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名無しのヒーロー

作者: 秋野美月

「人間も捨てたもんじゃねぇって、そう思えてくるぜ」

 ポルコ・ロッソ(「紅の豚」1992年 より)


昨日の夜の話。


仕事の帰り、急行から各停に乗り換えると

約2席分に横たわるサラリーマンがいた。


テレビなどで、酔い潰れて電車で寝そべるオッサンはよく見るが、本物を見たのは初めてだ。

よほど疲れていたのか、酔い潰れていたのかは不明だが、ぽちゃっとした上半身を倒し、片手にスマホを握りしめている。

当然、他の乗客は皆、珍客に見えない視線を送っていた。しかし、誰も起こそうとしない。 

すると男性が持っていたスマホを落とした。

拾おうかどうしようかとマゴマゴしていたが、結局見つめたまま何もしなかった。こういう時に、つくづく自分は気概のない人間だと幻滅する。


すると少しして、目の前に乗ってきたサラリーマンの男性が痺れを切らして声をかけた。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん、大丈夫か?」


勇気あるなぁ、と他人事のように感心していると、男性は落ちたスマホを拾い、寝ていた彼のポケットに入れ、


「今〇〇駅だけど、大丈夫か?」


と肩をさすりながら声をかけ続けていた。

その後も男性は、彼の様子を見ながら吊り革につかまっていた。結局、眠りの彼は無事に目覚め、起こした男性は「気ぃつけな」と言い残して、次の駅で颯爽と去っていった。


            *


「かっこいい」

「ああいう人になりたい」


人は概ね、どこかの誰かに憧れや理想を見出して生きる。それは大抵、SNSの中であったり、テレビの中だったりする。けど、その中身は、その中にある核は虚像かも知れない。

最近、迷惑行為を動画で投稿した若者がニュースになっていたが、私はその動画に映された人物がこの事件の最大の被害者ではないかと感じた。運が悪ければ、このおじさんもSNSの被害者になっていたかも知れない。眠ったまま訳の分からない場所に辿り着き、そのまま失踪していたかも知れない。

自分には眠れるオッサンを起こす勇気はない。

だが、どうせ生きるなら、子どもがカッコいいと思える大人になりかった。下がりそうになる足を、瞑りそうになる目を

日々の中で少しずつ無くして、そうして人は名も無きヒーローになる。

久々の短編エッセイです。

つい昨日の話ですが、他人の事に興味を示さないシビアな今の世の中で、「人間まだ捨てたもんじゃない」そう思える瞬間でした。

人が困っている時、身体が先に動いていた、そんな

「カッコいい」人間になりたいと思います。

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