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獣人の森

ガーディアンの姿が完全に消え去ると、その瞬間、神殿の最奥にある巨大な扉が重々しい音を立てながら開かれていった。

その荘厳さに、一同は思わず息を呑む。まるで「次なる試練へ進め」と誘われているかのようだった。


イーライが誰よりも早く飛び出した。子供のような勢いで駆け込み、目の前の光景を見て大声を上げる。


「わーっ! すごいよ!大きな石版があるー!

それに……!!! すごい数の武器と防具と魔道具が床いっぱいに転がってる!」


アーサーたち三人も遅れて扉の中に入る。その光景に、彼らも目を奪われた。

壁一面に古代の装飾、床に並ぶ数百もの武具、そして中央に聳え立つ石版。


その瞬間、リナの目が鋭く輝き、まるで獲物を見つけた獣のように猛ダッシュで石版へと走り寄った。


近づいてみれば、それは人間の背丈を優に超える巨大な石版。そこにはびっしりと古代文字が刻まれ、幾重もの魔法陣が重なり合って浮かび上がっている。


「一時間だけ……待ってもらえませんか?

この石版には、とんでもなく興味深いことが隠されている気がします」


リナの目は完全に学者のそれだった。好奇心と探究心に燃える彼女の声は震えすら帯びている。


「よろしく頼む!」


アーサーは快く承諾すると、すぐに散らばる武具や魔道具の鑑定を開始した。

この神殿に眠る品々は、ここで命を落とした数え切れぬ戦士たちの遺品である可能性が高い。

彼は胸の奥で、倒れた戦士たちの意志を受け継ぐ覚悟を抱いた。


特にアーサーは、己の剣に常に不満を抱いていた。

「自分の全力を受け止め、振るえる剣」を探し続けていたのだ。


「スキル、鑑定……ん? この剣は悪くない……けど違うな。これも……ダメ、ダメ、ダメ……」


次々と手に取っては却下し、諦めかけたその時だった。

石版の裏に隠されるように、祭壇に突き刺さる一本の剣を発見する。


アーサーの瞳が一気に輝きを増した。

祭壇の剣は、見るからに神聖魔法を宿す雰囲気を纏い、周囲の空気さえ澄み渡らせるようだった。


「これは……すごい! スキル、解析!」


剣の名は──アストラギア。

かつて古の勇者がこの神聖剣を振るい、魔王を討ち滅ぼしたと伝わる伝説の剣であることが明らかになった。


「よし……! やっと見つけた……。だが、この手応えだと、まだラグナロクの方が上か」


少しの不満を口にしつつも、アーサーは確かな充足を胸に抱き、聖剣アストラギアを手に入れた。


次に探すのは、ゼノにふさわしい魔剣。


「あの中に眠る剣……すべての魔力を探ってみるか。スキル魔法感知、発動──」


その時、アーサーの目が大きく見開かれ、声が震えた。


「……っ!? これは本当なのかっ!?」


その声に、ゼノとイーライが反応する。


「どうしたアーサー? 何を見つけた?」


焦った様子のアーサーは、部屋の隅にひっそりと置かれていた一本の黒い剣を手に取り、ゼノの前に差し出した。


「……!! まさか──魔剣グラムかっ!!」


ゼノは目を見開き、息を呑んだ。

その声は驚愕と歓喜が入り混じり、長年探し求めていた宝をついに見つけた者のものだった。


彼がその古びた黒い剣を握りしめた瞬間、刃に眠っていた魔力が呼応するように震え、空気がびりびりと震動する。


ゼノの手から流し込まれた魔力は瞬く間に剣へと伝わり、鈍い漆黒の輝きだった刃が、やがて鮮烈な赤光を帯び始めた。


「久しいな、魔剣グラムよ……!」


その声音は歓喜に満ち、同時に懐かしさを滲ませていた。

まるで失われた戦友との再会を果たしたかのように、ゼノは剣に語りかける。


「主は余程、我と共に戦いたいと願っていたのだな! 長き時を経てもなお、この刃は我を待ち続けていた……!」


周囲の空気が赤々と燃えるように揺らぎ、床石までもがその魔力の圧に軋みを上げる。

ゼノの瞳には、戦士としての誇りと歓喜が宿っていた。


続いて、イーライのためのウォーハンマー探しに移る。


「神聖魔法を宿すことができるウォーハンマーなんて……本当にあるのか?」


疑問を抱きつつ、スキル鑑定で神聖力を持つ武器を一つ一つ探る。

並ぶ武具からは様々な気配が溢れ出していたが、その中でひときわ強力な波動を放つ一本が目に留まった。


長さ二十五センチ、太さ十センチの小ぶりなハンマー。柄は二メートルを超え、高位の神聖者が用いていたと記録されている。


その表面には淡く輝く古代の紋様が刻まれ、見る者に畏怖と神聖さを同時に抱かせた。


「セイクリッドハンマー……!」


アーサーはその名を口にすると、イーライを呼んで手渡す。

イーライは満面の笑みを浮かべ、嬉々として振り回し始めた。


「すごい! このハンマー、凄く軽いのに力がみなぎってる!

