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帰還

クロウは三人の状況をゆっくり観察していく。


「ふむ、この古代兵器の力の根源は、最初に込めた魔力と、生命エネルギーの質量で決まるように思える」


クロウはさらに続ける。


「……それに古代文字で何か付与されているのか?どちらにしろこの世の中にはまだ面白いものが沢山ある」


その瞬間、リナの限界を迎えた体に強烈な電撃が走った。

筋肉が硬直し、血管の一つ一つまで痺れるような痛みが全身を貫く。意識の薄れる中、耳に響く声があった。


〈我を呼び覚まし魔道士よ 主の凶悪な力に耐えられるのは 我しかおらぬ 呼び覚ませ 己の真の力を そして追求せよ 魔の頂きを〉


リナはゆっくりと膝から崩れ落ちるように倒れていった。

杖オミクロンは、強烈な光を周囲に撒き散らしながらひび割れ、木の素材特有の軋む音を立てて爆散した。


杖は長く、先端には紫の大きな宝石が一つ、小さな宝石が二つ配置され、杖と宝石には古代文字が精緻に彫り込まれている。


杖オミクロンは小刻みに震えながら、まるで意思を持つかのようにリナの元へ飛び立った。


マキヤの方は既に限界を超えているようだった。

両膝を地面につき、額を床に近づけ、呼吸は荒く速い。

だが双剣を握る拳には、絶対に諦めないという鋼の意志が宿っていた。

そんなマキヤにも、とうとう限界が迫る。


「くっ……もう……ダ…メ」


その瞬間、双剣の表面に細かいヒビが走る。

「き、来た!」


マキヤは全身の力を振り絞り、残りの生命エネルギーを双剣に流し込む。

全身の血液が熱を帯び、汗が滴り落ち、意識の端が揺れる中、双剣は黄色い光をまとい始めた。

刀身は軽く、少し長くなり、未知の素材に古代文字が輝きを放つ。

刃先からは熱と光の波動が立ち昇り、空気を震わせる。

マキヤは双剣を握ったまま、力尽き倒れ込む。


そしてイーライは、まだ失神したままだった。

だが不思議なことに、無意識のうちに魔力と生命エネルギーを武器へ流し込み続けている。

そのまま、古代槌ガンマも解放される。


イーライは魔力の大きさは、みんなの知るところだが、それよりも生命エネルギーの方が格段に強かった。

十年以上ヒールを続けてきた結果なのかもしれない。


白い光を放ちながら宙に浮く槌は、瞬時に収束し、両方の円形部分が緑色に妖しく光り始める。

柄とハンマーには古代文字が刻まれ、光は周囲の空気を揺らす。

ゆっくりとガンマハンマーはイーライの手元に移動し、無言のまま握られる。

その手に握られたハンマーからは、無言の力強さが確実に伝わっていた。


――――


――二十四時間経過。


気を失っていた仲間たちが、次々と意識を取り戻していく。

静まり返った神殿の空気の中、最初に目を覚ましたのは──マキヤだった。


ゆっくりとまぶたが開く。視界に映ったのは、薄暗い天井と、かすかに漂う焦げた魔力の残滓。

マキヤは反射的に跳ね起き、戦闘体勢を取った。体が瞬時に反応していた。


しかし、そこに敵の気配はない。

代わりに、ふわふわと宙に浮かぶ骸骨──クロウが、いつもの調子で漂っているだけだった。


「……あっ!!帰って来れた!」


マキヤは安堵の声を上げると、勢いのままクロウに抱きついた。

クロウはわずかに傾き、骸骨の目が光った。


マキヤの笑顔に、わずかに空気が緩む。


次に目を覚ましたのはゼノだった。

彼はゆっくりと体を起こし、こめかみを押さえる。


「……我としたことが、気を失ってしまうとは。迂闊だった。だが──良い体験をさせてもらった」


意識を完全に取り戻すと、胸に下げた黒き魔剣オメガを手に取る。

柄を握り、そっと振る。だが、その感触に息をのんだ。


「……!!なんだ、この剣は……!まるで我が身そのもの!肉体と同化しておるかのようだ!」


ゼノは立ち上がり、静かに素振りをする。

その動きは風を裂き、音を置き去りにする。重さは皆無、切れ味は神域。

剣を構えた姿には、もはや人の限界を超えた威圧感が宿っていた。


「ほぼ重さを感じぬ……完璧だ。これが、真なる魔剣か!」


続いて、アーサーが目を覚ます。


「ん……?……!!聖剣ゼータ!!」


彼は飛び起き、周囲を見渡す。焦りと興奮が混じった声を上げる。

マキヤが笑って指を差した。


「ここだよ、アーサー!」


「おおっ!あったか!」


アーサーは聖剣ゼータを両手で掴む。

その瞬間、体の奥に雷が走るような衝撃が走った。


「な、なんだこの一体感は……!指の動き一つで刃が応える!まるで思考が剣に直接伝わってるみたいだ!」


剣を握る手が震える。あまりの軽さに、重力を疑うほどだ。

しかし──本当に切れるのか?


