90 人生は続くよどこまでも
そこは季節ごとに花を咲かせる奇跡の庭があると評判の場所であった。
観光客がたくさん来るチャーコブ王室の離宮。
ヒカリ、リュード、イグニス、プランにシーラさんは日々庭の手入れに生を出している。
ボルヴィーは庭仕事が苦手なようで専ら屋敷の管理をしてくれている。
彼の提案で有料ゾーンを作ったら、これが大当たりで今は安定して収入が増えた。
シーラさんの両親の上王夫妻は、数年間は一緒に過ごしていたが、この場所が観光地になったのでここを去ったのだった。
何かあったら一大事なので、強制的に王城に連れ戻されたのだ。
今はたまに遊びに来るぐらいである。
どうやらボルヴィーがプランの為に策を巡らせたようだ。
これ以降、プランはホッと胸を撫で下ろし、毎日を生き生きと過ごしている。
暇があればシーラさんと二人で旅行に出かけたりしている。
イグニスもお母さんと仲直りをして、年に何回かは帰省するようになっていた。
この間、幼馴染の女の子をここに連れて来て、みんなを驚かせたところだ。
「ここで一緒に住んでもいいか?」
そんな許可を取っていたので、そのうちに彼女も越してくることだろう。
「ボルヴィーにはいい人いないの?」と訊いてみたら「いませんよ!!」と食い気味で否定された。
有料ゾーンに来ているリピーターに、彼を目当てで来ている人が多々いることに気がついていないらしい。
「もうちょっと周囲に目を向けてみたら、ボルヴィーの世界はもっと広がると思うけど・・・ほらあそこのマルベリーの木のところにスタイル抜群の女の子がいるじゃない。さっきからずーっとボルヴィーのほうを食い入るように見てるわよ」
ボルヴィーはその女の子を見るや「うげっっっ!!」と言って、距離を取ろうと後退りした。
「一体、どうしたのよ?!」
「終わった」
ボルヴィーはがっくりと肩を落としている。
「何?もしかして元カノとか?!」
「フン、そんな可愛いモンじゃないですよ。でも危ないのはヒカリさんかも・・・」
「え!?」
尋ねるよりも早く、その女の子は足早に近付いてきた。
「やっぱりボルヴィーじゃない!!あれから一切、連絡してこないなんてどういうつもりなの!?」
そう責められているので、ヒカリは面白いことになってきたとニヤニヤ笑った。
「あ〜坊ちゃん、お元気そうで何よりです」
「ええっ??」
よーく見たらそこには、ペリーエ伯爵家の三男のエヴィが、女性に大変身して立っていたのでした。
嫌な予感がしたヒカリは、何か文句を言われるまえにその場から逃げ出そうとした。
「ほら、ヒカリさん。坊ちゃんに言うことがあるでしょう?」
ボルヴィーは腕をガシッと掴み、ヒカリを道連れにしたのであった。
「あのー、えーっと・・・・・・リュードと結婚しました」
ヒカリはか細い声でそう報告する。
「フン、本当に油断も隙もない!!だからちゃんと見張っとけって言ったよね!」
「すいません」とボルヴィーは形式的に謝ったが、「でも人の気持ちなんて、歯止めがきくものでもないでしょう」と堂々と開き直ったのだった。
エヴィも思うところがあるようで、それに以上は何も言わなかったのでした。
「ところで坊ちゃんは何しにここにいらしたのですか?」
「チャーコブの観光産業の偵察に来たの」
「ああ〜、要は遊びにいらしたんですね」
ボルビィーは容赦なくそう言ったのだった。
「違うよ!本当は恋人と旅行に来たんだー。こんなことになるなら彼も連れて来ればよかった。『庭には興味ないから一人で行っておいで』って送り出してくれたの」
そう嬉しそうに恥じらっているではないか!
