6 望まぬ再会
それからも俺たちは順調に交際を続けていた。
今日は美玖ちゃんも一緒に3人で動物園に来ている。
「ねぇおにいちゃん、あそこにいるのはなぁに?」
「どれ?あぁ、あれはキリンだね。」
「きりん?きりんさんはなんであんなにくびがながいの?」
「え~っと、高いところにある葉っぱを食べるため…かな?」
「ひくいところのくさじゃだめなの?」
「うーん、………美紀。」
「えっ?あ~、多分キリンさんは高いところの葉っぱの方が好きなんだよ、きっと。」
「ひくいところのくさはみくもたべたことあるけど、おいしくないもんね!」
「え?美玖ちゃん、草は食べちゃダメだよ?」
「うん!おいしくないもん!」
うーん、それでいいのかな?難しいな。
「そろそろお昼にする?美玖はお腹すいた?」
「うん!おなかすいた!」
「じゃあ、あそこにレストランがあったからそこで食べようか。」
「そうね、行くよ美玖。」
「はーい。」
レストランに入る。
「いらっしゃいませ!あら、よかったわね~!今日はパパとママとと一緒に動物園に来たの?」
「え………。パパ………?」
「あ!いえ!俺は、その…。パパじゃなくて…。」
「あ!すいません!私ったら余計なことを申し上げました!申し訳ありません!」
「いえ、大丈夫です。お気になさらないで下さい。」
「本当に申し訳ありませんでした!」
微妙な空気になってしまった。店員の方も悪気があって言ったワケじゃない。
ご飯を食べると美玖ちゃんも元気が戻って来た。
良かったけど、やっぱり俺も早めに腹を決めないとな。
その後、俺は美紀にプロポーズする為に指輪を用意し、ちょっと高めのホテルのレストランも予約した。
今日は決戦の日、美玖ちゃんは美紀のご両親にお願いして、美紀と二人で出かけている。
これからそのレストランに向かう。大丈夫だ。腹は決まっている。
2人ともいつもよりオシャレをして美紀も勘付いているのか少し緊張気味だ。
「あれ?美紀じゃないか?何だよ、そんなにめかしこんで。」
「えっ?…正樹?………なんでアンタが…。」
こいつ、里中か?高校時代は細マッチョのイケメンだったが、大分太って見る影もないな。
「何だ?新しい男か?美紀にその気があるならヨリを戻してやろうか?慰謝料も養育費もダルいし。そいつも大した男に見えねえしな。」
「はぁ?ふざけないで!和人はアンタなんかよりずっといい男なんだから!」
「は?…ん?和人?どこかで…ああ!幼馴染君か!懐かしいな!なぁ、負け犬くん!」
「………てめぇ…。」
「お前の幼馴染の美紀はなぁ!ずっと一緒だったお前じゃなくて俺を選んだんだよ!ちょっと甘い言葉をくれてやったら、喜んで股開いたぜ?」
「やめて!あんたが騙したからでしょ!確かに私もバカだったけど…。」
「なぁ、美紀。そんな奴より俺の方が良いだろ?あの女とはもう別れたから、意地張ってないでヨリ戻そうぜ?」
「アンタとヨリを戻すくらいなら死んだ方がマシよ!」
「稼ぎだって多分ソイツより上だぜ?なんせ今俺は西田物産の営業部のエースだからな!」
「バカじゃないの?和人は北条商事の営業部のエースだけど?」
「…え?北条商事って、北条グループのトップ企業じゃねぇか!嘘だろ?」
「本当だよ。ほら、俺の名刺。」
「あ…え…マジかよ…。」
まぁ、西田物産は北条グループの傘下で、中堅以下だからな。
「で、でもよ、あのガキにも父親が必要だろ?父親は俺だぞ?」
「アンタあの子に何したか忘れたの?私は絶対に忘れないから!」
「今なら可愛がってやれるよ。あの時はどうかしてたんだ。」
「あの子は今は和人に凄く懐いてるの!アンタの出る幕なんてない!」
「…け、けど、俺の方がアッチのテクはあっただろ?ソイツじゃ満足出来ねぇだろ?」
「無い無い!アンタの租〇ンとは比べ物にならない位凄いんだから!和人に初めて女の悦びを教えてもらったんだから!」
「なっ!嘘つくんじゃねぇよ!」
「嘘なんかじゃないわよ?アンタの相手するときは演技するのが大変だったんだからね!」
あー、美紀、ここでそんな話は…。
「っ!てめぇ!優しくしてりゃつけあがりやがって!」
っ!コイツ!美紀に手を上げるつもりか?!
ガシッ!!!
里中の腕をつかむ。ナメんなよ?こちとら高校の時からずっと鍛えてるんだぜ?
「おい、里中ぁ!ふざけんなよ?俺はなぁ!お前が美紀と美玖にした仕打ちを許してねぇぞ?」
ギリ………。
「これからもずっと許すことはねぇよ、だからな?2度と俺達の前にツラ見せんなよ?」
ギリッ!!!
「い、痛ぇ!放せよ!」
「もしまた俺たちにちょっかい掛けるようなら、俺の全てでテメェを潰してやるからな?」
「わ、わかったから、放せっての!」
「放せ?俺に命令してんのか?」
「痛え、痛えって!!わかった、わかりました!放してください!」
手を放してやる。
慌てた様子で里中は走って行った。
「…ごめんね?和人。ありがとう!」
「いや、それはいいんだけど、美紀、通りすがりの人も聞いてたからな?」
「あっ!やだ、私興奮して凄い事言っちゃってた?!」
「いいから早く店に行こう。俺も恥ずかしい…。」
「そっ、そうね!」
そうして俺たちはレストランに向かった。