しかも神聖魔法を流し込めるんだ! 最高だね!」


最後に必要なのはリナの杖だった。

魔力感知を使い、数多の杖から最も強大な魔力を宿す一本を選び抜く。


「これが一番だ……! スキル解析…」


『――アルカナロッド』

「秘術の杖」 神秘的な魔法全般を操る万能な杖。賢者や高位魔導師にしか使いこなせない。


アーサーがその杖をリナに見せるが、彼女は夢中で石版を解読しており気づかない。


その姿を見て、三人は苦笑した。


――――


──一時間後。


「ふぅ……古代語の解析、終了しました」


「おおっ!!」


三人から歓声が上がる。


「して、どうであったか? 古代魔法の手がかりは得られたか?」

ゼノが興味深く問う。


「リナねーちゃん! すっごく大変そうだったけど、大丈夫?」

イーライも心配そうに覗き込む。


リナは微笑み、落ち着いた声で語り出した。


「石版の古代語、すべて解読できました。

内容は、古代の国々の争いや平和への願いについてです。

彼らは我らより遥かに高度な文明を築いていましたが、絶え間なく続いた争いが引き金となり……やがて滅亡してしまったのです」


一呼吸置き、さらに続ける。


「特に魔法技術は群を抜いて発展していました。

創世魔法という常識外れの魔法すら存在し、人々は今の十倍以上の魔力を持ち、魔法と共に暮らしていたのです」


三人は言葉を失った。想像すら超える古代の姿に、ただ驚嘆するしかなかった。


リナは最後の部分を告げる。


「『ここに闇を滅する古代創世魔法を記す。

闇の力は巨大で、それを止めるのは不可能に等しい。

ならばこの魔法を使え。極めろ。

それしか世界が生き残る道はないと思え』」


言葉を終えた瞬間、空気が一気に張り詰める。


「お疲れ様だ、リナ……ありがとう」

アーサーは優しい声で労い、スキルを使い石版の内容を念写した。


「古代語の“闇”……きっとそれは原初の闇だろう。

だが、まだ肝心な発動方法が分からないな」


「ええ。ただの詠唱では足りません。

次に探すべきは、その“鍵”です」


ゼノが笑う。


「ならば、すべてのガーディアンを狩れば良い! ハハハ!」


「残り三体! 全部狩っちゃおうよ!」

イーライも元気いっぱいに叫ぶ。


「やっぱりそうなるか……」

アーサーは苦笑しつつも頷いた。


リナは真剣な面持ちで頭を下げる。


「古代魔法を習得するため……どうか力を貸してください!」


「当たり前だよ、仲間なんだから!」

イーライはにこやかに返した。


その夜、四人は作戦会議を開く。


アーサーが地図を広げ、指で示す。


「今いるのは最東端の神殿だ。

次に北の神殿へ行くには、獣人族の森を抜ける必要がある。

だが迂回すれば約四千キロ……遠回りになる。どうする?」


ゼノは即座に答えた。


「徒歩で最短ルート。獣人の森を抜ける」


仲間たちはその言葉に頷き、新たなる冒険の決意を胸に刻んだ。


――――


クラン登録はしてないが、メンバーは四人になり、旅も本格的な旅になってきたことに、アーサーは喜んでいた。


百年前、仲間たちと旅した日々を思い出す。

かつての仲間と過ごした、笑い合い、戦い、語り合った時間。

その記憶が胸を温かく満たしていく。


「……またこうして仲間と旅ができるとはな」

アーサーは心の中で呟き、微笑んだ。


四人の旅は順調だった。

道中、モンスターと何度も遭遇するが、それは全て食材になった。


「やったー! 今日も肉ゲット!」

イーライが笑顔で叫ぶ。


「……お前は本当に元気だな」

ゼノは呆れたように言いながらも、倒したモンスターの素材を丁寧に回収していた。


リナは小さく頷きながら、


「魔物の肉は匂いが強いですけど、調理すれば美味しくいただけますね」


と嬉しそうに鍋をかき混ぜる。


「百年前はこんなふうにのんびり食材を確保する余裕なんてなかったのにな……」

アーサーは焚き火を見つめ、遠い日を思い出していた。


そして人助けもした。


盗賊に囲まれている馬車を発見。

するとイーライが走り出す!


「イーライ止めろ! 今の君では……」


アーサーが言った瞬間、盗賊のカシラの頭が割れていた!


