80 鮮血は不安を煽る
白モフちゃんのお陰で、何事もなく順調に王都の外れまでやってきたのだった。
そこで一軒の廃屋を見つけたので、ここを根城にしている。
スベルが屋内の時間を戻してくれたので、外観とは違って中は快適に過ごせるようになっていた。
この数日は、王都の様子を見に行き、情報収集を行っていた。
当初の予定はイグニスが能力を使って、向こうからの接触を待とうかと考えていた。
噂が広まる時間を考慮すると、手っ取り早くこちらから乗り込もうと言うことになったのだった。
そして今夜、いよいよ王城に乗り込むのだ。
深夜になると廃屋を出て、城壁までやって来た。
ビール帝国がウィスキーへと侵攻をしたら、旧エール国が攻めてくるという噂が広まった。
『それは事実だ』と言わんばかりに、城の周りをぐるっと囲う壁が作られたそうだ。
この話を事前に聞いていたので、目の前の城壁は突貫で作ったせいなのか、不揃いでデコボコしており、頑張れば登れてしまいそうな仕上がりであった。
「確かに、これはやっつけで作ったっぽいね」
だが壁を登って侵入するのはリスクが大きすぎた。
近くに衛兵がいないことを確認すると、スベルは数週間前まで時間を戻した。
すると、途中で一度崩壊したと聞いた箇所、すなわち目の前の壁が一瞬で無くなったのだった。
これで簡単に侵入できると思ったら、目の前には沢山の見張り衛兵が現れたのだった。
「お前たち、一体どこから現れたんだっ!!!」
衛兵達もこちらの存在に驚き、一斉に槍を向けた。
「うるせー、火傷したくなかったら退け!」
いち早く、反応したのはイグニスだった。
衛兵に向かって、1メートル強もある炎を出したのだった。
「ひ、ひえー」「うわーー」
この攻撃に腰を抜かす者、一目散にここから逃げ出す者が続出した。
「火の能力者!・・・生きていたのか・・・」
上官らしき人が驚きを隠せないように言ったのだった。
「ほら早く、今のうちに中へ!」
イグニスが注意を引きつけてくれているうちに、みんなは城壁の中へ移動しようとする。
崩壊した箇所とはいえ、高さはそれなりにあるので、ひょいと飛び越えられるようなものではない。
自身の背の高さと同じくらいのスベルは、先に上がったボルヴィーに引き上げてもらい、ヒカリにお尻を押してもらってようやく上がれたのだった。
ヒカリはプールサイドに上がるように『よっこいしょ』と、腕の力を使って上半身を上げ、ボルヴィーに助けてもらいながら登った。
城壁の内側はまだ瓦礫がそのままだ。
もし誰かに火が付いたら消さなくてはいけないと、イグニスの側で見守っていたリュードも、隙を見てサッと上がった。
残るはイグニスだけだ。
すぐ後ろに壁があるのだが、向きを変えた瞬間に背中からブスッと刺されそうで、身動きが取れない。
「俺が合図をしたら、すぐにこちらに上がってこい」
リュードが背後からそう声をかけた。
家を出るときに水伯爵から教えてもらった方法を試す時が来たのだ。
『攻撃は不意を付くやり方が一番効果的だと覚えておきなさい』
リュードは両手を上げて気持ちを集中させる。
「今だ!!」
イグニスはリュードを信じて、炎を出すことを止めて壁を登り出した。
ザザーーーザザザーーーーーッ
空から大量の水が、襲いかかろうとしている衛兵達に降り注いだのだった。
辺りは飛沫で真っ白になり、驚きで皆の動きは止まった。
呆気にとられている間に、イグニスは城壁を登ってみんなのところにやって来た。
すぐにスベルは元いた時間に戻した。
辺りは何もなかったように静かになり、再び壁が現れたのだった。
「ふー危なかったね・・・みんな無事?」
「俺はびしょ濡れになったが大丈夫だ」
緊張状態から解放されて、イグニスは肩で息をしている。
ヒカリは振り返りながら「リュード、大成功・・・」と言いかけて、彼が蹲っていることに気がついた。
「リュード!!!」
「だい・・じょぶ・・だ」と顔を上げた。
リュードを見て、みんなは声を上げられないほどに驚いた。
顔が血だらけだったからだ!
みんなの驚愕の表情で彼は慌てて顔半分を隠した。
「何か、石のようなものが当たったようだ」
ヒカリはリュードの前に座り込むと、その手を外した。
こめかみの辺りからダラダラと血は流れていて、目を開けていられない様子であった!




