Fランククラン
レオンは剣を構え、神速と心眼、身体強化、剛力――スキルを同時に解放した。
空気が振動する。鋭い緊張が場を支配し、周囲の空間さえ歪むかのようだ。圧倒的な魔力が、彼の全身を奔流のごとく駆け巡る。
同時に、剣の刃に魔力を注ぎ込む。白銀の刃の縁がうねるように光り、波動が脈打ち、まるで生き物のように振動する。剣先からは熱と光の軌跡が飛び散り、周囲の空気を焦がす。
「……あ、本気にされちゃったかな?」
アーサーは軽く息を吐き、構えを変えた。
技の力を静かに解き、両手で剣を握り直すと、顔の横で鋭く突きを構える。
その姿は隙がなく、まるで相手の心ごと見透かすかのような冷徹な眼光を放っていた。
レオンが一歩前に踏み出す。
次の瞬間、空気が裂けるかのような音もなく、彼の身体は光の残像を引き連れて駆け抜けた。
神速──その名にふさわしい、視界すら捕らえられぬ速さ。まるで時間さえも置き去りにしてしまうかのようだ。
レオンは上段から振りかぶり、剣が風を裂いた。
轟音とともに、斬撃が大地を叩き割らん勢いで振り下ろされる。
だが、アーサーは一瞬の判断で後方へ跳躍。
刃先が髪をかすめ、銀の線を描いて空を切った。
「ここからだぞ……!」
レオンが吠え、次の瞬間には剣が低く薙ぎ払われる。
地を滑るような一撃――下段からの鋭い刃が、唸りを上げて胴を狙う。
だが、アーサーはその動きを完全に読んでいた。
ほんの紙一重、刃の風圧が頬を掠める距離で回避する。
その双眸は一瞬たりとも相手を見失わない。
レオンの表情に、焦りが滲む。
息を吸い込み、怒気を鎮めるように低く呟いた。
「阿修羅一刀──《ヴェル・カスケード》ッ!!」
咆哮とともに、黒刃が嵐のように振るわれた。
一瞬で無数の斬撃が空間を切り裂き、剣圧だけで石床が粉砕されていく。
爆ぜる魔力の奔流が暴風となり、観客席を震わせた。
(!!これを全部、受けきるのは無理か。なら――)
アーサーは静かに息を吸い、目を細めた。
そして低く、確かな声で呟く。
「勇者の絶対防御──《ノヴァ・ガード》」
瞬間、眩い光が炸裂する。
アーサーの身体を中心に、白い輝きが球状に広がり、世界を包み込んだ。
黒刃の嵐がその光に触れた瞬間――すべてが消えた。
轟音も、衝撃も、斬撃の気配さえも。
そこに残ったのは、ただ、圧倒的な“静寂”。
金属が擦れる音も、魔力が弾ける音も、すべて光に呑まれて消えた。
だが、アーサーはまだ突きの構えを解かない。
「まだだッ!!」
レオンの斬撃は止まらない。
攻撃の速度も、重さも、刻一刻と増している。
まるで自らの限界を壊すように、狂ったように剣を振り続けていた。
(なるほど……相手の強さは大体把握できた。勇者ルシエルより少し下……この実力なら、クランの護衛を任せられるな)
アーサーの表情が、ゆっくりと変わっていく。
その瞳に宿る光は、まるで研ぎ澄まされた刃――冷たく、鋭く、何者も寄せつけない。
嵐の斬撃の向こう。
そこに、確かにレオンがいる。
轟音も、閃光も、もはや意識の外。
アーサーの視界には、ただ一つの標的だけが映っていた。
ならば――嵐ごと撃ち抜く。
空気が震える。
張り詰めた静寂が、まるで世界を凍りつかせたようだった。
アーサーは低く息を吐き、地を踏みしめる。
その口から、静かに、しかし確かな殺意を帯びた声が紡がれる。
「我流一式──《ブレイズサージ》」
世界が音を失った。
瞬間、聖剣エクスカリバーの刃先に、圧倒的な魔力が渦を巻いた。
白銀の光が炸裂し、まるで太陽そのものが降り注ぐかのように世界を照らす。
その聖光の奔流となり、空間を切り裂き、音もなく、しかし凄まじい勢いで前方へと突き進んだ。
――閃光。
聖光の刃は、時間を断ち切るかのような速度で空を切り、無情にもレオンの鎧と左腹部を貫く。
「ぐっ……!」
膝が震え、地面に膝をつくレオン。
その姿は一瞬で、静寂と緊張に包まれた戦場の中に、凍りつくような影を落とす。
さらにアーサーが神速で踏み込み、刃をレオンの首元に突きつけた。
風すら遅れて届く。
「俺の負けだ……悔しいが、お前の強さには届かないようだ」
レオンは苦笑いしながら剣を下ろした。
アーサーは剣を引き、微笑んだ。
「試合前の約束、覚えてる?」
「あー、覚えてるさ。俺のことは煮るなり焼くなり、好きにしろ!」
