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無自覚な悪役令息は無双する  作者: ひよっと丸


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第18話 僕のお勤め頑張りたいです


「あの、レイミー様」


 セシリアはレイミーが持ち帰ってきた衣装を前に困惑した。マーガレットとリリィが仕立てた豪華なドレスはすぐさまマイヤー子爵家へと送る手配を整えた。だが、こちらの衣装箱に入っている品は、とてもじゃないけど誰かにあげるなんてことは出来ない。セシリアが箱の中身とにらめっこしていると、ジルが呑気な声を出した。


「すっごい、スケスケ」


 おもむろに一枚を掴んで取り出したのだ。スケスケとは言っても、繊細なレースを幾重にも重ねているから隠すところはちゃんと隠れるだろう。だが、これの用途を考えると、なんとも無駄に贅沢な品物だった。


「すごく綺麗なレースですね」


 ジルがつまんだ一枚をレイミーが凝視した。貧乏子沢山なマイヤー子爵家に、こんなみごとなレースが存在した試しはない。妹たちの着替えを手伝ってきたレイミーではあるが、コルセットなんて上等な下着はマイヤー子爵家に存在はしなかった。妹たちはいつも簡素なワンピースのようなドレスを着ていた。もちろん古着屋で購入した品だ。


「ドレスの下に着るものですか?」


 だからレイミーがこんな質問をしても仕方の無い事だった。だって、見た事がないのだから。


「違うよ」


 ジルはちょっと笑ってから、少し考えてみる仕草をした。面白いんだけど、ここで下手をしたら後宮の勤めが不意になる。


「これはね、閨で着る衣装だよ」

「閨で着る?」


 レイミーは驚いた。

 さすがは後宮である。閨専用の衣装があるなんて。つまり、これがレイミーの制服なのだ。これは困った。全く着方が分からないし、なんだか小さい気がする。


「ぼ、僕の体には小さすぎませんか?」


 一枚とって体に当ててみる。どう考えても隠せるのは胴体だけだ。いや、そもそもお尻だって隠せない気がする。


「でもそれ、そういうもんだから」


 ジルが笑いながら答えるから、レイミーは困惑した。そういうもの?そういうものって、どういうものなのだろう。レイミーはじっくりと眺めてみるが、まったく分からなかった。


「ま、物は試しに着てみればいいよ」


 ジルがそう言ってレイミーの着ている服を脱がしにかかる。セシリアはもう止める気力も無くなっていた。確かにレイミーはオメガで、国王陛下の閨の相手をするために後宮に連れてこられたのだが、まだ発情期もきていない未成年なのだ。陛下に気に入られはしたが、閨の相手はどうにも無理だ。その下着を着たところで、ガリガリでヒョロヒョロの体はどうにもならないだろう。


「うひゃあ」


 レイミーのおかしな声を聞いてセシリアは我に返った。顔を上げればレイミーがレースたっぷりの下着を身につけて顔を真っ赤にしているところだった。脱がされた服は床にばらまかれていて、ジルが本当に適当にやったことがよく分かる。


「レイミー様」


 似合っていると言えば似合っている。言い方を変えれば華奢で小柄で色が白いか弱いオメガだ。繊細なレースがその線の細さを強調してアルファの庇護欲をそそるだろう。だが、女性と違ってレイミーはオメガといえどもしっかりと男子である。で、あるから、隠したいものが隠せていない。真っ赤な顔でレイミーは必死に隠そうとしていた。


「俺はこれはコレでかなりいいと思うけど」


 同意を求めらて、セシリアはうんざりした。ジルのこういうところは娼館で培われてきた感覚なのだろう。まぁ、言ってしまえば後宮は国王陛下専用の娼館みたいなものだから、今更下品だなんだというわけにもいかない。なにせ、それはマーガレットとリリィから下賜された品なのだから。


「今夜はそちらを着て閨に参りましょう」


 セシリアが決断をした。

 そうして衣装係が必死で間に合わせたヒスイの着いたチョーカーを首に着け、レイミーは閨へと向かった。先輩からの贈り物を身につけるのは一種の習わしらしい。安全を祈っていると言う事だ。可愛がられますように、と言う意味も込められている。


「僕頑張ります」


 閨にあるのは大きな寝台一つ。入口はひとつで窓は無い。複数の侍女がしっかりと整え、最後はセシリアが枕の下シーツの間を確認した。


「それではレイミー様、明日の夜明けにお迎えに参ります」


 セシリアが、一礼をすると扉が静かにしまっていった。これから陛下がお渡りになる。何分後なのから何時間後なのか分からないけれど、レイミーの初めてのお勤めなのだ。ジルの説明はよく分からなかったけれど、レイミーのおへその辺りまである何かを陛下がお持ちなのだ。それをレイミーが迎え入れればいいらしい。レイミーはレースの下にある自分のヘソをみて、ぎゅっと拳を握りしめた。


「待たせた」


 朝に聞いた時より腹に響く声がして、レイミーの緊張は高まった。はめ殺しの天窓からの月明かりしか無かったところに、ランプを持った国王陛下アルベルトが現れて、部屋の中が明るくなった。

