81 噂話は結構簡単に信じてしまう
ごくごく自然に体が動いた。
ヒカリはなんの躊躇いもなくリュードにキスをしていた。
リュードは少し争ってみせたが、それに対抗するように唇を割って舌を入れた。
「んーんー」
声にならない抗議の呻きを無視して、ヒカリは更に深く口づけた。
どれくらいそうしていただろう・・・
一瞬の出来事のような、ずっとそうしていたかのような時間が流れた。
「もう、大丈夫だから!!!」
リュードの元気な声で我に返った。
「本当に?」
心配するヒカリは傷口を凝視していた。血が付着したままなので治っているのか判断がしにくい。
リュードは傷のところを指で押して見せた。
「ほらなっ、もう触っても全然痛くない」
「ああ、良かったー」
ヒカリは安心したら、急に恥ずかしさが込み上げてきたのだった。
みんなの前で濃厚キスを披露してしまったのだ。
しかも、どちらかといえば嫌がっていた相手に無理やりにである。
「あれよ、そのーさっきのは治療なんだからね!深い意味はないのよ!」と慌てて取り繕った。
「最終手段ってそういうことだったのか!!何だよ、リュードばっかり」
「ヒカリ・・・有り難いのだけど・・・さっきみたいなことは・・・」
リュードは言葉を濁した。
ヒカリが何の躊躇いもなく、一番効く『粘膜接触』をしてきたことはとても嬉しかった。しかしヒカリの体の方が心配であった。
「おいっ、傷を治してもらっておいて、よくもそんなことが言えるな!!」
イグニスは声を荒げた。
「しーっ、声が大きい!今は内輪で揉めている場合ではありません。
見張りが来ない間にあの大きな木の下まで移動してしまいましょう」
そこに着いたら、ボルヴィーは緑の能力を使いみんなを枝の上に乗せたのだった。
これで見張りに気づかれるようなことはなさそうだ。
この木が城下で聞いた、土着信仰されていた木なのだろう。
かなり立派なものなので枝に乗せられても安定感がある。
しかし真っ暗な中での高所は、死と隣り合わせの恐怖があった。
「さてと、王様の寝室を探さないとね」
「どうせあの辺りじゃないですか?」
ボルヴィーがバカにしたように、見晴らしが良さそうな、建物の中心部の最上階を指差したのだった。
早速、枝をその辺りまで伸ばして様子を伺う。
「全くもって、分かりやすいね」
階全体が王の居室になっているようだが、一つだけ明るい部屋があった。
見張りの衛兵たちの控え室になっているようで、人の気配がある。
その隣の大きな部屋がどうやら王様の寝室のようだ。
木の枝はゆっくりと寝室のバルコニーに伸びて、みんなはそこに降り立つことができたのだった。
イグニスは小さな炎を出すと、窓ガラスの鍵の位置を確認する。
鍵は丸い穴にフックを引っ掛けるだけの簡単な作りのようだ。
設計した人もバルコニーから人が侵入することは想定していなかったようだ。
窓には金属製の小さな枠がたくさん付いているが、どうやら一枚ガラスを仕切っているわけではなく、枠の一つ一つにガラスが嵌っているようだ。
鍵横のガラスに炎を当て続けると、何と高温で溶け出したのだった。
こうして簡単に鍵を外せることができ、中に入れたのだった。
王様はぐっすり眠っているようで、こちらには気が付いていないようだ。
復讐に燃えているイグニスは、生き生きしながら王の枕元に歩み寄った。
手から小さな炎を出すと、呑気に眠っている顔の前でゆらゆらと照らし続ける。
瞼の裏の明かりに気が付き、国王はゆっくりと目を開けたのだった。
「ひ、ひーーーっ、ででででたーーー幽霊!」
国王は手から炎を出しているイグニスを見ると、一気に目が覚めたようだ。
助けを呼ぶどころか、一国の王とは思えないみっともない声を上げ、這いつくばってベッドの隅へと移動した。
ガタガタと震えながら、見たくないとばかりに手で顔を覆った。
面白いぐらいに、こちらの考えたように反応してくれていた。
なぜ王様がこんなに簡単に幽霊を信じたのかと言うと、さっきの城壁でのことが関係していたようなのだ。
それは過去が変わってしまったからであった。
火の能力者が突如現れ、そして消えたことは城内でも城外でも様々な憶測が飛び交っていたそうだ。
人知を超えるもの・・それは『超常現象』だと簡単に信じ込んでしまったのだ。
『きっと化けて出て来たのよ。お〜こわっ』と噂で持ちきりだったのだ。