『ああ、だからもうリュードのことはどうでもいいのか』と二人は合点がいっただった。
そんな話をしていたからか、リュードがこちらにやって来た。
「こんにちは」
エヴィを観光に来たお客さんだと思ったようで、軽く挨拶をしたのだった。
彼はその腕に小さな子供を抱いていた。
「スベルだけ先に起きた。コッコは父さんが見てくれてる」
二人の間には双子の男児が生まれたのだった。
いなくなった二人の名前を取って『コッコ』と『スベル』にしたのだ。
ここには面倒をみてくれる大人が沢山いるので、双子でも困ることは少なかった。
特にプランとシーラさんは孫への愛が強めなので、率先して育児に参加してくれていた。
「は?え・・・リュードさん!?」
子供までいると思っていなかったエヴィは驚き、リュードも知らない女の人に急に名前を呼ばれて驚いていた。
リュードに事情を説明をするために、エヴィを室内に通したのだった。
ペリーエ家は何とか赤字を出さずにやっているそうだ。
次男のコントレが伯爵を継いだが、あの父親も一緒に力を合わせて奮闘しているそうだ。
そして長男のクリスターは数年前にふらっと帰って来たそうだ。
「今まで沢山ご迷惑をおかけしました。今までの己の行いを悔いるために修道者になります」と報告し、そのままどこかへ行ってしまったそうだ。
傲岸不遜さはすっかり失せ、生気を抜かれたように物静かになっていたそうだ。
変身後のエヴィを見ても揶揄するでもなく「お美しくなられましたね」と微笑んだそうだ。
「あんなに人って変わるものなんだね・・・」
エヴィが呟いたが、そこにいたみんなで『いや、お前もな!!』と総ツッコミを入れたのだった。
風の噂でコーラーの死去を聞いた。
この離宮に帰って来る前の話なので、あの怪我のせいなのか、スベルのせいなのかは分からなかった。
同様に消えた女の消息も分からなかった。
しかしながら、どんな状況でも女の武器を最大限に利用して、強かに生きてそうだなとヒカリは思っていた。
「ふぇーん」
スベルが泣き出したので、ヒカリはミルクをあげようと立ち上がった。
久しぶりに再会したボルヴィーとエヴィを二人きりにさせてあげようと、リュードもその場を後にしたのだった。
天気が良いので庭園にある東屋に移動した。
暖かな日差しと心地よい風が吹いていた。
「ボルヴィー、伯爵家に帰っちゃうかなー?」
「さあ〜、あいつは絶対に認めないだろうけど、情に弱いところあるからな」
「確かに」
ムスッとしながら『そんな訳ないでしょう!』と否定するボルヴィーの顔を想像して、二人で笑い合う。
「しかしエヴィの大変身にはびっくりしたね!」
「ああ、よくあの人の了承を得られたな〜」
あの父親をどうやって説得したのだろうと気になったのだった。
「後でボルヴィーに話を聞こうね!」
ヒカリがこちらに来てから数年しか経っていないのに、色んなことが変化していた。確実に時間は流れているのであった。
あれから彼女にも会えていなかった。
地球に帰ったコッコもいい大人に成長して、元気にしているだろうか?
風が頬を撫でたので、あることを思い出したのだった。
「スベル元気にしてるかなー?」
みんなの様子を教えてあげたかった。
「私ならここにいるぞ・・・」
さっきまでミルクを飲んでいたはずのスベルが、急に落ち着き払った声で話し出したのだ。
「うわぁ!!!・・・え・・・もしかしてスベルなの!?」
「依り代ができたので出て来られるようになったのだ」
「・・・・・何か、変な感じ!!」
「ちょっと、気持ち悪いな」
「何なのだ!ずっと待っていると言ってたから出てきたのだぞ!」
「そうなんだけど・・・ちょっと待って!もしかして生まれてからずっとスベルだったってこと?!」
「流石にそれはない。ちょっと気まぐれに出て来ただけだ」
それを聞いて二人は胸をなでおろしたのだった。
少しの間、話をしたら、スベルはまた気が向いたらこの体を借りて会いに来ると去って行ったのだった。
「会えたのは嬉しいんだけど、この子が普通の赤ちゃんに見えなくなった」
「丁重に扱わないと次に来た時に怒られそうだなー」
そんなことを話しているヒカリとリュードの横を、またも風が通り過ぎたのでした。
やっと完結しました。最後までお付き合いいただきありがとうございました。




