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決着

後衛では、「三つの魔法を融合・安定化させることに成功し、いつでも魔法発動可能な状態になっていた。


魔力の渦が静かに収束し、後衛陣の周囲には張り詰めた空気が漂う。


リナは深く息を吸い、微細な魔力の揺らぎまで感じ取り、全神経を集中させていた。

額に汗が滲む。胸の鼓動は早まり、指先まで緊張が走る。


『みなさん、いつでも魔法の発動が可能となりました。後はタイミングをお願いします。』


その声に応えるように、イーライが残りの魔力を絞り出し、仲間たちにヒールを放った。


緑の光が仲間を包み込み、アーサーの体力がみるみる回復していく。

握りしめた拳に力が蘇る。

これなら、最後の一撃を打てる!

俺の刃で必ず斬る――その決意が身体中に満ちていく。


ゼノもまた体力を回復し、辛うじて立ち上がることができた。


彼の瞳には冷静な光が宿り、戦況を瞬時に把握する。

だがマキヤは、体力こそ回復したものの、生命力を著しく消耗しており、まだ完全には起き上がれない。

その苦痛に顔を歪め、手を地面につけて必死に支えていた。


アーサーが叫ぶ。


『ゼノ!何とかあいつの足を止めしてくれ!』


『承知した。』


ゼノは短く答え、デーモンロードたちの戦う最前線へと切り込む。


原初の闇はその巨体で、デーモンロードの攻撃を全て受け止め、返す刃を容易く弾き返す。

ただの攻撃ではない、異質な力を持つ攻撃を、原初の闇は微動だにせず受け止める。


ゼノの剣が光を纏い、地面に影を落とす。

最初は小さな影だったが、次第に巨大化し、まるですべてを飲み込もうとする意志を持つかのように揺らめき、地面を震わせた。


風が巻き起こり、砂塵が舞い上がる。

戦場に張り詰めた空気が、一瞬の静寂と共に凍りつく。


『リナ!準備だ!今から原初の闇を捕らえる。約五秒だ!そのうちに魔法を発動しろ!』


リナは深く息を吸い、杖オミクロンを握る手に力を込めた。

魔力と生命エネルギーが指先から杖へと流れ込む。

すると、どこからともなく声が聞こえた。


〈我はオミクロン 主の杖だ もうすぐそこまで来ている 真の力を解放せよ そして我を信じよ〉


“真の力”という言葉がリナの心を突き刺す。

何度も出てきた言葉だ。


本当に私にそんな力があるのか?

だが、今は迷っている暇はない。やるしかない!

全身の力を杖に注ぎ込み、かつて対峙したときと同じ動作を繰り返す。


杖の先端にある青い宝石の古代文字が紫色に輝き、連動する残り二つの宝石も光を放つ。

古代文字が規則正しく回転し、魔力の流れが安定していく。

リナの瞳には古代文字が宿り、上下にスクロールし始める。

まるで見えざる情報を読み取るかのように、魔力の波動が身体を満たしていく。


全ての魔力と生命エネルギーを吸収し終えたオミクロンは、大きな金の輪を二回広げ、杖が最高の状態に到達したことを示した。

周囲の空気が震え、光が戦場を照らす。


アーサーは全力を注ぎ、最後の一撃に備える。

すべてのスキルを解放し、マキシマムドライブブースターで最高加速する。


聖剣ゼータに魔力と生命エネルギーを限界まで注ぎ込み、ゼノの戦術を模倣して第十五階梯魔法を流し込む。

全身の力が限界を超えそうになり、息が荒くなる。


聖剣ゼータは光を放ち、全エネルギーの吸収が完了した。


(最後は奥義で決める!)


