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第2日-2 護衛任務(2)

 シャルトルトの都市の交通は、ルーク・ダーニッシュがトップを務めるダーニッシュ交通が一手に引き受けている。

 北西のナータス大陸とシャル島西海岸を繋ぐ大陸間鉄道、そして島の西半分を走る島内鉄道、街中のバスによる輸送やそのための道路の整備など、これらはすべてダーニッシュ交通によるものだ。


 オーラスが事業拡大を推し進める中で問題なのは、大陸への輸送だった。

 これまではアーキン区から海輸によって鉱石や加工品を運んでいたが、海輸はコストがかかる上に一度に多くの物資を運ぶことができない。


 そんな中、大陸とシャル島を繋ぐ大陸間鉄道の建設計画が持ち上がる。

 しかしオーラスは運輸業のノウハウは持ち合わせていなかったため、丸ごと外部委託することにした。

 その相手が、ダーニッシュ交通だった。


 当初、ダーニッシュは大陸間鉄道の建設のみに携わる予定だったが、オーラスの都市開発には島内の道路や鉄道の整備も必要不可欠。

 オーラスの事業が拡大するとともにダーニッシュ交通の手掛ける事業も拡大し、今では島の西側の鉄道、道路、バスの輸送、そして自動車産業すらも、すべてこのダーニッシュ交通の傘下の企業によって運営されている。


 ダーニッシュ鉄道はその一つ、大陸鉄道と島内鉄道の事業を行っている会社だ。

 現在は島の最南端、エペ区まで伸びている。

 アーキン区の中心であるベリアム駅からエペ区の区間は最新鋭の旅客列車が走っているが、アルゴン駅とベリアム駅の区間はこの長い貨物列車+旅客列車一両という混合列車しか走っていない。

 人より鉱石の方が圧倒的に運搬されているのだから、それも当然だろう。


 よって俺たちはまずベリアム駅に向かい、そこで旅客列車に乗り換えてセントラル駅に向かうことになった。


 俺たち三人が乗っている車両には、他に二人しかいなかった。一応警戒はしていたが、オーラス鉱業の悪口を盛大にぶちかましていたし、明らかに鉱山で作業をしている人間だろう。

 旅客列車よりスピードが遅く、窓から見える景色も至ってのどか。ベリアム駅までは二十分ほどで、この様子では何事も起こらなそうだが油断は禁物だ。


「そうか、彼はまだ頑張ってるんだね」

「そうですね。時々発掘現場で一緒になりますが、一番精力的に動いているかもしれないですね」


 ガティさんとアルフレッドさんはどうやらオーパーツ研究所の所員の話で盛り上がっているようだ。一応、あの二人組の客には聞こえない程度の声で話してはいるが。


 オーパーツ関連の事件を捜査する捜査課と違い、警備課はオーパーツ研究所による発掘調査の警備が主な任務で、護衛する場合も身を護る術を持たない研究所の人間であることが多い。

 よってオーパーツ監理局の中でもより研究所に近い立場と言える。ガティさんは護衛任務が多かったようなので、それを機に個人的に親しくなった人もいるのだろう。


「お父さん、おじいさん。ちょっと貨物列車の方を見てきてもいいかな」

「ああ、わかった」

「行っておいで」


 この列車に乗っている間は大丈夫だろうが、何か仕掛けられているとも限らない。俺は念のため、連結部分を見に行くことにした。

 今回の任務は、裏にはかなり大きな組織が関わっている可能性がある。用心に越したことはない。


 ――実は、ラキ局長からの注意事項はもう一つあった。



   * * *



「今回の任務では、オーパーツの装備を禁止する」

「え? 《クレストフィスト》もですか?」


 確かに警備課の任務では、オーパーツが使用禁止になることはある。

 しかしそれは、グラハムさんが持つ《トラロック》のような攻撃系の道具。遺跡内部の場合だと現場の未知のエネルギーと反応して危険な事態を引き起こす可能性があるからだ。


 俺の《クレストフィスト》のように、防御系のオーパーツが禁止される現場は少ない。誰かになりすまして潜入するときなど、その装備をしていること自体が不自然な場合はともかくとして。