「えへへ……やっちゃった」

イーライはハンマーを肩に担ぎ、無邪気に笑っている。


「あちゃー、だから止めたのに……ご愁傷様です」

アーサーは苦笑いしながら言った。


リナは呆れ顔で、


「イーライ君……加減を覚えましょうよ」


ゼノは肩をすくめ、


「まあ、助けられたのは事実だ。被害がなかっただけ良しとすべきだろう」


助けられた馬車の人々は震える手で深々と頭を下げ、涙ながらに感謝を述べていた。

それを見たアーサーは、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。


――――


ようやく森が見えてきた。

獣人族が支配している森だ。

地図上ではかなり大きな森だったはず。


「森に入れば、間違いなく警戒されるだろう」

アーサーは小声でつぶやく。


だが、今は進むしかない。

四人は警戒しながら、森へと入っていった。


森には光が差し込み、周囲は明るく、モンスターの存在もなかった。

四人は面倒ごとに巻き込まれないように、少し早めに歩いている。


そして、何事もなく夜を迎えると、森の中で野営した。


ゼノが干し肉を食べながら、話し出した。


「獣人族は耳がよく、鼻が利く。おそらく我たちのことも気づいておるだろうな」


「そうですね。半径三十メートル以内に、十五の魔力を感じます、それも好戦的な魔力ですね。

この魔力の質からして、間違いなく獣人…ですね」

リナがお茶をすすりながら言った。


アーサーは深いため息をつく。


「なんでこうなるんだよ! あ! てか、防御結界張ればよくない?」


「じゃあ僕が結界貼るね!」

イーライはにこやかに笑い、手をかざした。


神聖魔法──《クリスタヴェール》

純粋で透き通った神聖な結界が四人を包んだ。


「これでよし!」

イーライは胸を張る。


「さて、そろそろ訓練を開始するか」


ゼノが言うと、各自準備を始めた。

ゼノはリナと出会ってからずっと、魔力の制御方法を教えていた。

何度も何度も同じことをさせている。


そして、神殿で手に入れた杖の効果もあってか、暴発することはなくなっていた。

これは、リナにとって、本当に喜ばしいことであった。


――――


──早朝


四人は足早に出発した。

魔力の気配は、まだ消えていない。

特に気にせずひたすら進むことにする。


かなりの距離を歩いた頃、それは見えてきた。


獣人国リシュラ──


獣人が全てを支配する国。

入る事は許されているが、少しでも怪しい動きをすれば国から追放される。

だが、森を抜けるには、この国を抜けなければならなかった。


道にはレンガが敷かれてあり、家は木造が立ち並ぶ。

街には、出店も少し出ていて、なかなかの活気を見せていた。


四人は宿をとり、旅の疲労を癒す。

夜には酒場に集まり、ご当地料理を楽しみながら、酒を飲む。


ゼノがリナに話しかける。


「最近魔力制御、できているようだな」


「そうなんです! 最近調子良くって。あれ以来一度も暴発していないのが夢のようです!」