レオンの声に観客が笑い声を上げる。
その中で、二人だけは真剣だった。
「実はさ、俺もクランを作ったんだけど、いや、できる予定なんだけど、うちのクランと連合を組んでもらえないかな?メインはウチで攻略を進めるけど、護衛部隊が足りなくて困ってたんだ」
アーサーが言い終えると、レオンは驚いた顔で笑った。
「そんなことでいいのか?それなら後日、話を詰めようじゃないか」
二人は、互いの手を力強く握り合った。
剣闘士大会は本来、二日間の予定だった。
だが、その日の戦い――アーサーとレオンの一戦だけで、全てが終わった。
――――
二日間の予定だった剣闘士大会は、一日で幕を閉じた。しかし、観客の興奮は収まるどころか、会場全体が震えるほどの盛り上がりを見せていた。
二人は手を振りながら会場を後にした。休憩室に戻ると、レオンは瞳を輝かせて食い入る様に問いかけてきた。
「よう、アーサー、お前はその歳で何であんなに強いんだ?」
「俺は生まれた瞬間から鍛えているからね!鍛えてない日は一日もないくらい訓練してるんだ」
アーサーは、まるで当たり前のことのように答えた。
「だからといって、あの実力は規格外すぎる!」
剣を交えた経験があるレオンだからこそ、アーサーの底知れぬ力を肌で感じ取っていた。
「でも、レオンだってまだ本気出してなかったでしょ?お互い様だよ!」
アーサーは笑みを浮かべ、軽くレオンの肩に手を置いた。
レオンは、まるで自分の底を見抜かれたかのような感覚に襲われる。
「こりゃ、ヤバすぎる男が現れたな……」
レオンは苦笑を浮かべた。
「じゃあ、明日、クラン蒼雷牙にお邪魔してもいいかな?」
アーサーは興奮を抑えきれない様子で言う。
「ああ、かまわない。明日の予定は必ず空けておく」
そう言うと、アーサーは勢いよくギルド本部へと駆け出した。
――――
アーサーはギルド本部の重厚な扉を押し開けると、真っ先に二階のギルドマスターの部屋へ駆け上がった。
〈コンコン〉
「クランの創設について話をさせていただいたアーサーです。ギルドマスターいらっしゃいますか?」
「アーサー君、入っていいよ」
「失礼します」
扉を開け、部屋に踏み入れるアーサー。
「ギルドマスター、剣闘士大会、「ご覧になっていただけましたか?」
アーサーは背筋を伸ばし、胸を張っている。
アームスは眉間に深い皺を寄せている。
「一つ尋ねたいのだが、君はなぜFランク冒険者をやっているんだ?あの腕前なら、Sランクにも届くはずだぞ!」
ギルドマスターの言葉に、アーサーは少し考え込む素振りを見せるが、すぐに答えた。
「冒険者でランクを上げるとなると、雑用から始める必要がありますよね?それが俺には合わなかっただけです。
でも一度だけミノタウルスを討伐してギルドに報告しましたが、報酬がもらえるだけでランクは上がりませんでした」
アーサーは一呼吸置く。
「だから俺はランクにこだわらず、クランを作るために動いてきたわけです」
ギルドマスターは静かに頷き、問いかける。
「クランを作って何をするつもりだ?まさか聖魔大戦に参入するつもりか?」
「俺が見ているのはその先の世界です。聖魔大戦では“光の勇者”ガイアが前線に立っているし、SSSクランの戦力も大きい。戦況から見るに、かなり有利に戦いを進めていると思いますよ」
「その先の世界だと?おかしなことを言う。それはどんな世界なんだ?」
「全てが闇に包まれた世界です。勇者の力も、魔王の力も届かない、絶対的な闇の力が支配する絶望の世界……」
アーサーの瞳には迷いが一切なかった。
「闇か……にわかには信じられんな」
アームスは疑念の色を隠せない。
「信じてもらえなくても構いません。「ただ、これが遊びではないことだけは理解してほしいです。ちなみにクランが創設できれば、SSSクラン《ゼウスロア》と同盟を組むことになります」
「レオン・アークライトと同盟を組むのか!あの孤高のレオンが?」
「…………分かった、君たちのクラン創設を認めよう」
アーサーはガッツポーズで喜ぶ。
「ありがとうございます!一生懸命精進します、クラン名は──闇斬でお願いします!」
「承知した。書類の手続きはこちらでしておくから、君はもう帰っていいよ」
アームスはまだ少し納得がいかない様子だった。
次の日、アーサーは朝から《ゼウスロア》のレオンに会いに行くことにした。その建物は豪壮で、要塞のような作り。侵入は不可能に見えた。
