最終決戦
ザギオンの城の前では、今まさに壮絶な戦いが繰り広げられていた。
空は血のように赤く染まり、地面は焦げ、無数の魔力がぶつかり合って爆ぜている。
ゼウスロアの仲間たちは皆、満身創痍。立っているのがやっとの者も多く、息を吸うたびに血の味がした。
それでも彼らは歯を食いしばり、決して退かない。
だが──このまま彼らを残したまま、城に突入することはできなかった。
イーライが前へ出た。
その顔には苦悩と決意が入り混じっている。
「ごめん……でも、今はやるしかないね」
イーライは両手を胸の前で組み、静かに目を閉じる。
淡い光が体中からあふれ、周囲の空気が震え始めた。
次の瞬間、ゼウスロアの足元に巨大な魔法陣が展開する。
──完全回復
聖なる光が一気に広がり、ゼウスロアの六人を包み込む。
焼けただれた皮膚が再生し、折れた骨が音を立てて繋がる。
まるで時間が巻き戻ったかのように、全員の傷が癒えていった。
「おおっ!?いきなり怪我が治ったぞ!これならまだ戦える!」
レオンが笑い、剣を振り上げる。
その声はまるで戦場に再び火を灯すかのようだった。
「アーサー!ここは俺たちが抑える!早く中に行って、闇をぶっ飛ばしてこい!」
「レオン!帰ったら酒でも飲もうな!行ってくる!」
ヴァルスレイは迷いなく駆け出した。
その背に仲間の叫びと、信頼が重なっていく。
城門を越えると、冷たい空気が一気に流れ込む。
ザギオンの城は、巨大な黒石の塊でできており、壁のいたる所から魔力の脈動が感じられた。
まるで生きているかのようだ。
アーサーを先頭に、六人とデーモンロードが走り抜ける。
その最中、アーサーが全員に向けて作戦を伝えた。
「みんな、よく聞いてくれ。作戦は単純だ。まず前衛の俺とゼノ、マキヤで〈原初の闇〉を攻撃する。攻撃が通るか確認するんだ。
その後、リナ、イーライ、クロウは禁術を起動、二つを融合させる。完成次第、原初の闇に発動。禁術発動の五秒後、俺が全力で奴を斬る」
「五秒後に斬る」という一言で、全員が状況を理解した。
それは禁術と古代魔法の爆発の只中に突っ込み、死を覚悟で一撃を放つという狂気の作戦。
ゼノが眉をひそめ、低く言う。
「攻撃が届く前に、お前は蒸発する。止めておけ!」
「禁術と古代魔法で倒せなかった時の、最後の一手だよ!」
アーサーは笑いながらも、その瞳には決意が宿っていた。
「お前は何をしでかすかわからぬ……ちゃんと見張っておかないとな」
ゼノが鋭く睨むと、マキヤがわずかに苦笑した。
廊下を進むと、左右に伸びる階段と、中央に巨大な扉が現れる。
冷たい風が吹き抜け、魔力のざわめきが肌を刺す。
アーサーは息を整え、ゆっくりとその扉に手をかけた。
重厚な音を立てながら、黒い扉が開く。
──そこは半球状の巨大な広間。
高い天井には血のような模様が広がり、中央には黒曜石でできた玉座がそびえていた。
その上に、〈原初の闇〉が悠然と足を組み、鎮座している。
周囲には、奇抜な兵士、影の軍勢、デスナイト、ダークモンスター──
その数、およそ三千。
黒い波のように、うねりを上げながらアーサーたちを取り囲む。
六人は破邪の仮面を装備した。
アーサーは瞬時にスキルを発動する。
──《マインドリンク》
『クロウ!不死の軍団を三千体召喚できるか!?』
『うむ、たやすいことだ。』
クロウが低く詠唱を始める。
空気が震え、石畳の上に巨大な魔法陣が展開された。
──《デス・リベリオン》
紫の稲妻が走り、地面が爆ぜる。
そこから、不死の鎧を纏った兵士たちが次々と浮上した。
彼らは無言で武器を構え、闇の軍勢を標的にしている。
クロウが杖を振り上げた瞬間、不死の軍団三千が一斉に吠え、突撃した。
闇の軍勢も雄叫びを上げ、ぶつかり合う。
爆発、斬撃、雷鳴──音が交錯し、ザギオンの城は崩れ始める。
天井の割れ目から差し込む月光が、戦場を蒼白に照らした。
アーサーはゆっくりと前へ進み、玉座の前に立つ。
そこには、かつて見た恐怖の象徴──《原初の闇》がいた。
『久しぶりだな、原初の闇よ。お前に会うために帰ってきたぞ!』
アーサーの声は怒りに震えていた。
拳が軋み、魔力が滲み出す。
『んー、誰かな?私には興味が無い。だが、城を破壊された責任は取ってもらわないとね。』
その瞬間、空気が凍りついた。
原初の闇の瞳が細まり、底知れぬ圧が広間を満たす。
アーサー、ゼノ、マキヤ──三人は同時に動いた。
魔力が爆ぜ、剣が閃き、雷鳴が轟く。
決戦の幕が、今、上がった。
――――
アーサーとゼノ、マキヤは同時に動き、原初の闇に牙を向ける。
戦場に張り詰めた空気が、三人の動きに呼応するかのように震え、周囲の風景までも歪みだした。
まずはアーサーが天を仰ぎ、剣を構える。
空が裂けるような轟音と共に、漆黒の雲の隙間から巨大な光輪が出現した。
その光輪の中心から、七本の光の剣が螺旋を描きながら降り注ぐ。
我流五式
──天殲輪廻!!
