第12話 手とり足とり腰取りか、ぶっつけ本番で
レイミーの告白に、ジルは固まった。
実際思考は停止したし、それに伴い瞬きも止まった。大きな瞳は見開かれたままで、クルクルと指先で弄んでいた自慢の淡い金髪が、指先に絡みついたままになってしまった。
「はぁぁぁあ?」
最後のあは、ちょっと低音だったかもしれない。城下で人気ナンバーワンだった男娼が出していい声ではなかった。いや違う、問題点はそこじゃない。
「発情期が、まだ……」
声に出してみると、なかなかな大問題である。それはつまり、娼館に買い取られた女の子が初潮を迎えていないのと同義だ。わかりやすく言えば商品にならないということだ。ジルは改めて目の前に座るレイミーを見た。柔らかそうな栗色の髪に、緑色の瞳は大きくてくっきりとした二重瞼には長いまつげが沢山ついている。色が白い分、鼻の頭に浮かぶそばかすが目についた。制服を着ているが、きゃしゃな体なのが丸わかりで、オメガらしいといえばそれまでだが、貴族の息子にしては貧租である。
ジルが出した結論は簡単だ。
レイミーは借金の形に後宮に入れられた。
貴族がどこに借金をするのかなんて知らないが、子爵なのにレイミーの格好は貧租だ。貴族家としてのメンツを保つために国から借金をしているのかもしれない。その返済のためにレイミーが、そう考えれば納得できてしまう。だからレイミーが発情期を迎えていないなんてこと、宰相は調べもしないで後宮に送り込んできたのだろう。その証拠にレイミーは学園からここに直接やってきた。まさに着の身着のまま、娼館に売られてきた女の子たちと同じだ。
「でも、アルファのフェロモンを浴びると発情すると聞いています。僕の家両親がベータなのでアルファのご縁が全くなくて」
そうやって自己アピールをしてくるレイミーの健気さにジルは心を打たれた。まるであの日の自分のようだ。たしかレイミーには下に兄弟が沢山いると聞いている。家族のために自分を犠牲に差し出す健気な兄。ジルがいた高級娼館ではままある光景だった。だったら、その心意気を真っ向から受け止めてやるのが先輩の、売れっ子男娼の心意気である。
ジルは心のスイッチをあっという間に切り替えて、お仕事モードになった。
「閨で陛下に何をしたらいいのか、何をされるのか俺が教えるからよく聞いて」
スイッチが切り替わればジルの仕事は早い。かつて娼館で後輩の男娼たちに教えてきたことだ。
「まずさ、男と女で体の違いがあることは知ってるよね?」
ジルがそう言えば、レイミーは「はい」と短く答えた。
「女の身体はさ、男を受け入れるための作りになっているけれど、男はそうはなっちゃいない。じゃあどこで受け入れるのかって言ったら、入り口は一つしかない。でも普段はそこは出口専用だ。閨では入り口にシフトチェンジしなくちゃならないわけだ。俺たちベータの男は、よく洗浄して香油で出口を入り口になる様に指とか道具を使ってほぐして広げるわけだ。でもオメガは違う。オメガはアルファを受け入れられる体のつくりをしているんだよ。そう、発情期を迎えていなかったとしても、アルファのフェロモンを浴びれば自然と受け入れられる体になるっていうわけだ」
ジルの話を黙って聞いていたレイミーであるが、最初に置かれた紙に意味不明なメモを取っていた。自分で書いたメモを見て、しきりに首を傾げている。さすがはオメガ、天然であざとかわいいときたものだ。そんな無垢でいたいけな少年のオメガを、超絶絶倫アルファの閨に送り込もうとしているのだ。もうジルだって高級娼館のやり手ババアとなんら変わらない。
「陛下はね、最初はオメガのご令嬢で満足してたんだって。でもね、陛下ってキングオブアルファなわけ。何もかもが最上位な存在なのよ。つまりね、陛下のアレも最高峰なんだよね。わかる?でっかいの。太いの。長いの。それでもって硬いいんだ」
言われたことをメモしていたレイミーの手がとっまた。
「硬い?硬いのですか?アルファは骨でも入っているのでしょうか?」
レイミーがかまととぶりを発揮した。
んあわけあるかい。てめえのよく確認しやがれ。と言いたいところをジルはぐっとこらえてレイミーに答えた。
「骨なんか入ってないよ。興奮するとそうなるんだよ。レイミー様のだってその時は上向きに立ち上がるからね」
そんなことを言われ、レイミーは思わず見てしまった。服を着ているから見られるわけはないのだけれど。でも、そんなことになるだなんて、人体の神秘だ。とかレイミーは本気で考えていた。
「でね、女の人って限界があるわけ。女の人の身体には行き止まりがあるから。でもね、男の身体には行き止まりがないわけだ。奥の奥まで入れこめちゃうんだよね」
そう言って、ジルは筒のようなものと棒のようなものを紙に書いた。話の流れから何となく理解できるが、レイミーの頭の中ではまったく想像ができてはいなかった。
「わかる?ここら辺がレイミー様のお臍だとすると」
ジルが筒のようなものにバッテンを書く。つまりそれがレイミーの臍を表しているらしい。そして棒のようなものは、
「これが陛下のアレ。奥の奥まで入ってくると、この辺まで来るんだよね。俺の体感だとこの辺なんだけど、レイミー様の身体は俺より小さいから、この辺まで来ちゃうかなぁ」
ジルが棒のようなものをグリグリと塗りつぶしていく。それが臍のバッテンを通り越した時、レイミーが音もなく倒れたのだった。




