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超攻撃型治癒師

その森は、思ったよりもすぐに見つかった。


空気は澄んでおり、柔らかい風が頬を撫でる。

至るところに色とりどりの花が咲き乱れ、森全体を何か温かい存在が覆っているような感覚が、肌に伝わってくる。


優しい結界――その存在は、ゼノも同じように感じているらしかった。

しかし魔の者にとっては、あまり心地の良いものではないようだ。


「スキル――魔力感知……発動」


アーサーは息を殺し、森を慎重に探り始める。まるで心臓の鼓動すら邪魔になるかのように神経を研ぎ澄ませ、目を閉じて意識を深く沈めていった。


空気の流れや葉擦れの音さえ遠ざかり、ただ微かな魔力の波動だけを追っていく。


小さな魔力の揺らぎはいくつも感じ取れる。小動物にまとわりつく残滓、森に散らばる妖精の名残、村人が使った簡単な生活魔法の跡……その全てが淡く瞬き、儚い光となって彼の意識に映し出される。


だが、目指す“奇跡の人”の存在を示すような大きな魔力は、どこにも見当たらなかった。


「見つからない…もしかして……ここじゃないのか?」


アーサーの顔に焦りが浮かぶ。予想が外れたのかという不安が胸を掻きむしる。


「いや、ここで間違いないはずだ。証拠にこの森には、神聖魔法結界が張られている」


ゼノは落ち着いた声音で言い切る。その確信に支えられ、アーサーは再び意識を集中させた。


今度は魔力の大きさではなく、その質をみる――揺らぎの安定性や、発する波動の独自性に焦点を変える。深い湖に小石を落とすように意識を沈め、森の奥に潜む真実を探る。


「……どこだ?……ん?」


その瞬間、視界の奥で淡く輝く存在を見つけた。

小さな光。しかしその輝きは決して揺らがず、むしろ静かに、力強く燃え続けている。他の魔力が風に揺れる炎だとすれば、それは大地に根を張った灯火のようだ。


――間違いない。魔力は小さいが、あれは普通の魔力ではない。質そのものが異質であり、そして……特別だ。


「いた!!ここから東、約三百メートルだ」


二人は慎重に歩を進め、目的地へと向かう。


――――


すると、古ぼけた小屋が視界に入った。

小屋の前には数人の村人が列を作り、順番を待っている。

目を向けると、一人の青年が村人を治療していた。


「ヒール……はい、これで大丈夫ですよ。もう怪我はしないでくださいね」


優しい言葉をかけながら、男は次々に村人の傷を癒していく。


そこへ、片足を失った兵士が急ぎ運ばれてきた。


「イーライ!急患だ!左足を切断された!早急に治癒をお願いできないか!?」


兵士は声を震わせ、早口で必死に訴えた。


「見せてもらえますか?」


イーライは神経を集中し欠損部を観察、にこやかに微笑む。


「今から治癒を開始しますね」


その瞬間、小さかったはずのイーライの魔力が、膨大に膨れ上がった。

神聖魔術が彼を包み込み、空気が震える。


《パーフェクトヒール》


杖から放たれた緑色の光が、左足を失った兵士に降り注ぐ。


骨が一瞬で再形成され、血管と神経が繋がり始める。

血液が流れ、筋肉が増幅していく。

最後には柔らかな皮膚で覆われ、まるで最初から傷などなかったかのように、完璧な左足が復元された。


その光景を見たアーサーとゼノは、息を飲んだ。


「パーフェクトヒールだと……?そんな魔法、聞いたことがない!フルヒールが最高位だと思っていたが……なあ、アーサーよ」


ゼノは信じられない様子で、アーサーに答えを求める。


「俺たちの時代のヒールは、フルヒールが最高位だったはずだ。考えられるのは、この百年の間に魔法技術が格段に進歩したということだな」


アーサーは興味津々で、イーライを見つめる。


「確かに魔法の進歩は凄い。しかし、その先駆者であるイーライの存在は、人の理を軽く超えている」


ゼノはそう言いながらもイーライを凝視している。


二人は、全ての村人が帰るまで木陰で休息を取った。


――――


──三時間後


「お二人さん、今日は僕に用事があっていらっしゃったのですか?」


休んでいたアーサーとゼノに、イーライは穏やかな笑みを浮かべながら声をかけた。まるで穏やかな風のように柔らかいその声は、戦場での緊張感を一瞬で和らげるような不思議な力を持っていた。


