79 不安は口に出すほうが良い
ビール王国の王都への旅は順調だ。
白モフちゃんは中々にお利口で、敏感な鼻を使って、きな臭いところは避けてくれているようだ。
イグニスの正体は誰にもバレていないようだ。
視線を感じることはあったが、両手がきちんとあると、別人だと思われるようだ。
「スベルに治してもらっていて助かったよ」
「役立たずで すみませんねぇ〜」
長い時間をかけたのに、最後まで再生させられなかったヒカリは卑屈っぽく言った。
「いや、ヒカリにも感謝してるぞ!」
イグニスは慌てて取り繕った。
「言っとくけど、最終手段を使えば、そんなのすぐに治せるんだからね!!」
「ヒカリ・・・それは絶対にしてはダメだ!」
リュードはヒカリが力を使うと寿命が縮むことを教えていなかった。
というか、言えなかったのだった。
「わかってるよ。私だって好きな人としかしたくないから、最終手段だって言ってるじゃない」
「それならいいんだ」
やけに心配するリュードが変だったので、「なに、なに〜、焼きもち?」とヒカリは茶化した。
そんなヒカリの目を、リュードはじっと見据えた。
「そうだ!!ヒカリには誰も触れて欲しくない!」
この言葉は皮肉にも自身にも当てはまってしまうのだ。
ヒカリに触れると、彼女は自動的に相手の治療を始めてしまうからだ。
「みんな!俺が焼きもちを焼くから、ヒカリには気軽に治療を頼まないでくれ!」
リュードがそんなにも強い物言いをしたことに、みんなは唖然としたのだった。
事情を知らないイグニスは自身が悪者扱いのようになって、おもしろくない。
ボルヴィーは若気の至りで『ヒカリを誰にも渡したくないのだろう』と思って苦笑いしていた。
この件以来、イグニスとリュードの関係は少しぎくしゃくしていた。
しかしヒカリはみんなの微妙な変化に気がつかないほどに、あることに心を囚われていた。
それは、コーラーに対しての恐れであった。
あんなにも彼女の仇を打つんだと息巻いていたのだが、実際に王都が近くなるにつれて、洗脳にも近い支配を受けていたことは、別の人格でもあるヒカリに対しても陰を落としていた。
自身の不安や心配は、能力で取り除くことはできないから、そのことで気もそぞろで口数が減っていた。
「最近、元気がないようだが、どうかしたのか?」
気が付いて声をかけたのはスベルであった。
ヒカリは彼にだけ、心情を話したのだった。
「私は容姿が変わっていないし、コーラーは光をみることができるのですぐに気付かれるでしょ。みんなが守ってくれると信じているけれども、あの男に会うのはとても怖いの・・・」
「そうか。では黒の光を最大限に放出するとしよう!そうすれば、その白い光も顔も隠れてしまうだろう。そうしておけば、まず見つかることはない。但し、お互いの顔も見にくくなるがそれでも構わないか?」
「最初に会ったときのように、上半身が黒くなるってこと?」
「そうだ。それに、黒の光の中にみんな入ってしまえば誰も能力者だと気がつかれることもあるまい」
確かにあの姿は不気味だったが、顔は隠すにはもってこいだ。
光を見れるコーラーだからこそ通じる作戦であると言えた。
「それじゃあ、スベルだけが黒の能力者だって分かっちゃうんじゃないの?」
「まあ、そうだが。黒の能力のことを知っている可能性は低いだろう。
それに知られたとて、別にどうということはない」
「おおーっ、何かスベルってカッコいいね!!」
「・・・・・・」
長年、一人で過ごすことが当たり前だったスベルにとって、人同士のこういったやりとりは苦手だ。
褒めてもらっているのはわかるが、どう反応していいのか分からずに黙ってしまったのだった。




