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無自覚な悪役令息は無双する  作者: ひよっと丸


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第22話 とっても楽しいんです


「どうぞ、陛下」


 建国記念祭は花火が上がり朝からお祭り騒ぎだ。もちろん、前夜祭などと言って城下町では夜通し盛り上がっていた。そんなことができるのは、国家間で戦争も小競り合いもないからだ。平和であるからこそ、国の治安もいいのである。そして何より、有能なアルファの王が国を治めているからこそ、国民に不満が生れない治世なのである。そもそも城下で前夜祭などと言って夜通し騒いでいたのには理由がある。王国の太陽である国王アルベルトが、建国記念の朝は夜明けと共にテラスから挨拶をするからである。そんなわけで城下では夜明けとともに国王の姿を見ようと人々が集まるのだ。もちろん、国王アルベルトが立つテラスは、太陽の登る位置に設置されている。上る太陽を背に建国の挨拶をするのだ。その時に菓子や酒がふるまわれるから、この日だけは城下の民は早起きをするのである。

 そんなわけで夜明けから建国の挨拶をした第48代国王アルベルトは、部屋にもどり朝食を食べていた。普段はアルベルトがかいがいしくレイミーの世話を焼いているのだが、今日はレイミーがアルベルトの世話を焼いていた。とはいっても口に入れるのではなく、水の入ったコップを渡したり、ちぎったパンを渡すだけなのだが、アルベルトは嬉しそうに食べている。


「ほら、お前も食べなさい。今日は一日長いのだぞ」


 レイミーの口に入れてきたのはスープの中の肉団子だった。しっとりとした肉団子はとても柔らかく、上あごの力だけで口の中で優しくほどけていった。


「おいしー」


 口の中に広がったスープの味わいと肉汁に、思わずレイミーが声をあげる。だって、貧乏子だくさんのマイヤー家で肉団子と言ったら、かさましもかさましされて、食感が大変よろしくなかったのだ。レイミーが喜ぶものだから、アルベルトはレイミーの口にやたらと肉団子をいれてきて、途中で気が付きパンをちぎって押し込んできたほどだ。その間にレイミーはいろいろな食べ物をアルベルトに渡していたのだけれど。


「お手手水が済みましたら、大聖堂で演説にございます」


 普段見かけない人がやってきて、スケジュールを伝えてきた。本日の国王陛下アルベルトは移動も多くとにかくしゃべり倒さなくてはいけないらしい。だから、レイミーはアルベルトのために水差しを持ってそばに立っていることが、本日のレイミーの仕事なのである。


「レイミー様、お手手水が済みましたらお召し替えにございます」

「え?僕も着替えるの?」


 さっき日の出の挨拶のために着た服を脱がされて、白を基調とした服に着替えさせられた。大聖堂に入るため、厳粛な格好をしなくてはならないらしい。今度の服もこの間決めた服と違っていた。つまり、まだレイミーは着替えさせられるということだ。


「さて行くぞ」


 軽い感じでアルベルトがやってきて、レイミーの姿を確認すると、片手で簡単に抱き上げ大股でスタスタと廊下を歩く。行き先は大聖堂だ。つまりは城の外に出なくてはならない。城と大聖堂をつなぐ専用の廊下は、城下が見渡せるようになっていた。だから、レイミーを片手で抱っこした国王陛下アルベルトは、集まっている国民に片手をあげて挨拶をしていた。だが、レイミーは抱えられて不安定なうえに水差しを持っているから、とてもじゃないけれど挨拶をする余裕なんてなかった。それに、アルベルトがレイミーを隠すように抱きかかえているから、国民のほとんどがレイミーの姿を見ることがなかった。


「うわぁ」


 大聖堂に入ってレイミーはため息をついた。特別な日に特別な人しか入れないという大聖堂。話にしか聞いたことがなかったので、頭の中で想像してきた。だけど、レイミーの少ない知識での想像なんて及ばないほどに、大聖堂の中は神々しく美しく壮大だった。だって、ステンドグラスの描く模様は美しく、日の光を浴びてキラキラと輝いているし、白い大理石の床はピカピカで、敷かれた絨毯は毛足が整い大変すばらしい光沢があった。なにより居並ぶ貴族たちの服装がすごかった。手前の方の人は胸にたくさんの勲章のようなバッチを付けているし、女の人が着ているドレスは光沢があってとても重たそうに見えた。

 そんな中、国王陛下アルベルトはレイミーを抱きかかえたまま大聖堂の奥までやってきて、恭しく教皇の前で一礼した。レイミーのことを傍らに立たせ、片膝をついて教皇から聖杯を受け取る。中身は水なのだが、聖杯に入っているから聖なる水だ。アルベルトは一口飲んでその中身を大聖堂にまいた。当然前にいる人が沢山被るわけなのだが、それこそが重要なことなので、位の高い貴族ほど前に並んでいるというわけだ。もちろんレイミーの頭にも降ってきた。


(あんな大きなコップを振り回すだなんて王様ってすごいんだなぁ)


 額に水を滴らせながら、レイミーは聖なる水のありがたさなんてこれっぽちもわかっていなかったのである。

 そんなレイミーを隣に立たせ、国王陛下アルベルトは集まった臣下貴族たちに話をする。あらかじめ決められた話なのだが、何も見ずにすらすらと話せてしまえるのだから、アルファの王とは大変記憶力がよろしいのだ。話す内容は政治に始まり農業のこと、国民の暮らしぶりだったり近隣諸国との関係性だったり、臣下への誉め言葉だったりといろいろだ。そんな中、とってつけたかのように隣国の姫との婚約の話をした。これでやっと終わったのかと思いきや、レイミーの身体が宙に浮いた。


「これは余のオメガである。よく覚えておくように」


 アルファの王が本日一番大切な宣言をした。


 

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