叫びと同時に、無数の光剣がアーサーの周囲を旋回し、やがて巨大な天輪となる。
時空の概念すら巻き込むような回転は、光と闇の渦を形成し、爆心地に立つ原初の闇を包み込む。
衝撃波が大地をえぐり、周囲の岩石は砕け、砂塵が空を舞う。
次にゼノが動く。
魔剣オメガが漆黒に輝き、周囲の空間が歪み、重力が凝縮して視界までもが揺らぐ。
その刃を振り下ろした瞬間、光の奔流が全てを押し潰し、天地が逆転するような衝撃が走る。
我が剣は天をも圧す──
剣魔五殺 ――天断一閃!
超神速を超えて切り抜いた!
そして最後に、マキヤが最強の忍法を繰り出した。
火風遁──《地獄炎舞》
紅蓮の炎と疾風が融合し、地を焼き、空を裂き、原初の闇に向かって激烈な一撃を放つ。
三人の超攻撃が原初の闇に炸裂する。
衝撃が大地を揺るがし、空気は火と光で満ち、戦場全体が嵐のようになる。
『クロウ、リナ、イーライ、魔法の準備だ』
アーサーが静かに伝えた。
『うむ、では、禁術と古代魔法の融合を行う。何が起こるかわからぬ。心するべしう』
クロウはリナに、三体の死霊を憑依させ、禁術を起動させる。
第二十階梯禁術── 混沌裁断《カオス=ディヴァイド》
時間と空間を切り裂き、対象を過去も未来も含めて断絶させる魔法。
クロウはそれを小さく小さく形を整え、融合しやすいよう慎重に操作する。
次はイーライだ。
神聖魔法の禁術の中でも最も威力のあるものを選び、全身の魔力を集中させる。
『ルメン・ディビヌム、フィナリス・イラ!
カオス・エテルニス、テルラ・エト・クリミナ・デレオ!』
神聖魔法禁術「聖」
──終神撃
全てを無に返す神聖なる白の爆発。
善も悪も、生も死も――その一撃の前では等しく塵と化す。
まさに“神の領域”に踏み込む究極魔法だ。
イーライは禁術の起動に成功し、クロウと同じく融合しやすい形に整える。
そしてリナだ。
四つの詠唱を順調に唱えていたが、魔力を強制的に吸われ、体力が蝕まれる。
(何これ……初めてだ。きっと古代創世魔法の反動……すでに限界に近い……)
荒ぶる四つの詠唱を、一つに纏めようと精神を集中させる。
だが、なかなか思うように纏まらない。
もっと深く、深く潜るように精神を統一。
微細な魔力を操作し、安定させていく。
リナは、確実に詠唱を成功させていった。
――――
だがこの時、アーサーとゼノ、マキヤは愕然としていた。
三人の同時攻撃がほとんど効いていなかったのだ。
「今のはかなり痛かった……お前も痛い思いをしろ」
原初の闇は宙にゆっくり浮かび、人差し指を上に掲げる。
大地が裂け、空が歪む。
原初の闇は、あざ笑うかのように──終焉を告げるように微笑んだ。
終焉裂界──《デストルム・ブレイカー》──
赤黒い空気が渦を巻き、世界を爆ぜさせる。
爆風と裂け目が全てを呑み込み、命の光も一瞬で消える。
「これが……恐怖だ。」
しかしゼノは神速でアーサーとマキヤと合流し、魔法防御体制に入る。
最強の防御魔法を発動する。
第十五階梯魔法──百重暁光絶界
「暁の光が絶対の壁を作る」
光と衝撃を内包し、単なる防御ではなく“圧倒的存在感”を放つ。
原初の闇の攻撃はゼノによって防がれた。
「あれ?ふせがれた……何故だ?」
原初の闇の周囲に黒い槍の如きものが数万本出現し、一斉にヴァルスレイ全員へ向かう。
『ゼノはここでマキヤを守ってくれ!俺は後ろの三人をガードする!』
アーサーは超神速で三人のもとへ駆け、勇者の絶対防御を発動する。
原初の闇の攻撃を確実に防ぎ、盾となる。
その間にアーサーは聖剣ゼータに魔力と生命エネルギーを注ぎ込む。
蒼く光る刃、古代文字が柔らかく輝き、戦場に神聖な緊張が走る。
原初の闇の攻撃は激烈を増していく。
アーサーは全てのスキルを解放する。
かつては五個までしか同時開放できなかったが、今は全てを解放可能。
金色に光る体は、マキシマムドライブブーストにより数倍の力を帯びている。
原初の闇がわずかに動いた瞬間──
アルティメットスキル
