76 壊す者
「ヒカリ。そなたは『創る者』だ。すなわち最初の母になる。
3人のうちの誰かが最初の父なのだろうが、男は子を産まないから『創る者』ではなく『守る者』だ。この世界を守るために各々、力を与えられているのだ」
『スベル』の話によると、人類は一度滅びかけたそうだ。
彼はそれを止めようと時間を戻したのだが、結局は同じように破滅の道を進んで、人類は滅んでしまったそうだ。
そこで神はひとりの女性と能力を持った4人の男を世界に置いた。
ひとりは女性で最初の母となり、こうして人類は再び繁栄し始める。
「『守る者』は男で3人、あとのひとりは『壊す者』だ!
神は『守る者』ばかりでは、不公平でつまらないと思われたようだ。
そこでひとり『壊す者』を存在させたのだ。
こうして世界は順調に歴史を刻み始めていたのだが、この『壊す者』によって、またも滅んでしまったのだ」
「それって・・・・・・そいつを見つけないと、この世界はまた滅びるってことなのか?」
あまりの内容にリュードの声が掠れていた。
「そうだ。1度目と2度目は醜い戦争で殺し合いをしていなくなった。
しかし3度目は違った。まるで人など最初から存在しなかったように、いつの間にやら人が居なくなってしまったのだ。
こうして、この世には『統べる者』の私、『創る者』、そして『守る者』の3人と、『壊す者』の6人だけが残った」
みんなは固唾を飲んで『統べる者』の話に耳を傾けていた。
「じゃあ、そいつを見つけて殺せば、俺たちは滅亡しないのか?」
「それでは駄目だろうな・・・
能力者は肉体が死んでも、能力は素質のある者に移るだけだ。
私は『壊す者』がとても大事そうに大きな本のような、木片を持っているのを見た。
それが何なのか知りたいのだ。もしかすると、そこに破滅への方法が記されているのではないかと考えている」
「たった一冊の本を探すって・・・・何だか雲をつかむような話ですね」
そう言いながらも、ボルヴィーは降って湧いた展開にわくわくしているようだ。
「この世の中に本なんて、いくらあると思ってんだよ!!
一体、俺たちはどーすりゃいいんだよ!?そいつに殺されるのを待つだけなのかよ」
イグニスは狼狽えて、取り乱している。
「あなたはその『壊す者』を見たんですよね? その者が誰だかわからないのですか?」
頼りはこの『統べる者』だけだ。
「何百年も前のことなので、その時見た男が、今も能力者である可能性は低い。
『守る者』に見つからないようになのか、『壊す者』は色を持っていなかった。
即ち、誰が『壊す者』なのかは、私にもわからないのだ」
ずーっと黙って話を聞いていたヒカリがやっと口を開いた。
「もしかして、もしかしてなんだけど・・・・その本って焦茶色で、このくらいの大きさだったりする?」
手で50×80ぐらいの大きさを囲って見せる。
「それで紫と黄色で何か文様のようなものが書いてあって・・・」
「そうだ、そんな物だった!どうして知っておる?」
『統べる者』にとっては、誰かに質問などしたことがなかったので、不思議な感覚であった。
「コーラーが大事そうに持っているのを見たことがあるの!!」
彼女は、たまたまその部屋にいたコーラーを覗き見たことがあったのだ。扉が開いていて、中には高価そうなものがたくさんあった。
その中で一際、厳重に保管されていたのが本だったので、意外だなと感じたのだ。
ヒカリはその本らしからぬ大きさと、補色の色合いが気持ち悪かったので覚えていたのだった。
「コーラーか。あの男ならビール帝国にいるようだが・・・そういうことであったか!」
「私たちはドーリンク大陸にいるって聞いたんだけど」
「あの男はビール帝国に亡命して来たのだ。正確にはまだラガー国だった頃だ。
あいつが来た頃と、エール国への侵攻が始まった時期が同じだ」
「コーラーが来たから戦争が始まったのか?」
「そう考えるのか妥当だな」
「じゃあ、俺にとっても仇じゃねーか!」
イグニスの態度は急変し、闘志むき出しで怒り出した。
「ちょっと、待って!!この船ってドーリンク大陸に向かってんじゃないの?!
誰かに話を聞いてくるわ」
ヒカリは慌てて船員に確認を取りに行った。
「『壊す者』にとって、そなたたち4人は目障りな存在なのだ」
だからコーラーは『創る者』である彼女の、白の能力を執拗に利用したのだろう。
彼女で大金を稼ぎ、戦争を引き起こしそうなラガー国へ渡った。
「・・・もう、あまり時間がないかも知れない」
ウイスキー国への侵攻も始まったようだ。
『壊す者』は大金を寄付し、国王の信頼を得ると、次々と戦争を仕掛けているのだろう。
いつまた人が消えてしまうかもわからないと、統べる者は焦っていた。
「少し疑問なのですが」
ボルヴィーは気になったことを口にした。
「あなたは話を聞く限り中立の立場にあるようだ。なのにどうしてこちら側に付いてくれるのですか?」
「それは・・・・・・私にもわからない」
成り行き上で行動を共にすることになったとも言えるし、何かの力でこうさせられていることも否定はできない。
それがこの体の持ち主とヒカリだ。
この二人は姿形はこちらの者と同じだが、存在は異質で、自身の領分を超えているように感じていた。
「一つ言えることがあるとするなら、長い間この世界を見てきたが、能力者がこんなにも集まることは今までになかった。しかも『守る者』が全員揃っているのだ。
私は『壊す者』に打ち勝って欲しいと願っている」
こうしてみんなには打倒『壊す者』という明確な目標が出来たのだった。