 しかしセントラルの一般的な少年に扮するぐらいなら、指ぬきグローブをしていたところで問題はないように思うのだが……。


「そうだ」


 ラキ局長の灰色の瞳がグッと細く、険しくなった。

 俺がやや不満に感じたのを察したのか、有無を言わさぬ空気を作り出す。


「君の報告書から察するに、君を襲った人物はオーパーツレーダーを所持している可能性が非常に高いからだ」

「……」


 確かに……。

 あのとき、あの謎の男は躊躇なく俺を殺そうとした。姿も見ずに、俺が〝敵〟だと認識していた。

 それはやはり、俺がオーパーツを所持していたから……。

 何の痕跡もなく侵入したはずの俺に気づいたのは、俺のオーパーツを感知するレーダーを所持していたから。それしか考えられないだろう。


「それでは、やはり……」

「いや、監理局からの流出ではない」

「えっ!?」

「君に違法発掘現場への潜入を依頼する前後で、こちらでも局内およびオーパーツ研究所において極秘に調査を進めていた。しかし、そのような事実は一切出てこなかった」


 それは……つまり。

 敵が、独自にレーダーを作り上げるだけの資金や施設、そして技術が既にある、ということになる。

 オーパーツ監理局および研究所でレーダーが現場に使われるようになったのは、ここ数年の話。ましてや情報も一切漏れていないとなると……。


「よってリュウライ、準備は怠らないように。出発は明日の朝一番の列車だ。切符はこちらで取ってあるから、後でミツルから受け取ってくれ。……話は以上だ」


 ラキ局長が「以上」と言えば、話は終わりだ。細々した準備などについてはミツルから聞け、ということなのだろう。


「了解しました。それでは、失礼いたします」


 四十五度ぐらいの会釈をすると、踵を返し局長室を出た。

 そうだ、備品管理課にも寄らないと。さすがに丸腰で任務に赴くわけにはいかない。調整の時間を早めてもらわなくては。

 まだ残っている人間はいるだろうか……。


 局長室のすぐ隣の控室には、ミツルがいた。声はよく聞いているが、こうして顔を合わせるのはかなり久しぶりのような気がする。


 ミツルはオーパーツ監理局の男性オペレーターで、二十六歳と比較的若い。表向きは警備課所属となっているが、実は同じ特捜である。

 局長の指示を特捜専用通信で俺たちに伝えるのが、ミツルの役割だ。空間把握能力に優れているらしく、各現場の警備官の配置などは実はミツルが決定しているらしい。

 常に無表情で機械的な話し方をするが、俺としては指示に無駄がなく助かる。同じ特捜と唯一知っているせいか、何となく仲間意識がある。


「こちらを用意しておきました」


 相変わらず無表情のミツルが汽車のチケットと――紅閃棍(くせんこん)を渡してくれた。

 あれ、今から早めてもらうよう頼みに行くつもりだったのに、と驚いて顔を上げると、いつもの鉄仮面と目が合う。


「備品管理課にも手を回しておきました」

「ありがとう、さすがだね……」


 感心して思わず唸ったが、ミツルはほぼ無反応だった。

「管理庫の使用、および備品の持ち出し許可も出しておきましたので」

と淡々と説明を続ける。

 ただ、別れ際……「お気をつけて」と一言添えたのが、ミツルにしては珍しいと言えるだろうか。



   * * *



 旅客車両の最後尾は手動の扉が二つ付いており、ここから外に出られるようになっている。ダーニッシュ鉄道が開通したばかりの頃は、乗車客に列車から見える景色を肌で感じてもらおうと取り付けたものらしい。

 ゆっくりと走る貨物列車ならではの演出だ。今となっては鉱山関係者しか乗らないため、意味のないものになっているようだが。


 一つ目の扉を抜けて辺りを見回す。誰もおらず、特におかしなところもない。

 二つ目の扉を開けると、ぶわっと風が吹き抜け帽子が飛んでいきそうになった。慌てて手で押さえながら、目の前の鉄の箱や金属の床、連結部分をチェックする。


 例えば個人を襲うのではなく、列車に仕掛けをして爆発させる、なども有り得る。そうすればダーニッシュ鉄道やオーラス鉱業への攻撃とも取れ、犯人を特定するのは困難になる。

 となると……後ろの貨物車両も一通り確認するべきか……。


 オーパーツもなしに走る列車の上を走るとか正気の沙汰じゃないとさすがに思いながら、コンテナの上を駆け抜ける。今日がいい天気で本当によかった。

 コンテナの周囲も隈なく探したが、危険物らしきものは特に見つからなかった。どうやらこの列車には何も仕掛けられていないらしい。

 そうこうするうちにベリアム駅が近づいてきたようだ。遠くに何やら建物が見える。


 ここで一旦この列車を降りて、セントラル駅に向かう旅客列車に乗り換えだ。今度は乗り降りする人間も格段に増えることになる。


 ――慎重に動かなくては。警戒して、し過ぎることはない。


 内ポケットに入れてある紅閃棍を服の上から押さえる。

 列車の風を感じながら強く自分に言い聞かせ、気を引き締め直した。

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こちらが本編です。是非こちらから読んでいただきたい!
 森陰五十鈴様作:
『FLOUT』オーパーツ監理局事件記録 ~SideG:触れたい未知と狂った運命~

こちらで共同制作の創作裏話をしています。よろしければ合わせてどうぞ。
 『田舎の民宿「加瀬優妃亭」へようこそ!』
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