「初めまして!俺はアーサーで、こっちはゼノ。さっきのパーフェクトヒール……凄すぎる!あれは一体どんな魔法なんだ?」


アーサーは興奮を抑えきれず、身を乗り出すように質問する。目の前で展開された光景は、常識では到底説明のつかない光景だった。


失われた兵士の足が、一瞬にして完全に復元される――その魔法の精度と威力に、戦士としての誇りを持つアーサーですら心を打たれずにはいられなかった。


「その名の通り、完璧に治癒する魔法だよ。パーフェクトヒールは僕が作った魔法で、そして僕の名前はイーライ、よろしくね」


イーライはにこやかに微笑む。柔らかな眼差しの奥には、治癒師としての静かな自信と、しかしどこか好奇心に満ちた輝きが潜んでいた。だが、この平穏な出会いが、やがて予想もつかない戦いの幕開けへと導くのだった――。


――――


「単刀直入に言わせてもらう!俺達の仲間になってくれないか!?」


アーサーは自信に満ちた表情で、イーライに強く懇願した。


イーライはこれまで、特別な夢や目標を抱くことなく、村人や傷ついた冒険者を癒すだけの日々を過ごしてきた。


穏やかで満ち足りた時間ではあったが、アーサーの言葉には不思議と心を揺さぶれる力があった。その真剣な眼差しと訴えかける声に、イーライは胸の奥で眠っていた感情を呼び起こされ、イーライの好奇心を一瞬で掴んだ。


「僕はね、本当は戦うのが大好きなんだよ!もちろん治癒も好きだけど、戦う方がもっと楽しい!だから僕と戦って、勝てたら仲間になってもいいよ!」


イーライは楽しげに笑う。目の奥には、平凡な日常では味わえない戦いの興奮が光っていた。


「僕は神聖魔法を得意とするよ!ヒールのイメージが強いけど、戦闘に役立つ魔法も沢山あるんだ!ちなみに武器はウォーハンマーね」


アーサーとゼノはその言葉に身を引き締めた。神聖魔法なら、ゼノに不利になる可能性がある。

しかし、どうしてもイーライを仲間にしたいアーサーは、自身で全力で戦う覚悟を決めた。


そして三人は広場に移動する。


「君を絶対に仲間にしたいから、本気でいかせてもらう。それ相応の覚悟をしてくれ。ちなみに、俺は勇者の生まれ変わりだ」


「へーーー!!勇者の生まれ変わり?強そうだね!でも僕も強いよ!」


そう言うと、いきなり魔法を放ってきた!


「第八階梯神聖魔法 光絶──《サクレッドフォース》」


白い小さな沢山の球体が、上、横、斜めからアーサーに迫る。球体は高速で螺旋状に回転し、空気を切り裂きながら彼に向かう。アーサーは瞬時に解析のスキルを発動し、この魔法の挙動を視覚化する。球体は中心に集まり、巨大な爆発を巻き起こす設計――間違いなく一撃で周囲を壊滅させうる威力だ。


「これは……ヤバいなつだ!」


アーサーは判断を下すと同時に魔法防御結界を発動。漆黒の結界がすべての白い球体を包み込み、爆発の衝撃を飲み込む。衝撃で結界表面が波打つが、びくともしない。火花と閃光が散り、森全体の空気が一瞬で緊張に包まれた。


そして既にアーサーは神速、身体強化、未来眼、マキシマムドライブ、耐神聖魔法、物理防御強化を発動させ、全身を戦闘態勢に置いていた。体を取り巻く気配が鋭利な刃のように光り、目に見えぬ速度で反応する準備が整っている。


イーライも負けじと魔法を展開。ホーリーアーマーが神聖な光を放ち、ウォーハンマーに宿る聖なる魔力が空気を震わせる。両者の距離が縮まり、魔力と緊張感が渦を巻き、森の木々までもがその圧力で揺れる。


最初に動いたのはイーライだった。ウォーハンマーを振りかぶり、巨大な破壊力を伴って振り下ろす。振動が大地に伝わり、地面が微かに裂ける。アーサーは寸前で体をひねり、攻撃を寸分の狂いもなくかわした。


次にウォーハンマーは横から襲いかかる。アーサーは反動を利用してのけぞり、破片が飛び散る岩を避けながら反撃の隙を伺う。


(これで終わりなのか……)


そう思った瞬間、ウォーハンマーが頭上から再び襲いかかる。速度は増し、軌道は無数に変化し、上下左右あらゆる方向から飛んでくる。振り下ろされる衝撃で岩は粉砕され、破片が宙を舞い襲いかかる。


神聖なる力が空間に渦巻き、風圧と魔力の波動が森全体を揺らす。アーサーは全身を戦闘態勢に置き、未来眼で軌道を正確に見極めながら次の一撃に備える。戦場はまるで神の怒りが降り注ぐかのような、圧倒的な緊張と迫力に包まれていた。


(治癒師って、こんなに強かったっけ?知ってる治癒師とはまるで違うぞ……)


アーサーは未来眼の力で全攻撃を完全に読み切り、寸分の狂いもなく回避する。


イーライが小さく腰を曲げると、瞬間、両脇から十二本の光のレーザーが弧を描き、アーサーに襲いかかる。光線が森の枝葉を切り裂き、地面に深い裂け目を刻む。しかしアーサーは冷静に全て回避する。


次にイーライは両手を広げ、手のひら、肩、脇、膝、胸から聖なる光のレーザーを一斉に放出。光線は空間を切り裂き、地面をえぐり、衝撃波が波紋のように広がる。


これにはアーサーも度肝を抜かれた!