 アルベルトはランプを寝台の脇に吊るすと、レイミーをじっくりと見た。朝みた時と同じように化粧っ気のない顔、手の爪にも何も施されてなどいない。身につけているのはおそらく伯爵令嬢である寵姫からのお下がりであるレースの下着だ。男ではあるがオメガであるから、華奢な体にはそれなりにフィットしている。だが、どうにも細すぎる。力加減を間違えば、簡単に折れてしまいそうな程に細い。


「どれ」


 あの二人ほどでは無いが、微かに香るのはオメガの匂い。今朝膝に乗せて確認したが、なんとも愛らしかった。オメガという存在が、こんなにも可愛らしいとは思ってもみなかった。国民を守るべきと常に自分を律してきたが、なるほどアルファはオメガを守るのだと今朝知ったアルベルトなのだった。

 それにしても、アルファのフェロモンを出しているにもかかわらず、目の前のオメガであるレイミーが全く反応しない。胸の前で指を組んでモジモジとしているだけだ。さてどうしたものかとアルベルトは考えた。前任の二人はフェロモンを嗅いで反応を示していたから、そのまま閨ごとに及んでいたし、ジルはベータであるから自分で準備を施して待っていた。それでも手順は守ってはしいと言われていたから、いきなりとかそういった下品な行動はしたことがない。だがしかし、これは如何したことかとアルベルトは考えた。


「どうした?閨ごとはしないのか?」


 あえて聞いてみれば、目の前の小さなオメガは意を決したように顔を上げ、口を開いた。


「僕のお臍まである陛下のものを受け入れることです」


 それを聞いたとたん、アルベルトの頭は真っ白になった。何を言われたのかまったく理解できなかったからだ。膝をシーツにつけて寝台の上に座り込む、線の細いオメガ。繊細なレースの向こうにある薄い腹にある小さなくぼみが見えた。それが臍であることぐらいアルベルトにだってわかることだ。おそらく説明したのは男娼のジルだろう。はっきり伝えているようで、実際はなんとも回りくどいことを言っている。


「お前の臍まで届く、か」


 そう言って、繊細なレースの上から小さなくぼみを指先で押してみた。なんとも頼りなく、それでいて柔らかい。


「して、どこからここまで届くのだ?」


 口の端を軽く上げながら聞いてみれば、緑色の大きな瞳がさらに大きくなり、指先をじっと見つめ、そのあと視線があちこち彷徨っているのがみてとれた。


「え、あ、あの、ど、どこかは、聞いていなくて」

「そうか、それが分からなければ閨ごとはできないな」


 アルベルトがそう答えると、緑色の大きな瞳から涙があふれた。


「ぼ、僕、お仕事できないですか」


 ぼろぼろと涙を流すのが不思議すぎて、アルベルトはしばらく眺めていた。だが、いつまでたっても泣き止むようすがなさそうなので、仕方なく自身の膝の上に座らせてあやすように背中をたたいた。


「なぜ泣く?」

「僕がお仕事できないと、お給金がもらえません。お給金がもらえないと僕のうちは貧乏のままです」

「そうか。お前の仕事は閨ごとだけではない。余の相手をすることだ」

「陛下のお相手ですか?」

「そうだ、だから一緒に食事をしたり話し相手をしたり一緒に寝たりする。今朝は毒味をしたではないか」

「はい、しました」

「だから今は一緒に寝ることが仕事だな」

「閨とは一緒に寝ることなのですか?」

「大雑把に言ってしまえばそうだな」


 寝るという言葉の意味が多いに違うけど。


「わかりました。僕、陛下を寝かしつけて見せます」


 ふんすっと鼻息荒く、レイミーは国王陛下アルベルトの頭を抱え込んだ。


「では寝物語を一つ聞かせましょう」


 だてに妹と弟合わせて五人を寝かしつけてきたお兄ちゃんではない。本などなくてもレイミーの頭の中には物語が入っている。教会から貰った絵本の内容は毎晩毎晩読んで聞かせてきたから、すらすらと口から出てくる。何しろ貧乏子だくさんのマイヤー子爵家はには、絵本と言ったらそれ一冊しかなかったのだから。


「……シンシアは意地悪なアルファの姉に舞踏会で置いてきぼりにされてしまいました。壁際で一人困っているシンシアに声をかけてきた人がいます。「なんて素敵な匂いなんだ」そう言ってシンシアの髪をひとふさ取り口づけます。その途端、シンシアとその人の周りにかぐわしいバラの香りが広まったのです。二人はバラの香りに包まれながら軽やかに踊りだしました。誰も二人を止めることができません。二人はバラの香りに包まれながら、お城の庭で熱く結ばれたのでした。……おしまい」


 レイミーが最後まで物語を語り終えた時、大きな寝台の上でアルベルトと二人で横たわっていた。ただ、いつの間にかにレイミーがアルベルトに抱きしめられるような体勢になっていた。


「なかなか面白かった。明日も聞かせてくれ」

「はい」


 ぽんぽんとアルベルトが上掛けの上からレイミー腹を優しくたたく。ずっと妹や弟たちにレイミーがしてきたことだ。なんだかうれしくなってレイミーはゆるりとほほ笑み、そうして瞼を閉じたのだった。

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