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86 本当の気持ち


根をあげたのはイグニスだった。

「全く終わる気がしねえ・・・」

かれこれ2時間程やっているが、本は相変わらず四角(よすみ)の角がちょっと丸くなったかな〜??ぐらいの進み加減だ。

「でも人類を救うためなんだからやるしかないでしょう!」

ボルヴィーはキレ気味で嗜めた。

開花させないように、能力を繊細にコントロールしているので疲れが溜まってきているのだ。


「本に強めの水圧を当てて、種を散らばせたらもっと発芽させられるんじゃないだろうか?」

「リュード、それいい考えだな。やってみよう!」

「いや、それはいけない」

「何でだよ、スベル!」

「形がないものは動きの予想が難しい。取りこぼした種が、水によって遠くまで運ばれて発芽してしまう可能性があるからだ!」

「はぁ〜、やっぱり地道にやるしかなさそうですね」

「そうだな」

みんなは渋々納得したのだが、イグニスは文句を言った。


「俺たちはこの星を救う英雄なんだろ!?もっとこう派手に活躍して、みんなに感謝されるんじゃねーのかよ!!」

「でも悪者は懲らしめましたよ!」

ボルヴィーは倒れているコーラーの方を指した。

「そーかもしんねーけど!何だよ、この地味〜な作業は!!

もっと単純明快にパパッと済ませられないのかよ!俺のかっこいい見せ場はどこにあるんだよ?!」

「はいはい、わかったから続きやりますよ」


けれども、水をかけていたら表面がだんだんと(ほぐ)れてきたようで、本全体から発芽し始めたのだ。

だから作業は少しずつだが進み出したのだった。

もう辺りが暗くなってきたので、もうそろそろ今日は止めようとしていた時だった。


とうとうボルヴィーが片膝から崩れてしまったのだった!

どうやら能力を使い過ぎたようだ。

「オイっ、大丈夫か!?」

「ちょっと・・・もう・・無理ですね」

かなり具合が悪そうだった。

既に、歩くことも出来なさそうなので、リュードとイグニスが両脇を抱えて家の中に連れて行く。

ヒカリとスベルは本を崩れないように、そっと持ち上げて運んだのだった。


テーブルの上に乗せて確認してみると、3分の1ぐらいは焼失できているようだった。

「まだまだ時間がかかりそうだな」

焦りからかスベルはネガティブな言葉を口にした。

「でも今日1日でここまで出来たんだから大丈夫だって!!」

ヒカリは明るく声をかけた。

「ボルヴィーは昨日は木を大きくさせたり、今日も引き続きで能力をかなり使っている。あいつの治療をしてやってはくれまいか?」

「勿論、そのつもりよ!」

「ありがとう。命を削らせてすまないが、よろしく頼む」

「命を削るって・・・どういうこと!?」

「・・・・・・知らなかったのか!!」

リュードから聞いていたと思っていたので、スベルは困惑したのだった。


ヒカリは詳しく話を聞き出した。

「そうだったのねー」

あんな凄い能力なんだから、何かの副作用があっても不思議ではなかった。

リュードが『ヒカリには誰も触れて欲しくない、気軽に治療を頼まないでくれ』と言ってたのは、身を案じての発言だったのだろう。

ヤキモチでも焼いてくれているのかと茶化していたことは、穴に潜り込みたいほどの恥ずかしさだ。


「ねぇ、()()は大丈夫なの??」

急に前任者である()()のことが心配になってきた。

記憶を見る限り、かなりの治療を行なっていたからだ。

結婚してこれからという時なのに、寿命が尽きるなんて悲し過ぎる。


「すまないが・・・先のことは私にもわからないのだ」

スベルは伏し目がちで申し訳なさそうに言ったのだった。

この問題はヒカリの命に対しても当てはまるからだ。

「そうなのね」

これ以上の質問はスベルを困らせるだけで、訊いてもしょうがなさそうであった。


諦めてボルヴィーの治療を行うべく部屋を訪ねた。

そこにはリュードだけが付き添っていたのだった。

「あれ?イグニスは?」

「疲れたから休むって」

「そっか。リュードも早く休んだほうがいいんじゃない」

「いや、俺は二人ほど能力を使っていないから大丈夫だ・・・・・・それよりボルヴィーの治療をするのか?」

リュードは複雑な心境だった。倒れたボルヴィーは心配だが、進んでヒカリに治療をさせたくはないのだ。

「うん」

妙な沈黙が流れた。


リュードが口を開く前に、ヒカリは先に話し出した。

「さっきスベルから能力の代償のことを聞いたの。ずっと心配かけていたんだね」

「なかなか言い出せなくて・・・すまなかった」

「ううん、そのお陰で必要以上に能力を使わないようにしてこられたんだから。

それなのに焼きもちだなんて冗談にしてごめんね」


「それは・・・本当のことなんだ。治療もそうだけど・・・ヒカリが好きだから、俺以外の誰にも触れて欲しくなかったんだ」

「!!」

ヒカリはすぐに言葉がでなかった。

そりゃー嬉しい!!嬉しいけどー

「本当に、本当に私でいいの?」

思わず声が上擦ってしまった。

中身は若くないけどいいのだろうか!?


「当たり前だろ!相手にされてないと思ってなかなか言えなかったんだ。

その上、スベルが『創る者』と『守る者』はお互いに好意を抱くようになっているなんて言うもんだから、余計に言えなかったんだ!」

「私も・・・その・・・リュードが好きだよ」

ヒカリは照れ笑いをし、二人は見つめ合うのだった。


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