アーサーは深く息を整え、決断のタイミングを見極める。


全員の視線が、今まさに交わる瞬間を待っていた。

緊張の糸が戦場を張り巡らせ、まるで時間すら止まったかのように感じられた。


――――


最前線では、ゼノが原初の闇を捉えようと、全神経を集中させていた。

自分の影を、ゆっくりゆっくり広げていく。

ゼノの鋭い眼光は、デーモンロードたちを瞬く間に散らし、戦場は一瞬の静寂に包まれた。


しかし原初の闇は、その静寂をものともせず、鋭利な攻撃を容赦なく仕掛けてくる。

鋼の刃のような手が空気を切り裂き、地面を揺らす。


その瞬間、原初の闇に不自然な影が揺らぎ、地に引きずり込まれた。


『リナ!今だ!』


ゼノの叫びが、戦場の轟音を切り裂いた。


ゼノの声は届かずとも、杖オミクロンはリナの手に連動し、不思議な力に導かれるように原初の闇を指し示した。


終焉審判アポカリプス・ジャッジメント


魔法はゆっくりと空中を漂い、原初の闇の手に触れるや否や、小さな白い爆発が連鎖的に広がる。

その白い爆発は次第に勢いを増し、原初の闇の体全体を包み込んでいった。


全身が絶え間なく爆発し続ける魔法は、まるで生き物のように原初の闇を追い詰め、圧倒的な威力を誇示する。


今度は空間を切り裂く魔法が追撃する。

裂ける音と共に、原初の闇の体ごと周囲の空間が断ち切られる。


何が起こっているのか理解できず、原初の闇もその暴力的な力に抗うしかなかった。


そして世界は、真っ白に染まった。

闇の存在を許さぬ神の領域。

その白の世界に原初の闇は閉じ込められ、戦場には一瞬の静寂が訪れた。


だが、誰もが安堵する間もなく、原初の闇は再び姿を現した。

白の世界を切り破り、圧倒的な力で立ち上がる。


「こ ん な も の 効 か ん!」


白い爆発はなおも体を襲う。

だが、原初の闇の力は衰えていない。

その圧倒的な存在感に、戦場の空気は凍りつく。


──残り三秒


リナは意識をなくした状態で、倒れたまま杖オミクロンを握り直し、小さな声で言った。


古代魔法

──絶牙覇ゼル・ガル・ヴァース


杖が放つ魔力は、白の世界を収縮させ、幾万もの白の槍を原初の闇に向けて放った。

槍は何万もの闇を貫き、力を削ぎ、圧倒的な制圧力を示す。


──残り二秒


アーサーは覚悟を決めた。


幾万の槍を避けることは不可能。ならば、自らの意志で通るしかない。


──残り一秒


彼は心を波立たせず、深く集中する。

刹那、原初の闇がもがきながら白の世界に姿を現したその瞬間──


アーサーは剣を構え、超神速三倍の速さで原初の闇に突き進む。


極限まで集中した彼の生命力・魔力・魂の波動は一つに統合され、時間の流れを一瞬だけ止めた。

その止まった“瞬間”の中で放たれる斬撃──

絶対に避けられぬ一撃が、聖剣ゼータから解き放たれる。



我流零式奥義

── 終ノ一閃ジ・エンド



光と闇が衝突し、白も闇も切り裂かれる。


斬られた原初の闇は動きを止め、白の世界に飲み込まれるが、生命力はまだ残っているように見える。


アーサーの身体も白の世界に飲み込まれながら、無数の白の矢を受けていた。


その身を貫くたびに、生命の灯が小さく揺れ、やがて消え入りそうに弱まっていく。


もはやヒールの力も届かない。枯れ果てた命は、ただ静かに燃え尽きるのを待つだけだった。


それでも、アーサーの表情には不思議な安らぎがあった。

胸の奥に、仲間たちと過ごした日々が浮かぶ。

笑い合った夜。肩を並べて戦った日々。


どんな絶望の中でも、共に歩んだ温かな記憶だけが、確かに彼を支えていた。


『……あぁ、楽しかったな。みんなとの旅は。』


その呟きは、光に溶けて消えるように淡く響いた。


次の瞬間、ゼノが叫ぶ。

その声には、怒りと悲しみと、どうしようもない喪失が混ざっていた。


『アーサー!絶対に死ぬでない!我との勝負がまだついておらぬのだ!

