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イチオシ短編

【半分実話怪談】悪意の街

作者: 七宝

 今朝、(ちん)が路側帯をそろそろと歩いておったところ、目の前の踏切が鳴って遮断機が下りたのじゃ。朕はその場でじっと待っておった。


 それはいい。問題は次じゃ! 電車が通り過ぎ、遮断機が上がったのじゃ。その時周りには誰もおらず、踏切におった歩行者は朕1人じゃった。


 当然朕は歩き始めた。遮断機が上がったと同時に歩き始めたのじゃ。じゃが! 朕が歩き始めた瞬間にまた鳴り出しおったんじゃ!


 朕は走ろうとした。じゃが周りには自動車が数台おっての、そやつらに見られておると思うと、どうしても走ることが出来んかったんじゃ。だって、こういう時走るのってダサいじゃろ?


 朕は思った。踏切が開いて閉まるまでの間で人が渡りきれないはずがあるか、と。ここは皆の道じゃ。当然お年寄りも通る場所じゃ。そんな踏切を20代の朕が渡りきれんはずがなかろう!


 しかし、歩いてみるとこの踏切は朕が思っていた以上に大きかった。今まで見た踏切の中でも恐らく1番の大きさじゃろう。朕が半分くらいまで渡った頃に、ついに遮断機が動き始めたんじゃ。


 じゃが、まだ大丈夫じゃ。朕はJRを信じておる。20代の朕が普通に歩いて渡りきれないのだとしたら、開ける必要がないのじゃ。だから朕は必ず渡り切れる。


 7割ほど進んだ頃、ぴったり遮断機は斜め45度であった。このペースでは間に合わぬ。朕はハンバーグの材料になってしまうのか。そんなことを考えた。絶対に嫌じゃ!


 このまま踏切内に残ったとして、電車がどちらから来るか分かるか? 遠くからだと手前の線も奥の線も同じに見えてしまう。上りと下りを考えれば簡単に避けられるはずなのじゃが、頭がパニックになっていてそんな簡単なことも分からぬ。


 朕はダイブすることにした。映画とかでよくある、閉まるギリギリのシャッターに滑り込むやつじゃ。その時はなぜか遮断機に触れてはダメだと思っておったのじゃ。動かすと警報とかがなると思っておったのじゃ。パニックじゃからな。


 今思うと、自動車が踏切に閉じ込められた時は、そのまま遮断機を押し上げて進めと言われた気がする。つまり、朕のダイブは無駄だったわけじゃ。


 当然朕はスタントマンでもスポーツマンでもない。ゆえに、人生初のダイブじゃ。初めてで不安じゃったが、電車にひかれるよりはマシじゃったから、朕は飛び込んだ。


 持っていた水の入ったペットボトルは爆発し、カバンの中はびちゃびちゃ、そして朕の右膝が死んでしまった。歩ける状態ではなくなってしまったのじゃ。


 そのまま歩いて駅に向かったのじゃが、階段を上る余裕は朕にはなかった。あまり使わない方がいいとは思いつつも、エレベーターに乗ることにした。


 エレベーターのところまで行くと、朕と同じくらいの若い男性が待っておった。この者もどこか怪我をしているのだろうか。それとも、ただエレベーターに乗るタイプなだけなのであろうか。


 チン


 (ちん)はエレベーターの音が好きじゃ。ここは駅なのでエレベーターガールはおらぬが、恐らく前の者が押してくれるじゃろう。だいたい最初に乗った人がボタン操作をするという風潮があるのじゃ。


 前の男が入っていった。朕も続く。朕が歩き出したその時、扉が閉まり始めた。男の手元を見ると、『▷◁』ボタンを押していた。朕は力の限り男を睨んだ。


 一瞬朕を挟んだエレベーターはすぐにまた開き、朕を乗せてくれた。この時朕の怒りは最高潮に達していたが、男に文句を言うことが出来んかった。怖すぎたんじゃ、この男の行動が。


 エレベーターが2階に到着し、扉が開いた。男は動かない。空気を読んで先に降りる朕であった。朕が出ても男は一向に出てこようとしない。それどころか、男は扉を閉め、そのままエレベーターで1階に降りていった。


 朕は怖かった。こんな人間がいるのか、と戦慄した。向こう10年は忘れられぬ出来事であった。


 気を取り直し、階段を下りホームへ降り立つ。力を入れなければ足は痛くないので、下りるのは大丈夫なのじゃ。


 ふと前を歩いている若い女性のリュックを見ると、小さなポケットから小さな朕が顔を出しておった。


 その瞬間、朕は頭が真っ白になった。よく見てみると、朕の顔写真の貼られた何かのようであった。朕の顔のぬいぐるみでも作ったのであろうか。ということは、この者はストーカーというやつか?


 朕は怖くなった。朕は女性の友達などおらぬ。ゆえに、この者はストーカー確定なのじゃ。


 しばらく歩いているとポケットから小さな朕が落ちた。朕は


「ほれ、落としましたぞ」


 と言いながら拾おうとし、下を向いた。そこには、朕の顔写真の貼られた藁人形が落ちておった。


「!? ⋯⋯これは!」


 動揺しながら顔を上げると、持ち主の女性が振り返った。


 朕の顔をしておる。


 それを見た朕は腰を抜かしてしまった。


 周りを見渡すと、ホームにおる全員の顔が朕になっておった。電車の先頭も朕の顔になっておった。線路沿いを歩いておる者ももれなく朕になっておった。リードに繋がれ四足歩行をする朕、ミミズをくわえて空を飛ぶ朕、ペットボトルのフタのデザインまでもが朕になっておった。


 そんだけの日記じゃ。

 エレベーターの男性のところまでは全て実話じゃ。まだ膝も治っておらぬ。もしかしたら折れておるかもしれぬな⋯⋯

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― 新着の感想 ―
[良い点] 急に……急に怪談…… [気になる点] その後、足のお怪我はいかがでしょうか。軽快に平癒されますようお祈り申し上げます。 [一言] あの日のお怪我の影にこんなストーリーが……。 踏切は信用な…
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