3.気づいた俺と変わったあいつ
今日の俺は絶好調だ。
言うまでもない、待ち望んでいた八月三十一日だからだ。
俺は、集合時間の十分前に裏門についた。
いつも女子たちに囲まれているから驚くかもしれないが二人っきりで出かけたことがないのだ。
相当浮かれているらしい。
そうこうしているうちに、もう少しで薄暗くなりそうな空の下を歩く下駄の音が遠くから聞こえてきた。
ここは人通りが少なめの場所だからよく音が響く道だ。
その音を聞き、顔をあげると知らない女がいた。
目鼻立ちが整っていて、かなりかわいい。
髪も三つ編みしていてかなり手の凝った形をしていた。
そしていきなり
「ごめんちょっと遅れちゃった。久しぶり、元気にしてた?」
とその女に言われた。
俺はすかさず
「すいません、人違いじゃありませんか。」
と一言。
その女が間髪入れずに
「巡くん、だよね?」
と言ってきた。
俺は、頭をフル回転させた。
あの地味でメガネをかけていた鈴華だとわかるにはそう時間はかからなかった。
驚いた。
メガネをとって髪型を変えるだけで、人はあんなにも変わるものかと。
俺は、この衝動を隠すのが容易くはなかった。
平常心を保ったまま鈴華に
「それじゃあ、行こっか。」
と言い、祭りに向かうことにした。
この祭りは、地元でもかなり大規模なもので小学生以下のちびっこから高齢者まで幅広い年代の人たちが来る。
そんな中俺たちは注目を浴びる。
厳密に言えば、俺たちではなく俺の隣をまるで彼女であるかのように歩く鈴華だ。
俺たちは、祭りを楽しんだ。
射的、くじ引き、食べ歩き。
「今日楽しかった〜。また来年もきてぇな。」
「そうだね。こんなに楽しかったの久しぶりかも。」
「楽しんでくれて良かったわ。」
「また、来年も誘ってね。」
「おっけい!」
え?
まじかよまじかよまじかよまじかよ。
と驚きはしたが、俺はこの気持ちに気づいてしまった。
俺は、鈴華と友達を超えた親友になりたいんだ。
そこでまた口を開いた。
「俺たち、案外気合うからこれからも仲良くしない?」
「ほんと!嬉しい。」
俺の心の中は、暑い夜に飲むラムネくらいスッキリした。
「モヤモヤしてた気持ちってこれだったのか。」
そう思いながら鈴華の家の近くまできていた。
思い返すと、今日この一緒にいた時間で話していたものは、全て互いの好きなものについてだった。
これは、明日からの学校も楽しくなるな、と感じていた。
それからというもの、小学六年、中学三年間はクラスが同じで席もずっと近くであった。
幼なじみの定義は人それぞれだと思うが俺は、鈴華との関係を幼なじみだと思っている。
決して気になっている、好きだ、とかではない。
決してだ。
突然だが、俺は頭も良い。
中学三年の春までの時点、学年百五十人の中で毎回上から五人の中に入っていた。
一方、鈴華は、下から三番に入るくらいのバカだった。
鈴華は、中学に入ってから地味な見た目とメガネをやめ、なぜか持っていたセンスでスクールカーストを駆け上がって俺と並ぶくらいになった。
だが、それとは関係なく前から頭は悪かったらしい。
毎回テストの点数を見せ合うたび、俺は、心の中で
「一緒の学校は中学までか、寂しくなるな。」
と思っていた。
しかし、鈴華はそこから俺と同じ高校に行くために猛勉強を重ねた。
二人で図書館に行って勉強している時に
「もう無理〜!」
と言われても、あえて突き放すような言動を取ることで、やる気を出させ勉強が進むように俺も支援していた。
中三の冬、最後の模試の結果が返ってきた。
俺はいつも通り、校内二位と上位層にいた。
問題は鈴華だ。
けれども、そんな僕の心配をよそに校内五位をとっているではないか。
「やったな!このままいけば二人とも合格るぞ!」
「やったぁ〜!また、巡と同じ学校行けるんだ〜!」
「まだ、浮かれるのは早いぞ。」
と少し釘を刺しておいて、本番に臨んだ。
当日は雪が降りしきっていて、手が悴みまともにペンが握れそうになかった。
鈴華がいなければ。
鈴華は、その日カイロ持っていた。
温まったのは指先だけではなかった。
試験終了後は、会うこともなく解散した。
後日、合格発表の日に待ち合わせることにした。
「ひっさしぶり〜!巡変わんないな〜!」
「そういう鈴華は小五のころから変わりすぎな。」
そんな話をしながら、合格発表のため高校へと向かった。
県一の高校とあって、俺はかすかながらも緊張していた。
ただ、鈴華を見ていると緊張が解けていく。
俺は、番号を確認した。
「A0022、A0022」
「あった!鈴華は?」
「あったよ!あったりまえじゃ〜ん!」
「おめでとう!良かったな!」
「巡もじゃん!おめでと!」
二人で抱き合った。
その後、静まり返っているのでまわりを見渡すと白い目で見られていた。
「これからの高校生活大変になるな。」
そう思った瞬間であった。