──無限連斬
アーサーは超神速を超える速さで黒い槍を避け、斬り、叩き落とし、背後を取り、無限連斬を繰り出す。
『おおおおー!!』
原初の闇は傷つきながらも、無抵抗のまま立ち続ける。
アーサーの無限連撃は止まらない。
『まだだ!まだまだまだまだ!!』
一撃ごとに山を破壊する破壊力。
しかし原初の闇はそれを受け流しているように見える。
アーサーは攻撃を止め後退する。
斬られた箇所は切れたまま残る。
『再生はしないってことなのか?ゼノどう思う?』
『今まで攻撃されたことがないだろうし、傷を負ったこともないだろう。ヤツに回復の概念はないと思うぞ』
『だが、確実に攻撃は通っている。現に痛いと言ったからな。このまま攻め続けるぞ』
地面から尖った岩が無数に突き出す。
アーサー、ゼノ、マキヤは軽く避け、後衛の三人にはクロウの防御魔法がかかっているため心配は無用。
ゼノは魔剣オメガに魔力を込め、第十五階梯魔法──烈焔穿牙を剣に注ぐ。
脚力を一点に集中させ、
剣魔五殺──天断一閃を放つ。
天地を割る壮絶なる一撃は山も海も大地も天も斬り裂く。
しかし原初の闇はわずかに受け止めたのみで、怒りをあらわに黒い巨大なしっぽを何本も伸ばし前衛を襲う。
一方後衛は、今まさにリナの正念場を迎えていた。
四つの詠唱が、ようやく一つにまとまりつつある。
リナは歯を食いしばり、震える唇から静かに息を漏らした。
額には汗が滲み、髪が頬に張りつく。
(もう少し……もう少しで一つにまとまる。気を抜かない!)
『アヴォル・ニグル・レム…ヴァス・エテル・ノクス・アザール・ルクス!』
その瞬間、四つの魔法陣が一斉に光を放ち、リナを中心に空気が振動した。
眩い光が渦を巻き、やがて一点に集まっていく。
光は吸い込まれるようにリナの杖オミクロンの上に集束し、
杖先に、クリスタルのような球体がゆっくりと形成されていった。
まるで世界の理が凝縮されたような光だった。
周囲の魔力が引き寄せられ、空間そのものが震えている。
古代創世魔法──
──原初消界《アヴ=ニグル・ロア》。
神が最初に生み出した“空白”。
かつて神々が戦に用いたとされる“創造以前の白”を再現する魔法。
この魔法が放たれた地は、地形ごと、存在の記録すらも地図から消える。
リナは両手で杖を握りしめ、そのクリスタル球をゆっくりと掲げた。
右側にはクロウ、左側にはイーライが立ち、それぞれの魔法を構える。
三者の魔力が共鳴し、周囲の風が唸りを上げた。
そして──一番重要な瞬間が訪れる。
魔法の融合だ。
これなしでは、原初の闇は決して倒せない。
クロウは一歩前に出て、深く息を吸い込んだ。
(初めての試み……必ず成功させる。成功できぬなら、我が存在に意味などない!)
クロウは目を閉じ、「融合の書」に記されていた手順を思い出す。
指先に魔力を集中し、自らの禁術を覆うように薄い膜──融合膜を展開していく。
まるで極薄のガラスを張るような繊細な作業だった。
少しでも魔法同士が触れれば、全てが崩壊する。
(焦るな……焦るな。融合膜を、均等に……!)
時間が止まったかのように静寂が支配した。
やがて、クロウの禁術は完全に融合膜に包まれる。
次はイーライの番だ。
彼は己の魔法をぎりぎりまで圧縮し、形を小さく整えていた。
そのおかげで、融合膜は見事に張り巡らされていく。
(よし……これで、二つ目も完了だ)
そして──最後はリナの魔法。
クリスタルのように輝くその光は、見惚れるほど美しかった。
だが同時に、触れるだけで命を奪うような危うさを孕んでいる。
クロウは息を殺し、震える手で融合膜をかぶせていく。
光がわずかに反発するが、すぐに膜が馴染んだ。
『後は、これを融合させるのみ、今しばらくまたれよ!』
クロウは叫び、杖を構えた。
三つの魔法が光を放ちながら、ゆっくりと近づいていく。
空気が弾けるように震え、地面が悲鳴を上げた。
いま、この瞬間。
神々の領域すら越える“融合”が始まろうとしていた──。