だから……だから、死ぬことは許さぬぞ!!』


白い世界の中で、その叫びだけが、確かにアーサーの胸に届いた。

わずかに微笑みながら、彼は静かに目を閉じた。


──その笑顔は、まるで“約束の続きを夢見ている”ようだった。


アーサーが完全に白に包まれる中、ゼノは膝から崩れ落ちた。

目から一筋の涙が流れ、胸の奥で何かが締め付けられるように痛んだ。

彼の心は、まだ生きているアーサーに届くと信じ、絶望と希望が混じる感情を必死に抑えた。



『我は絶対にお前を探しだす!!』


――――


「だせ!だせ!だせー!!この世界は息苦しい!!」


原初の闇が、咆哮とともに暴れ狂う。

その叫びは世界そのものを震わせ、白の大地にひび割れを走らせた。

だが、そこに立つ者はいない――いや、一人だけいた。


その十メートル前、アーサーが倒れていた。

身体はボロボロ、鎧は砕け、聖剣ゼータは光を失っている。

それでも彼は、ゆっくりと上体を起こし、息を整えた。


「……動く!」


全身に痛みが走るが、確かにまだ、生きている。

この「白」は、ただの虚無ではなかった。

それは癒しの領域――神聖に満ちた、純粋なる加護の世界。

勇者の魂が共鳴し、アーサーの傷は、わずかに癒えていく。


「白……か。最後に、神に救われるとはな。」


苦笑しながら、アーサーは立ち上がった。

手にした聖剣ゼータはもはやエネルギーを失い、ただの刃にすぎない。

それでも構わなかった。

彼の戦意は、まだ消えてはいない。


アーサーはゆっくりと、原初の闇へ歩き出す。

足取りは重く、それでいて確かな覚悟に満ちていた。


原初の闇がアーサーを視認した瞬間、

地を割り、空を裂くような咆哮を上げた。


「貴様は――今すぐ殺す!!」


その一歩で世界が軋む。

漆黒の剣が振るわれるたび、闇が光を喰らい、天地が悲鳴を上げた。

それは、滅びそのものを具現化した剣――破滅の黒閃。


だが、アーサーは動じない。

微動だにせず、ただ静かに、その一撃を見据えていた。


「――スキル神眼、発動。」


淡く光る双眸が、次の瞬間、世界の理を歪めた。

時間が流れを止め、空気の粒子が鈍く動く。

アーサーの瞳には、“これから訪れる刃の未来”が映し出される。


原初の闇の剣が振るわれるたびに、未来が閃光のように分岐していく。

アーサーはそのすべてを、紙一重でかわし続けた。

一閃、二閃、三閃――そのたびに彼の影が、幻のように揺らぐ。


闇は吠える。


「なぜだ……なぜ当たらぬッ!!!」


アーサーは静かに呟いた。


「――遅い。」


その一言が、死の宣告のように響いた。

気づけば、アーサーはすでに間合いの内側。

歩むたびに、白い光が舞う。


アーサーはゆっくりと踏み出しながら、原初の闇を通り過ぎた。


我流零式改

──最終焉ノリアル・ラスト・エピタフ


刃が閃いた瞬間、音もなく世界が裂けた。

空も地も、闇さえも静止し、ただ一つの光の軌跡だけが残る。


それは、滅びと祈りが交わる最後の剣。

アーサーの瞳には、戦いの終わりを超えた“静寂の未来”が映っていた。


白の世界を貫く、音なき閃光。

原初の闇は、一刀のもとに両断された――かに見えた。

だがアーサーの動きは止まらない。


さらにそのまま、超神速の連撃を繰り出す。

残像が何重にも重なり、原初の闇の身体が、瞬く間にみじん切りにされた。


アーサーが左手を前へ突き出し、指先が光を帯び、空間が震え始める。


「……これで、終わりだ。」


第十五階梯魔法

──熾天光爆セラフィック・ノヴァ


眩い閃光が世界を貫いた。

瞬間、あたり一面が真白に染まり、音も影も、すべてが飲み込まれていく。


まるで神の怒りそのものが具現化したかのように、無限の炎が原初の闇を包み込み、絶え間なく燃え続けた。


「この野郎ッ! 消せ、消せ、消せぇぇぇーッ!!」


原初の闇が絶叫する。だが、その声すら光の奔流にかき消された。


燃え盛る炎は、もはや熱ではなく“裁き”そのもの。

白く灼けた世界の中で、光と闇の境界が消えていく。

抗えば抗うほど、炎は勢いを増し、空の彼方まで届くほどに膨れ上がった。


それはまさに、終わりなき神罰の炎。