勇者の絶対防御、《ノヴァ・ガード》を未完成ながら発動するや否や、光のレーザーが着弾する。レーザーは弾かれるどころか、絶対防御に穴を穿こうとするかの如く火花を散らし攻撃を続ける。


アーサーは全身の意識を集中させ、ノヴァ・ガードの内側で全ての光線を一振りで切り裂く。残る光線も見切り、その瞬間、イーライの首を狙う。イーライも素早く反応し刃を避けるが、数ミリ切れた。


「……ヒール」


そう言うと、切れた首の傷は瞬時に再生される。


それを見たアーサーは居合の型に入った。ヒールが終わると同時に、スキル神速を超える速さで一気に間合いを詰め、胴をなぎ払った!が、ホーリーアーマーによって弾かれてしまう。


「え!?硬すぎじゃない?」


そう驚きながら、後方にジャンプをして距離を取り、突きの体勢に入った。


膨大な魔力が剣先一点に収束する。周りの空気が震え、衝撃の波が周囲を揺るがす。光と光が交錯する空間には、圧倒的な力の存在感が満ちあふれていた。その光は空間を切り裂き、閃光となって一直線に走り抜けた。


「我流一式──《ブレイズサージ》」


イーライは神聖魔法でホーリーアーマーの強度を上げる。

刹那、ホーリーアーマーの右肩が爆散した。


イーライは自分にヒールをかけながら、何が起こったのか必死に考えていた。


両者が再び攻撃体制に入ったその瞬間、ゼノが割って入る。


「もうお互い十分なのではないか?」


森に響く声に一瞬戦場の空気が落ち着き、激闘の余韻がゆっくりと収束していった。


場の空気が一気に和む。


アーサーは剣を鞘に収め、改めてイーライに話しかけた。


「君の力は本当に凄かった。……君は俺のこと、どう思った?」


「うん!凄いね!その年でこの動きは普通じゃない。それにスキルと勇者だけが使える防御技……勇者の生まれ変わりっていうのも、うなずけるよ!」


イーライは嬉しそうに笑った。


「なんで僕を仲間にしたいの?」


アーサーは百年前の因縁の戦いから、今日までの全てをイーライに話した。


――――


「だから、絶対に“原初の闇”を倒さなければならない。そのためには、君の力が必要なんだ!」


アーサーの言葉が、イーライの胸に重く響く。目を閉じ、頭の中でゆっくりと考えを巡らせる。自分には特別な夢や目標などなかった。毎日ここで、怪我や病気の人を癒すことだけを繰り返す日々。


穏やかで平和な毎日が、どれだけ自分に安らぎを与えていたか、改めて実感する。小さな笑顔、痛みから解放される瞬間、感謝の言葉――それらは自分にとって、かけがえのない宝物だった。


しかし、思考を進めるうちに、胸に不安が広がる。もし自分がここからいなくなったら――この村や人々の命はどうなるのだろう?


自分がいなければ、誰がこの人たちを守るのだろう?

その問いに答えは出ない。さらに、闇の勢力が襲ってきたとしたら?


一人の力で本当に全ての人を救えるのか?

考えれば考えるほど、恐怖と無力感が胸を締め付ける。しかし、その恐怖の奥に、微かな決意が芽生える。


答えははっきりしていた。守りたい、救いたい――その想いがある限り、やるべきことはただ一つ。原初の闇を倒すしかない!自分の手で、みんなを守るために立ち上がるしかないのだ。


「僕を、仲間に入れてほしい!守るべきものがあることに、今気がついたんだ!」


アーサーとゼノは微笑み、イーライの真剣な瞳を見つめながら、力強く握手を交わす。互いの手に伝わる熱量と決意が、静かに、しかし確実に三人の絆を結びつける。


「期待しているぞ、バトルジャンキー・イーライよ」


ゼノに名ずけられ、テレくさそうにイーライは笑った。その笑顔には、これから始まる戦いへの希望と覚悟が滲んでいた。森の木々の間に差し込む光が、三人の影を長く伸ばし、これから共に歩む未来の道を優しく照らしていた。

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