9 お金はすぐに無くなる
あの家を出てから、俺はツイている。
それもこれも白の能力者のヒカリに会えたことが大きな要因だとは思う。
それはとても感謝している!
旅の間、傷や疲れを全て治してくれたし、それに彼女が手に入れてきたライターのお陰で、こうやって宿屋に泊まれることになったのだ。
「ねぇ〜、もうちょっと水圧を強くできないかな?」
だからと言って、俺のことをシャワーに使うのはどうかと思う・・・
俺は手のひらに意識を集中させた。
一定の水量を保って、出し続けるように言われたのだ。
「イイ感じ、お湯とかは出ないよね〜?!」
「お湯だと!!」
そんなことできるわけないだろうと、思わず顔を上げてしまった。
「こっち見んなーーーーーー!!!」
物凄く怒られた・・・お湯など出せるわけがないだろう・・・どれだけ要求してくるんだ!
「ひゃー冷たい、冷たーい!」
そう言いながら、髪や体を洗っているようだ。
因みにここは外、誰かに見られるのは良くて(もうかなり暗いのでその心配はなさそうだが)俺に見られるのは嫌だというところが、余計に腹が立つ。
ヒカリは俺の手首を掴んで、お水を掛けたいところに移動させている。
その時、手のひらに滑らかな感覚を感じた。
視覚を奪われている分、妙に感覚が研ぎ澄まされているようなのだ。
さっき、一瞬だけ見えた肌と相まって、あらぬ妄想をしてしまった。
『・・・・・』
あっ、これは違う・・・断じて違う。
今までの禁欲生活の反動だ。
これが見つかったら、ヒカリに何を言われることか!!
そそ、そうだ!母だ!
母のことを考えよう・・・落ち着け俺・・・ヒッヒッフー
「終わったよ〜」
精神集中していたときに、声をかけられて「うわーーーっ」と大声を出してしまった。
彼女はいつの間にか着衣し、髪を拭いていた。
驚いたおかげで、あっちはいつも通りに戻っていた。
「こっちで体を洗って、こっちで髪を洗うといいよ。私は先に部屋に戻ってるね〜」
謎のビン?を置いて彼女は行ってしまった・・・
恐る恐るそれを使ってみて、それは驚いたのだった。
「ヒカリ! 何だ、コレは!!アワアワしてたぞ!」
「そうなのよ、さっぱりしたでしょ」
「本当にスゴイな〜、どうなってるんだ?!」
ヒカリは作り方は知らないと言うが、こんなものが手に入るなんて、一体どんな世界から来たのだろうか??
ヒカリには驚かされてばかりだ。
「ここの宿屋って一晩いくらだっけ?」
俺は先ほど支払った金額を答える。
彼女はカバンから紙とペンを取り出し、何かを書き始めた。
「単純に泊まるだけなら28日分だね・・・でも食事代もいるから20日分ぐらいの滞在費用になるかな・・・もっと値を釣り上げればよかったかな?」
「う〜ん、どうだろう・・・初めての見る物だから相場が無いだろうしな。
今回の金額を目安にすればいいんじゃないか」
旅の途中で、彼女が簡単に火がつけられる道具を出して来たときは心底驚いた!!
「これを高値で売れば、お母さんを見つける為の資金になるんじゃないかな」
そう提案してくれたのだった。
一緒に旅をしていた仲間に相談したら、セイロン商会というところを教えてもらったのであった。
俺からしてみれば一気に大金持ちになった気分だったが、ヒカリが冷静に何日分の費用になるのか考えてくれていて、とても頼りになった。
「やっぱり一人一部屋は無理そうだね〜」
俺は思わず両手を挙げた。
「断じて何もしないぞ!!」
さっきのことがあったので、思わず声が裏返ってしまった・・・
「いや、そっちは心配してないんだけど・・・・自分の時間も大事かなーと思ってね」
そっちの心配はしてないって、どういうことだ?
もしかしてあの兄弟から、何か俺の噂を耳にしたのだろうか?
「しばらくは申し訳ないけど、同室でお願いします!」
「えっ、ああ・・そうだな」
返事をしながらも、さっきの件のことが気になってしょうがない。
何とか誤解をとかないと、と俺は考えていたのだった。