試すしかない。アーサーは正面の石柱を見据え、構えを取る。

中段からの横薙ぎ。空気が震えた。


「……え?切れたのか?摩擦をまったく感じなかったぞ……」


数瞬の静寂。

やがて、直径二メートルの石柱が、静かに音もなく滑り落ちた。


「す、すごい……!聖剣ゼータ、やっぱり伝説は本当だったんだ!」


アーサーは子供のように笑い、剣を掲げた。


少し遅れて、リナが目を開ける。

まだぼんやりとした表情で、彼女は手元を見つめていた。


(杖が言ってた……“真の力”って、なんのことだったんだろう……古代魔法に関係してるのかな)


リナはそっとオミクロンを握る。

手の中に、温かい脈動のような魔力が伝わってきた。


「うん……すごくしっくりくる。しかも、この杖……オシャレ!」


彼女は笑いながら杖を軽く振る。

しかし、この時リナはまだ知らなかった──この杖が秘める“真の覚醒”の力を。


最後に、イーライ。

彼は……やっぱり立ったまま失神していた。


リナがため息をつき、杖の先で彼の頬をつん、と突く。


「おーい、イーライ君!バトルの時間だよー!」


その声に、イーライの体がビクンと跳ねる。

目を開けた彼は周囲を見渡し、慌てて状況を確認した。


「あ!僕、気を失っちゃったみたいだね……ごめん、ダメだったんだ……悔しいよ……!」


小さく震える声。だが、その手には重厚なハンマーが握られていた。

マキヤが笑いながら言う。


「ははっ、イーライ!君が握ってるの、それ──古代兵器ガンマだよ!」


「えっ!?ほんとに!?うわ、重さが全然ないよ!すごいっ!」


イーライは無邪気にハンマーを振り回す。空気がうねり、足元の石が砕けた。

その力を感じ取り、皆の顔に再び笑みが戻る。


――――


クロウが前に進み出た。

その声はいつになく重く、静かな威厳を帯びていた。


「古代の試練、見事であった。心配はしておらなんだが──最高の成果を得たのは事実。これで、また一歩、“原初の闇”に近づいたと言えよう」


六人は静かにうなずく。

彼らの手には、それぞれの“真なる武器”が光を放っていた。


「己の見立てではあるが……古代兵器は“わざと”エネルギーを枯渇させて保存されておったのだろう。再起動の条件は、設定された魔力と生命エネルギーを超えること──それが、この試練の真意だったのではないかと考える」