リナの顔がほころぶ。

その瞬間!!


ゼノの顔面が爆発した!


「ボンッ」

以前の爆発よりは、はるかに威力が弱い!


ゼノは涼しい顔で言った。


「まだまだだな」


リナは猛反省!

アーサーとイーライは大爆笑していた。


――――


翌朝、四人は旅の準備を終え、獣人国リシュラを後にした。

半日ほど歩くと、森を抜けた。

そこには平原が広がっている。


すると、広大な平原の只中で、激しい戦闘が繰り広げられていた。

一対五──数の上では圧倒的に不利な戦い。


だが、一人の戦士は微塵も怯まず、双剣を翻し迫る五人の攻撃をすべて弾き返す。

刃と刃が衝突する度に火花が散り、金属音が稲妻のように響き渡る。


一人の戦士は大地を蹴ると、風そのものになったかのように舞い上がり、宙を縦横無尽に駆け抜ける。


五人は必死に追撃を仕掛けるが、その双剣の軌跡は影のように掴みどころなく、誰一人として一撃を与えることができない。


まるで一人が五人を弄んでいるかのような戦況。

見る者に恐怖すら抱かせるその戦いぶりは、ただの戦闘ではなく──芸術に近いものだった。


バラバラに隊列を組んでいた五人が一塊りになると、一人の戦士はすかさず印を結び、忍法を出した。


火遁──《絶火球》


口から巨大な業火球が吐き出される。

五人は炎に飲まれ、次々と倒れて行った。


一人の戦士は、五人が死んでいないことを確認すると、走って街の外に出ていった。


四人はそれを見送ると、自分たちの旅も始めた。


「あれ、絶対忍者だと思うんだよなぁ」

アーサーは楽しそうに言ってきた。


「そうですね、獣人は忍者を職業とするものが多いと聞きます。

耳での感知や匂いでの感知、魔力でも感知してきます。

隠密行動はお手の物で、状況把握が得意と聞きます。

双剣での攻撃は乱舞のごとく、確実に相手を追い詰めます」

リナは一気にしゃべった。


「リナねーちゃん、物知りだね! すごい!」

イーライの言葉に少し照れる。


「獣忍者を仲間にすると色々と便利ですよ、クランの戦闘力は間違いなく上がります」

さらにリナは話した。


ゼノは特に興味を持たなかったが、アーサーはどうやら獣忍者に強い関心を抱いているようだった。

目を輝かせてその背中を追いながら、彼はぽつりと呟いた。


「……話しかけて、友達になろうかな?」


「やめておけ」

ゼノは眉をひそめ、即座に釘を刺す。


「ただの女好きにしか思われんぞ」


だが、アーサーは女好きだった。


「あの戦いぶりも気になるし……よし、ちょっと行って話しかけてくる!」


そう言うやいなや、彼はためらいもなくダッシュで獣忍者へ駆け出した。


「……ほんとに呆れたヤツだ」

ゼノは深いため息をつきつつも、その姿から目を離せない。


一方でイーライは肩をすくめ、楽しそうに笑った。


「アーサー、朝から元気すぎるよ! でも、ああいう素直さは嫌いじゃないけどね」


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