原初の闇の断片が、完全に灰と化すまで――。

その光は、実に数日もの間、消えることはなかった。


静寂が訪れた。

崩れた世界の中心に、ただ一人――アーサーが立っていた。


「……これで、いい。」


その声は、風も音もない白の世界に溶けて消える。

命の気配すら失われた空間に、彼の鼓動だけが微かに響いていた。


アーサーは目を閉じ、仲間たちの笑顔を思い浮かべる。

焚き火を囲んで笑い合った夜、交わした約束、共に戦った日々。

その記憶が、胸の奥で静かに疼いた。


「……一人で朽ちるのも、悪くない。」


かすかな息と共に呟くと、白が足元から広がり、彼の身体を包み込んでいく。

温かな白。それは安らぎのようでいて、残酷な別れの白でもあった。


腕が、胸が、そして瞳が白に溶けていく。

最後に浮かべた微笑みは、祈りのように静かで――そして、アーサーは完全に消えた。


――――


原初の闇が白に囚われた瞬間、すべての闇が消え去った。

空を覆っていた黒雲は裂け、大地を覆う瘴気は浄化されていく。

デスナイト、ダークモンスター――そのすべてが倒れ、光の中に還っていった。


それは、完璧な勝利だった。

ただ――たった一つを除いては。


アーサーが、白に呑まれたという報が、全員に伝わっていた。

リナとイーライは泣きじゃくり、マキヤは唇を噛み締めていた。


『アーサーにもう会えないの?』


イーライの目は真っ赤に腫れ、嗚咽が止まらなかった。

クロウは何も言わなかったが、青白い炎がその瞳に宿っていた。

それが涙の代わりだった。


ゼノもまた、沈黙していた。

原初の闇を滅ぼしても、肝心のアーサーがいなければ意味がない。

達成感よりも、虚無が心を満たしていく。


「生きる意味を失うとは、こういうことか」


ゼノは、そう思わずにはいられなかった。


彼は瀕死のリナを背負い、崩壊した魔王城をあとにした。

外ではゼウスロアとセスラが、息をつきながらみんなを待っていた。

皆、満身創痍。それでも――誰一人欠けることなく守り抜いた。


「よう!ヴァルスレイ、どうやらうまくやったようだな!」


レオンが声をかけてくる。

その声には安堵と誇りが混ざっていた。

だがゼノは首を横に振り、俯いた。


「ああ……成功した。だが、アーサーを失った……」


レオンが言葉を失い、握りしめた拳が白く染まるほど力が入る。

胸の奥を締めつける痛みと、悔しさ、そして深い喪失感が、一瞬にして全身を覆った。

辺りには静寂が走り、風も音もなく、誰も何も言えなかった。

夜空には星すら瞬いておらず、世界全体が悲しみに沈んでいるようだった。


みんなは短い別れを交わす。

セスラの転移魔法が静かに発動すると、眩い光に包まれながら、全員は街へと帰還した。

胸に残ったのは勝利の喜びではなく、アーサーを失った痛みだけだった。


――――


ヴァルスレイは宿屋の一室に身を投げ、深い眠りについた。

全てが終わった今、胸に残るのは虚しさだけだった。


──翌朝


ヴァルスレイには、もはややるべきことがなかった。

原初の闇は消え、世界は救われた。

だがアーサーがいない。

彼のいない勝利は、ただの空白に等しかった。


リナは涙の跡を拭い、イーライは故郷の村へ戻る準備をしていた。

マキヤは故郷の里へ、クロウはゼノの後を追うようにして立っている。

誰もが、それぞれの道を歩む時が来たのだと悟っていた。


――そしてそれぞれの出発の朝


ゼノ、リナ、イーライ、マキヤ、クロウは静かに集まり、別れの挨拶を交わした。


マキヤがリナに尋ねる。


「最初は、どこの国に行くつもりなの?」


その声は静かだった。

夜明けの光がまだ淡く、靄のかかった街の外れ。

誰もが言葉を選ぶように沈黙し、風だけが衣を揺らしていた。


リナはゆっくりと顔を上げ、小さく微笑んだ。

その微笑みは、どこか寂しげで、どこか決意に満ちていた。


「まだ決めていませんが……キーワードは、白です。」


その「白」という言葉が、全員の胸を震わせた。

それは、アーサーの最期を思い出させる色だった。

彼が消えていった、あの眩しすぎる光の中の“白”。


ゼノが小さく息を吐く。