「ってことは……俺たちは、その限界を超えたってことだな」

アーサーが息を整えながら言う。


クロウは静かにうなずいた。


「うむ。そして、武器に込めたエネルギーは、すべて己の力として還る。おぬしたちは、今この瞬間──新たな境地に立っておる」


その言葉に、全員がわずかに笑う。

誰もが心の底からの達成感に包まれていた。


――――


「なあ、アーサー……今日から、魔法転移、解禁にしないか?さすがにもう……体が限界だ……」

ゼノがふらつきながら口を開いた。


「そうだな。今までは修行のために封印していたが……今後は必要になる。今日から解禁しよう」


アーサーも疲労の中で頷いた。

マキヤが両手を挙げて喜ぶ。


「え!?そんな魔法あるの!?よかったぁ、歩かなくて済む!」


リナが前に出る。

杖オミクロンを軽く掲げ、柔らかく微笑む。


「では、このフロアに転移魔法陣を作りますね。行き先は……“魔都市ニド”でいいですか?」


「魔都市ニドで頼む。もう、歩けそうにない……」

アーサーは笑いながら頭を掻いた。


「了解です。では、魔都市ニド周辺に座標を合わせますね」


杖の先から淡い光の粒が放たれ、空中で幾重にも重なりながら形を成していく。


やがてそれらは絡み合うようにして地面へ降り注ぎ、足元には幾何学模様が精緻に描かれていった。


魔力の流れがゆるやかに高まり、空間全体が微かに震えている。まるで空気そのものが生き物のように鼓動しているかのようだった。


転移魔法陣が完成する。


六人がゆっくりとその中心へと歩み寄り、互いの視線を確かめ合う。

誰も言葉を発しないが、わずかな呼吸の音が、緊張と覚悟を物語っていた。


足元の紋章は淡い青から白銀へと色を変え、まるで光の水面が揺らめくように波打っている。

その輝きは次第に強まり、輪郭が見えなくなるほどの眩さに包まれた。


リナが静かに杖を掲げ、澄んだ声で言葉を紡ぐ。

彼女の瞳には一片の迷いもなく、ただ目的地を見据える強い意志だけが宿っていた。


「──《アストラルゲート》」


その瞬間、光が弾けるように広がり、六人の姿は眩い閃光の中へと溶けていった。


──彼らが立っていたのは、魔都市ニドの壮麗な城門の前だった。


――――


乾いた風が頬を撫でる。

試練を終えた彼らの瞳には、確かな自信と、新たな決意の光が宿っていた。


六人は、まず宿屋を探した。

クロウとイーライ以外のメンバーは、すでに限界ギリギリ。

血の気が引いた顔で、それでも必死に歩き続けていた。

通りの明かりがぼんやり滲むころ、ようやく大きくて立派な宿を見つける。

石造りの外壁に灯るランプが、夜の空気にやさしく揺れていた。


受付を済ませると、全員がまるで糸が切れたようにベッドへ倒れ込む。

鎧が床に落ちる音と同時に、誰もが静かに眠りへ落ちていった。

戦いの緊張が解けるその瞬間、ようやく“生きている”という実感が戻ってくる。


翌日は、久しぶりの自由行動だった。

四つの神殿を攻略した自分たちへの、ささやかなご褒美だ。


朝の光がカーテンを透かし、鳥の声が聞こえる。

束の間の平和が、彼らの心を少しだけ軽くしていた。


リナとクロウは、街のはずれで古代魔法の訓練をしていた。

魔力の流れを確かめるように、二人の周囲に魔法陣が次々と浮かび上がる。

クロウの掌から魔力が立ちのぼり、リナの詠唱とともに形を変えていく。

大気がうねり、地面が振動し、風が唸る。


「クロウさん!やっぱり難しいです……!四つの詠唱までは何とか出来るんですが、それを一つにまとめようとすると、全部がぶつかって壊れちゃうんです!」


「なら、もっと強くイメージしろ!力でねじ伏せるんじゃない。四つの詠唱を一つの旋律に編み込むんだ。焦るな、少しずつでいい……だが、絶対に手を止めるな!」


「……分かりました!もう一度、最初からお願いします!」


リナの声が震えながらも、確かに熱を帯びていく。

魔力が迸り、空気が火花のように弾けた。

その瞳の奥には、限界を超えてでも“頂”へ届こうとする強い光が宿っていた。


一方、イーライは宿の一室で黙々と古代書を読み解いていた。

机の上に広げられた書物のページには、金色の文字が浮かび上がる。

光が指先を走るたびに、空気が震え、部屋が淡く輝いた。

彼はもう、誰よりも深く“禁術”の領域に踏み込んでいた。


書の中に出てきた禁術は三つ。


一つ目は「癒」。

無限の再生をもたらすが、痛覚が消える。

その力は、受けた攻撃さえも糧に変え、限界を超えて戦い続けることを可能にする。

まさに“狂気の治癒”。


二つ目は「光」。

天から降り注ぐ巨大な光の剣が、敵を滅するまで止まらない。

轟音とともに空を裂き、世界を焼き尽くす神の裁き。

その光が一度でも地を打てば、地形ごと消し飛ぶだろう。


三つ目は「聖」。

全てを無に返す、神聖なる白の爆発。

悪も善も、生も死も――その一撃の前では等しく塵と化す。

まさに“神の領域”に踏み込む最終魔法だった。


「魔法陣解読……できている。よし、誤差なし!

魔法詠唱は完璧だ……神聖魔力も十分にみなぎってる!」

胸の奥から迸るような光が、血管を通って全身に駆け巡る。


「生命エネルギーも溢れるほどだ……そして、魔力制御――繊細だが、確かに掴んだ!」


震える声で、最後の言葉を吐き出す。


「……全部、クリアできた。間に合った……!」


イーライの声が響く。

その瞬間、床に刻まれた魔法陣が一斉に輝きを放ち、金の光が彼の周囲を渦巻く。

髪が逆立ち、空気がビリビリと震えた。

その姿はもはや人ではなく、神聖なる存在そのもののようだった。


「でも、この魔法の威力、大地が無くなっちゃうかも!楽しみだなー」


その笑みは無邪気で、けれどどこか恐ろしい。

部屋の空気がわずかに揺らぎ、天井の灯りが一瞬だけ暗くなる。

まるで、世界が息を呑んでいるかのようだった。


最終決戦の準備は、すでに整っている――。

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