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彼女の居場所

リリィはエドワードの言葉を受け止めながら、彼の感情がどれほど複雑であるかを理解できないまでも、頷くことで彼に寄り添うように努めた。彼女にとって、恋愛という感情はまだ理解の範疇ではなく、ただエドワードの苦しさを感じ取るのが精一杯だった。


「そう、サンドラさんを…大切に思っているのね。」リリィはその言葉を軽く口にし、表情を少し柔らかくしてみせた。しかし、心の奥底では彼女はエドワードの心情に踏み込むことができずにいた。彼の思いがどれほど強いかは分かっても、その「愛」が何を意味するのか、どういう風に彼の心を支配しているのかは、リリィには掴みきれなかった。


エドワードは、目を伏せて俯き、深いため息をついた。彼の表情には苦悩が浮かんでいる。リリィの言葉を受け入れつつも、彼の心の中には二つの相反する感情が渦巻いていた。サンドラに対する愛情、そして商会に背負わされた重圧。彼はその二つを混同し、まるで呪いのように感じていた。


「俺はサンドラを愛している。でも、同時に…商会の息子としての立場を守らなきゃいけない。どうしたらいいのか分からない。」彼は声を震わせ、頭を抱えた。「愛することが、何か悪いことに思えてしまうんだ。彼女を幸せにしたいのに、俺の家がそれを許してくれない。こんなのは呪いだ。何かに縛られているみたいだ。」


その言葉が彼の心の中で反響し、リリィは少し驚いた。彼女はエドワードの口から出た「呪い」という言葉に強く引かれ、彼の感情がどうにか理解できるのではないかと考えた。しかし、彼の内面的な葛藤をすべて受け入れることはできない。


「呪い…」リリィはその言葉を繰り返し、軽く頭を振った。「エドワード、あなたは愛と責任の間で苦しんでいるのね。でも、その苦しみを呪いと捉えることはないと思うわ。どんなに辛くても、あなたの気持ちが本物なら、きっと道は見つかるはず。」


リリィの言葉には、自信があった。だが、彼女自身は恋愛に関しての経験が乏しく、エドワードの複雑な感情の解決に何の力も持たないことも知っていた。エドワードは少し顔を上げ、彼女の目を見つめた。リリィの優しさが彼の心に触れ、彼は少しだけ救われた気がした。


「魔女殿、ありがとう…でも、どうしても気持ちが整理できないんだ。愛を求めることと、責任を果たすことが相反するなんて、どうしてなんだろう。」エドワードは心の中で言いようのないもどかしさを抱えながら、自分の「呪い」と向き合っていた。


マーサ婆さんはエドワードの熱弁に対し、呆れたようにため息をつきながらパイプを口にくわえ、煙をふかした。白い煙が彼の周りを漂い、その中でエドワードの顔は少し青ざめて見えた。婆さんの無遠慮な態度には親しみがありつつも、彼には少々堪えるようだった。


「若いんだから、もうちょっと頭を使いなさいよ。恋愛だの贖罪だの、何を大げさに言ってるんだか。」マーサ婆さんは笑いを含んだ声で言った。「お前さんが好きなら、素直にその子に言えばいいじゃないの。もったいぶるから余計難しくなるんだよ。」


エドワードは、その言葉に少し驚いた様子で顔を上げたが、すぐに再び沈んだ表情になった。「ですが、サンドラにはもう何も言えません。商会のこともあって、彼女を苦しめたくないんです。」


その様子を見ながら、リリィは彼の気持ちを理解しようとしたが、彼女の心の中では別の考えが渦巻いていた。自分の結界がこの依頼人、エドワードに対して何ができるのかを思案していた。彼の複雑な感情や葛藤を解決する力が、自分にあるのだろうか。


「私が助けられることはあるのか…?」リリィは心の中で自問自答した。エドワードの言葉が、彼の心の奥に根付いた重い呪いのように感じられた。それは、彼の成長や変化に必要な試練なのかもしれない。しかし、彼が苦しむ姿を見るのは辛かった。


そのとき、故郷の姉エレナの顔がふと思い浮かんだ。エレナはいつも優しく、リリィが困難な状況に立たされたときには、適切なアドバイスを与えてくれた。もし姉がここにいれば、エドワードの抱える心の闇をどうにか解決する方法を示してくれるだろう。


「エレナお姉ちゃん…」リリィは小さく呟いた。彼女が近くにいれば、エドワードにももっと素直に向き合えるきっかけを与えてくれるかもしれない。姉の存在は、リリィにとって安心感の象徴だった。あの温かい笑顔と、真摯なアドバイスを思い出すと、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。


「私は…私にできることをしなくちゃ。」リリィは意を決し、エドワードに向き直った。彼の気持ちを少しでも楽にするため、彼女自身の力を信じることが必要だった。



リリィは、エドワードの苦悩を少しでも理解しようと決心し、彼にサンドラの居場所や二人の関係について尋ねた。「サンドラさんは今どこにいるの?」


エドワードは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに視線を床に落とし、言葉を探すように口ごもった。「えっと…あの、サンドラは…実は、今…」


その言葉が重たく、彼の心に乗っている思いを表すように、言葉が出てこなかった。やがて、彼はついに言った。「サンドラは…娼館で働いている。」


リリィはその言葉を聞いて、一瞬理解が追いつかなかった。彼女は首をかしげ、疑問の目をエドワードに向けた。「娼館…?それは、どんなところなの?」


マーサ婆さんは、エドワードのあまりの口ごもりとリリィの純粋な疑問を見て、ため息をついた。彼女はパイプを一息吸い込み、煙をゆっくりと吐き出した。「ほれ、若い子には難しいことだろうが、娼館っていうのは…まあ、男たちが女を買う場所のことだ。彼女はそういう仕事をしているってことだよ。」


リリィはその説明を聞いて、顔が真っ赤になった。頭の中でその言葉の意味がぐるぐると回り、混乱が広がった。彼女は恥ずかしさに耐えきれず、目を逸らした。



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