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87 『壊す者』の事情


「人が寝込んでいる枕元で何をいちゃいちゃしてるんですか!」

念仏のような声がして、自分たち以外にもここに人がいたことを思い出す。

「うわー!」

「ボルヴィー、起きてたの!?」

その間の抜けた二つの顔を見てボルヴィーは思わず笑ってしまった。

「私も守る者ですが、あなた達がやっと結ばれて本当に嬉しく思っていますよ。好意を抱くようになるなんて所詮はこの程度ですよ。ほらほら続きは他所でやって下さい!」

それだけ言うと『出て行け』とばかりに、二人に背を向けるように寝返りを打ったのだった。


その意に反してヒカリはベッドの傍に行くと、布団の中からボルヴィーの手を取り出した。

両手で包み込むと、おでこに充てがう。

「いつも本当にありがとう、早く良くなってね」

長年、伯爵家に勤めていただけあって、彼の気配りには沢山助けてもらった。

特にプランが抜けてからは、彼が心の支えになってくれていた。

それに彼が元気にならないと、あの本の処理も進まないのだ。


こんなにも心を込めて治療をしたのは初めてだった。

リュードの時は無我夢中だったが、今は心も穏やかに集中できていた。

しばらくすると、すーすーと気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。

ヒカリとリュードは安堵し、静かにその場を後にしたのだった。


その夜、みんなはとても疲れて、ぐっすり眠ってしまったのだった。

とあることを忘れて・・・


それは勿論コーラーである。

本当なら逃げないように木に結びつけておくべきだったのに、ボルヴィーが倒れたことで気が動転していたのだ。

寝る前に脳裏をかすめたのだが、あんな大怪我を負っているのだから、何もできないだろうと油断していた。


コーラーは痛みに耐えながら、執念で王宮へと戻っていたのだった!

彼は火傷の痛みも忘れるほどに興奮していた。

それはどんなに調べてもわからなかった、あの本の用途を漸く知ることができたからだ。

これでやっとあの悪夢から逃れられる。

毎夜毎夜、不気味な生き物に『人類を滅亡するのだ!』と執拗に命令される夢。

行動が滞ると『手始めにお前からだ!!』とあらゆる方法で惨殺された。

そのうち眠ることが怖くなって、不眠症になった。

睡眠不足から顔色は悪くなり、心労からやけ食いを繰り返した。

そんな日々からやっと解放される糸口が見つかったのである!


()()を取り返さなくてはならない。

アレを能力者軍団が消滅させてしまう前に何としてでもだ。

独りでは無理なので、城に戻り援軍を引き連れて戻ってくるつもりだ。

幽霊騒動を起こしていたのが能力者軍団だと報告すれば、国王を謀った罪ですぐに衛兵は動いてくれることだろう。

だが、しかし・・・とコーラーは考える。

あの愚かな王に5人もの能力者を差し出すのは勿体無い。

『火の能力者だけが見つかったことにして、後の者は自分の手元に置いておこう』と、ゲスい考えで痛みを紛らわせて戻っていたのであった。


ところが、そんなに必死になって帰ったにも関わらず、待っていたのは酷い扱いであった。

まず門番がコーラーだと判別ができなかったのだ。

「しっ、しっ、汚いな!あっちに行けっっ!!」

それもそのはず、顔が腫れ上がり服はあちこちが焦げていた。

その上、這って移動したからところどころで破けており、ボロを纏っているようにしか見えないのだ。

いつもの堂々たる姿とは全くの別人であった。


「誰にそんなことを言ってるのだ! わしは・・・コーラーだ」


本人らしい横柄な物言いに門番は眉をひそめるが、こんな朝早い時間にコーラーが共も付けずに外から帰ってくるとは考えられなかった。

陽が昇ればここにはたくさんの人が登城してくる。

注意を受ける前に不審な人物は遠ざけておきたい。

「目障りだから、こいつは見えないところに捨ててこよう!」

どこかに連れて行こうとしていた正にその時であった。


男がコーラーだと分かる者が現れたのだった!

それはコーラーの愛人で、昨夜から帰ってくるのを待ちわびていた女であった。

彼女が証言してくれたことにより、コーラーは何とか城内には入れた。


しかしながら、まだ分が悪いことには変わりがなかった。

国王はあの幽霊騒動以降すっかり気弱になり、コーラーのことを敬遠するようになっていた。

それに伴い、城内でのコーラーへの風当たりも強くなり出していた。

だから誰も彼の言葉に耳を貸そうともしなかったのだ。

最近ではウイスキー国への侵攻も上手く行っておらず、その批判は全て余所者であるコーラーに向かっている。

彼の財力と連れて来た能力者のお陰でエールを落とせたのに、手のひら返しで彼の立場は窮地に陥っているのだ。


けれども、コーラー自身はそんな批判など気にもしていなかった。

そもそも戦争を嗾けたのは自分だったからだ。

あの頃は人類を滅亡させるのはこの方法しかないと思っていたからなのだが、そんなことをしなくてももう良いとわかったのだ。

とにかくアレさえ取り戻せたら、こんな国には用はない。

もう動くこともできそうにないコーラーは、一番信用できるその愛人に()()の奪還を頼むことにしたのだった。

場所と取り戻して欲しい物を入念に伝えると、彼は一安心してやっと臥すことができたのであった。


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