげると、すかさず女官のセシリアが助言をした。
「レイミー様、陛下がお許し下さったのですからサーカスを呼びましょう。御兄弟を招けばよろしいのです」
「え?呼べるの?弟たちも一緒に見ていいの?」
泣き顔から一転、レイミーの顔が花が咲いたように輝いた。
「もちろんだ、呼びなさい」
レイミーの花が咲いたような笑顔を見てしまった国王陛下アルベルトは軽く咳ばらいをした。つまりあれだ、見るな。ということである。
「やったぁ。ありがとうございます。陛下」
素直に喜ぶレイミーを見て、その場に居合わせた全員が安堵したのであった。