そして、空を見上げながら言った。


「白なら……協会あたりを探してみるか。」


彼の声には、わずかな希望と、どうしようもない諦めが混ざっていた。

その希望は、もう届かないかもしれない場所に手を伸ばすような儚さを帯びている。


クロウは静かに首を振った。


「己は、協会はやめておく。あの雰囲気はどうも怖い。」


軽口のように聞こえたが、誰も笑わなかった。

その言葉の奥に、仲間を失うことへの恐れが隠れていたからだ。


空気が、ゆっくりと重くなる。

誰もが言葉を失い、ただ時間だけが静かに流れていく。

鳥の声すら聞こえない朝。

世界は平和を取り戻したはずなのに――心だけが、まだ戦場に取り残されていた。


イーライが、涙声で口を開いた。


「みんなー……また会おうねー!約束だよー!」


声が震えている。

無理に笑おうとしているのが、誰の目にもわかった。

リナは泣きながらうなずき、マキヤは顔を背け、クロウは無言のまま拳を握りしめた。

ゼノはただ、アーサーの名を胸の中で呼んでいた。


誰も、声を出さない。

けれど、イーライの「約束だよ」という言葉は、確かに届いていた。

心の奥に、小さく、しかし深く刻まれていた。


全員が、小さくうなずく。

その動きはまるで、祈りのようだった。


朝の光が差し込み、白い霧がゆっくりと晴れていく。

それぞれの影が、別々の方向へと伸びていった。

もう一度同じ場所に集まれる保証は、どこにもない。

それでも彼らは歩き出した。


それぞれの胸に、アーサーの面影を抱きながら。

そして――静かに、新たな旅立ちを迎えた。


あとがき

三年という歳月が過ぎていた。

ゼノ、リナ、そしてクロウは、行方不明となったアーサーを探して、いくつもの街と大陸を渡り歩いてきた。

そして今、彼らは魔大陸の最北――雪に閉ざされた都市ベーゼラへと辿り着いていた。


白。

ただひたすらに、白。

空も、大地も、街並みさえも、すべてが雪の帳に覆われている。


「……ここにも、感じられませんね」

教会の扉を閉めながら、リナが小さく肩を落とした。


ゼノはわずかに目を伏せ、しかし首を横に振る。

「次の街を目指すか」


決して諦めることのない声だった。

三年という時の重さを、彼の決意はものともしていなかった。


だが、その街にもアーサーの痕跡はなかった。

三人は再び雪道を歩き出し、宛のない旅を続ける。


やがて、丘を越える途中で――世界が、白に呑まれた。


突如として吹き荒れる猛吹雪。

雪片が視界を奪い、風が音をも掻き消していく。

白。白。白――ただそれだけが存在した。


「リナ!クロウ!聞こえるか!」

ゼノの声が吹雪に掻き消されながらも、必死に響く。


「わ、私は大丈夫ですよー!」

「己も問題ない!」


二人の声を確認し、ゼノは安堵の息をついた。

「……よし、一旦ここで待機だ。ホワイトアウトが収まるまで動くな!」


そう告げたそのときだった。


真っ白な世界の中、ひとつだけ“違う白”があった。

淡く、優しく、それでいてどこか懐かしい――光。


「……なんだ?」

ゼノが目を細める。


光は静かに浮かび上がり、三人の頭上へと昇っていった。

雪の帳の中で、その光だけが確かに“命”のように瞬いている。


そして、光の中心から――ひとりの影が、ゆっくりと降りてきた。


「まさか……!」


ゼノが駆け寄る。リナもクロウも、息を呑んで立ち尽くした。


白銀の雪の中に横たわる、その男。

身体中が傷だらけで、衣は破れ、しかしその顔は――忘れもしない。


「ア……アーサー……なのか……っ!」


ゼノの声が震えた。


リナが両手で口を押さえ、涙をこぼした。

クロウも拳を握りしめたまま、ただ立ち尽くす。


ゼノはそっと膝をつき、アーサーの上半身を抱き起こした。

その体は冷たい。しかし、かすかに、温もりがあった。


「……目を……開けろ。アーサー……!」


しばしの沈黙。

そして、薄く閉じられた瞼が、ゆっくりと震えた。


雪の中、弱々しくも確かな声が響く。


「……みんな……ただいま。」


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