5.平静を装う俺と攻めるあいつ
五分ほど歩き回り、ス⚫︎バを見つけそこに入った。
俺は意外にも初めて来たが、鈴華は何度も来たことがあるようだ。
とても慣れた様子で、注文をする。
俺も、初めてだとバレないように同じように注文をする。
席に座り、一呼吸置いた後に突然、鈴華が話し始めた。
「巡ってなんで高校入った途端、モテなくなったんだろうね。今までは何もしなくてもいるだけで女子集まってきてたのに。でも、これはチャンスなのかな?」
俺は、最後の一言の意味がよくわからなかった。
何のチャンスなのだろうか。
それより、ここの飲み物は美味い。
カロリーが非常に高そうだが、こんなのを飲んでもなんで女子は太らないのか不思議なくらいだ。
そんなことを考えていたら、私の話を聞いていたのか、と言わんばかりに顔をしかめている。
ちゃんと聞いていたさ。
俺のことが惨めに見えるってことだろ?
そろそろ夕方に差し掛かる時間帯になってきた。
「巡!映画行こ、映画!」
「今から?何見んの?」
「ないしょ〜!」
今度は、急に映画を観たいと言い出した。
まあいいだろう。
どうせ、恋愛物でも見るんだろ。
俺たちは、映画館へ向かった。
道中、鈴華はずっと鼻歌を歌っていた。
どんだけ浮かれているんだ。
映画館に着き、チケットを買いに行く。
やっぱり恋愛映画か。
鈴華は目を宝石のように輝かせている。
俺には、ああいう映画は刺さらなかったが、鈴華には刺さったようだ。
観終わった後、ずっと映画について喋ってくる。
正直な話、あんまり感情移入できなかったからよく観ていなかった。
だが、あまりにも鈴華が楽しそうに話すもんだから、話を合わせてやらなければと思い、感想を捻り出した。
二時間ほどの映画だったため、観終わると六時を過ぎ
ていた。
鈴華は、最後にファミレスに行きたいと言った。
俺も腹が減っていたので、行くことにした。
ファミレスに着いてすぐ、鈴華はオムライスにハンバーグ、山盛りポテトを注文した。
全く自分勝手なやつだ。
俺も慌てて、ステーキを注文する。
やっと落ち着いたと思った頃に、鈴華が質問してきた。
「あのさー、巡って好きな子とかいないの?小学校の頃からとか。今まででもいないの?」
「なんだ、急に喋ったと思ったら。別に、興味ないだろ?」
「あるに決まってるじゃん!私の大事な人なんだから〜!」
「なんだよそれ。まあ、さっきの質問に答えるとしたら今はいない、今までならいる、だな。」
「えっ、びっくり。てっきりただの女たらしだと思ってた。」
「俺のことを何だと思ってんだよ!」
「大事な人!(笑)」
なんだか、またぶっ込んできている気がする。
今日は、鈴華がいつもと違う、変だ。
何かあったのだろう。
俺も質問してみることにした。
「鈴華、最近良いことあった?それともなんかで悩んでる?いつもと違って変だからさ。」
「私のこと、よく見てんね!うーん、どっちもあるね!」
「言えそうなら言ってみな。相談くらいにはのれるから。」
「巡にはー言えない、かなー?」
「好きなやつでもできたか?」
「さあーね!」
鈴華が、すごい言葉を濁していたのが引っかかるが、言えないことなら仕方ないな。
俺は、あまり深掘りはせず、きていた料理を平らげた。
その後もたわいない話をし続けて、気づけばすっかり夜だ。
俺たちは最寄り駅に着き、そのまま俺は鈴華を家まで送り届け、自宅へ帰った。
自宅へ帰る途中、今日を振り返って気づいたことがある。
俺って、本命とのデートの練習台にさせられていたのか?
堕ちるところまで堕ちたな。
色々考えさせられた、16歳の誕生日だった。