8.勉強が出来過ぎてしまう俺と何も知らないあいつ
今日は五月十九日。
数学のテストの日だ。
俺たちの学校では、数学だけ定期的にテストを行っている。
進度が早く、全員がちゃんと着いてきているか確認するためだ。
だから今日はかなり大事な日なのだが、昨日鈴華が人のいる前で抱きついてきた件について香奈美のと合わせて二日連続でクラスメイトに囲まれている。
正直早く最終確認をしたい。
けれども、それを皆は許してくれないようだ。
「清水さんに続いて、赤城さんともそーゆー感じなのか!」
「もう乗り換えたんか!」
「うらやましい限りだ〜」
「諏訪堂くんって案外女たらしみたいな感じなの?」
と、男子には茶化されたり羨ましがられたりしているが女子からは冷たい目線を浴びている。
「昨日はな、鈴華の方からいきなり来たんだよ。避けようがなかったんだ。信じてくれ!」
「「「ほんとか〜?」」」
なんか素直に信じてくれない。
そこに鈴華が来た。
「昨日は私が急に飛びついちゃったの。良いことあったから、教えてあげよーって思って。そしたら勢い余っちゃったの!」
「赤城さんが言うならまあ?」
「うらやましいな〜」
なんとなく鈴華がその場を収めてくれたため、どうにかテストが集中して受けられそうだ。
テストが終わった。
いつもと同じ五十分の時間の中で解いた。
俺は数学が得意な方なので、今回くらいの難易度だと満点は取れているだろう。
テストの出来具合の余韻に浸っていると、香奈美が近づいてきて耳元で「放課後ちょっと残って」と囁いた。
なんかしてしまったのかと考えたが思いつかず、少し怯えたままその後の授業を受けた。
放課後、香奈美がまた来た。
「今日の朝皆が盛り上がってた話ってほんとなの?」
「ほんとだけど、鈴華がなんか勝手にしてきた感じ。」
「いいな、赤城さん。私もそんくらいできるようになりたいな。」
「いやいや、流石にあいつはやばいから真似しないほうがいいよ。」
「真似できるところは真似するの!」
「案外頑固なんだな。なんか意外だな。」
「なんかそれやだー!あ、テスト返ってきたらわかんなかったところあるからそこ教えてくれない?」
「いいよ、俺でよければ。」
「やった!巡くんが良いんだー!」
俺は学年順位が五位以内だから求められるのも無理はない。
そして、俺たちはテストが帰ってきた週の土曜日に待ち合わせることにした。
五月二十三日
テスト返却日だ。
俺は自信満々に受け取る。
もちろん満点だ。
黒板に最高点が書かれる。
そこももちろん満点だ。
この瞬間がたまらなく気持ちいい。
昼休み香奈美が点数を聞きに来た。
「巡くん何点だった?私ね40点だったー」
「俺は満点だった。まあ勉強してたし手応えあったから妥当って感じかな。」
「えっ、じゃあ最高点書いてあったのも巡くんなの!すごっ!」
「ありがとう。これで心置きなく教えれるわ。」
「お!教える気満々だね〜!ぜひ教えてください!二人っきりで!」
簡単に返事をしそうになったが、最後の言葉が引っかかった。
二人っきりでなんてわざわざ言う必要あるのか?
違和感を覚えつつ返事をする。
「二十七日の昼過ぎで。」
「場所どーしよっか?」
「困ったな、静かで長時間いても迷惑にならなくて声ちょっと出しても大丈夫そうな場所か。」
「良いこと思いついた!私の家どう?」
「え?香奈美の家?まあいいけど、香奈美はいいの?」
「いいよいいよ!大歓迎!(二人っきりとかやばすぎ!)」
「おっけ、じゃあそれで。またな。」
「またねー!」
女子の家か、鈴華の家以外だとあんまり行ったことないな。
ちょっと緊張してしまう。
鈴華に黙って女子と二人でいるとなぜかいつも怒っている。
今回もきっと怒るだろう。
でも、言えばめんどくさくなるのは見えている。
よし決めた、言わないでおこう。
そして、土曜日になった。