アーサーは扉を勢いよく開け、中へ踏み入る。そこには数人の冒険者が座っていた。
「ん?お前は……!!!レオンに打ち勝ったやつじゃねーかっ!何しに来やがった!」
冒険者は剣を構え戦闘体制に入る。
「あのー、今日はレオンさんと話し合いに来たんですけど、俺と決闘したいんですか?」
アーサーの目が鋭く光る。
冒険者はその視線に怯み、剣を下ろす。
その時、レオンが数名の冒険者を連れて帰還した。
「おお!アーサーじゃないか、早速来てくれたんだな。すぐ準備するから、階段上って右側の部屋で待っていてくれ」
レオンは忙しそうに言い、別の部屋へ去った。
アーサーも二階へ上がり、右側の部屋に入る。壁には歴戦の剣がずらりと飾られていた。
「へー、色んな剣があるんだな……お、この剣は中々だな」
アーサーが興味深く見入っていると、レオンが部屋に入ってきた。
「待たせたな。アーサーは剣が好きなのか?」
レオンは嬉しそうに笑った。
「うん!俺は剣が大好きなんだ。だからこの部屋は居心地がいい」
アーサーの笑顔は子供のように輝いていた。
「それはよかった!ゆっくりして行っていいぞ」
レオンも自然に笑みをこぼす。
「ところで、レオンはどんな剣を使っているんだ?」
「俺の剣は一応聖剣だが、自分の魔力を込めすぎると破壊される仕様なんだ。通常戦闘では、半分も魔力を込められない」
「なんでそんな中途半端な剣使ってるんだ?」
「……俺に合う剣がないんだ。聖剣なんて簡単に手に入るものじゃないからな」
アーサーも剣を愛する者として、その悔しさが痛いほど理解できた。力はあるのに剣が耐えられない。昨日の大会で本気が出せなかった理由も、これで腑に落ちる。
アーサーは腰の剣を抜き、レオンの前に差し出す。
「この聖剣の名は──《アストラギア》。かつて古の勇者が魔王を討ち滅ぼした伝説の剣だ。レオンになら、この剣を使いこなせると思う」
レオンは剣から放たれる神聖力に圧倒され、目を見開いた。
「伝説級の剣で間違いない……だが、受け取れない。お前の剣がなくなるじゃないか」
アーサーは微笑んだ。「大丈夫だ!俺専用の愛剣があるから」
レオンは信じられない様子で再確認する。「本当に……使っていいのか?」
「同盟を組むクランのリーダーの武器は、伝説級でないと務まらないよ」
「ありがとう!アーサー!やっと俺も思う存分戦える!」
剣好き二人は喜びを爆発させた。
そして話は本題に入る。
――――
「まず、お前のクラン名を教えてくれ」
「クラン名は、闇斬だよ」
「いい名だ。ここからが重要だが、ヴァルスレイとゼウスロアで同盟を組み、何をするんだ?」
「レオン、この話を聞いたら後には引き下がれない。大丈夫か?」
アーサーの目は鋭く変化する。
レオンは少し考え、決意を込めて答えた。
「わかった、話を聞こう」
アーサーは目を閉じ、静かに語り始める。
「現在、セルドニア大陸西側で謎の闇の勢力が力を増し、魔大陸を飲み込もうとしている。魔族は抵抗しているが、逆に飲み込まれつつある」
「人族はまだ気づいておらず、魔王軍と勇者パーティーの戦いに全力を注いでいるが、実際には魔王軍は闇とも交戦中で、挟み撃ち状態にある」
レオンは耳を疑うような表情で固まる。
「もうわかると思うけど、俺たちの目的は原初の闇を倒すこと。そのためにはレオンの力が必要だ。
闇は魔大陸を飲み込んだ後、必ず俺たちの世界も飲み込もうとする。だから、その前に闇を討たなければいけない」
レオンは突然の話に戸惑う。これは本当なのか、それとも一部だけか……疑心暗鬼が胸を締めつける。
それでも最後に質問をした。
「それで、俺たちにどんな仕事を頼みたいんだ?」
「ヴァルスレイのメンバーを原初の闇の場所まで護衛してほしい。俺たちはできるだけ体力を温存して、全力で原初の闇と対峙するつもりだ」
「なるほど、護衛任務だな」
「ああ、前向きに考えてくれ。もちろん、こんな話簡単には信じられないだろう。返事はすぐにとは言わない。心が決まったら連絡してくれ」
「……わかった。ゆっくり考える。メンバーにも話を通さなきゃな」
レオンは重いため息をついた。
「想像を絶する旅になる。それだけは覚悟しておいてくれ。それと他言無用で頼む」
そう言うとアーサーは静かに帰路についた。




