74 育ての親
翌朝、嵐は過ぎ去り、海は何事もなかったように凪いでいた。
昼から出航すると、船員が教えに来てくれた。
ヒカリとリュードは『統べる者』と話し込んでいたので、ほとんど眠っていない。
二人して何度も欠伸をしている。
「眠れなかったのか?」
「誰かが外で家を揺らしているのかと思いましたよ」
そう話すイグニスとボルヴィーも、嵐のせいでよく眠れなかった様子だ。
「まあ、そんなところ」
今は『コッコ』とその母親もいるので、『統べる者』の話はできない。
「まさか、俺たちがいないからって変なことしてたんじゃねーだろうな!!」
イグニスは邪推し、とんでもないことを言い出す。
「なにを・・・・・バ、バ、バカなこと言うな!」
「リュードさん、声が裏返っていますよ」
いつになくボルヴィーもからかっている。
ヒカリは若い男達のノリに冷めた視線を送りつつ、白の力で寝不足を治した。
『何て便利なんだろう・・・』と感心しつつ、リュードとボルヴィーの手を握って同じように不調を治してあげた。
「俺は?」
「俺は治療中だから、船の中で昼寝でもして解消するしかないでしょ」
指は繊細な部分だからなのか、急に再生速度が遅くなっていた。
夕食と同じく、蒸したお芋をいただきながら、ヒカリは横に座っているコッコを突っついた。
「何だよ、ハッコ?」
その言い方が、昔のコッコだったので思わず笑ってしまった。
「コッコじゃなくて、その〜・・・」
「あいつか?」
どうやらコッコはその存在に心当たりがあるようだ。
「そう、あいつを呼んでほしいの」
「あいつなら、俺が起きてるときは出てこないぞ!」
一人称も昔のように『俺』になっていた。
こんな小さい子が俺と言ってるのがおもしろい。
顔は昔のヒカリと全然違うけれども、気を許してくれているようだ。
「でも彼に説明してもらわないと、一緒には行けないよ」
この一言で、コッコの内にいる『統べる者』が出て来たのだった。
昨夜、コッコの事情も聞いていたのだった。
彼は黒の能力を受け継ぐと同時に、こちらの世界にやってきたそうだ。
スベルは『コッコ』が子供で、その上、住むところもないので困ったそうだ。
そこで過去に戻り、この島に言い伝えを残した。
1、親のない子が、突然現れたらそれは『神の使い』なので大切に育てるように
こうしてコッコは無事に保護されたそうだ。
2、鏡は災いをもたらす、それを避けたければ島に鏡を入れてはいけない
二つ目はコッコに黒の能力者だと分からせない為に、この島に口承させたそうだ。
このお母さんは、コッコがここに来た当時、村の未婚女性だったそうだ。
言い伝えを守る為に、村人に世話を押し付けられたそうなのだ。
「少年は幼馴染のそなたと一緒にいることを望んでいるようだ。
母親はもう自由にしてあげたいそうだ。私はみんなに着いていくことにしよう」
ヒカリは自身の境遇と照らし合わせた。
もしこれが逆の立場だったら、私は知らない男の子を育てる側になっていたことだろう。
「でも、一緒に住んでいたら情が湧くでしょう。コッコがいなくなったらお母さんは寂しがらないかな?」
「ならば・・・少年に会う前まで、時間を戻せばよい」
「それって、彼女の記憶からコッコがいなくなるってこと? あなたはそれでもいいの?」
「記憶が無くなると何がいけないのだ?」
『統べる者』にとって、人の心の機微まではわからないようだ。
ヒカリが何にひっかかっているのか見当もつかないらしい。
「それは彼女に選ばせてあげてよ」
こうしてヒカリの希望通りに、母親を前に『統べる者』は話をすることになったのだった。
「私が少年の中にいる『神の使い』である」
そう母親に告げたのであった。
彼女はいつまでたっても大きくならないコッコのことが、ずっと気味悪かったそうだ。
村の皆も、そんなコッコのことを『神の使い』として一目置いていたのだそうだ。
同じぐらいの子供達は次々と大人になって独り立ちしていった。
その親達は「子供の成長は嬉しいけど寂しいもんよ」と口を揃えて言ってるのを聞くと、いつまでも子供のコッコが可愛くなっていったそうだ。
「この者たちも『神の使い』なのだ。だから私はこの者たちと行くことにする」
初めて事情を知った母親、それにボルヴィーもイグニスもポカーンとしている。
「はぁ、神の使い? なんだそりゃ」
イグニスが声をあげたので、ちょっと黙っててと注意する。
「そなたが望むなら、この少年に会う前まで時間を戻してやろう」
「若い頃に戻れるんですか!?」
「ああそうだ。全てを忘れて、もう一度人生をやり直せばいい」
「忘れる・・・・・・・だったらいいよ。
こんなおばさんになってしまったけど、スベルと過ごした日々はかけがえのない楽しい毎日だったんだ。あんたのこと忘れられるわけないだろう」
「母さん!!」
そう駆け寄ったのは、間違いなくコッコであった。
「僕も楽しかったよ。僕のお母さんでいてくれて本当に本当にありがとう!」
二人はヒシッと抱き合って、別れを惜しんでいた。
みんなもついもらい泣きしていた。
「いつでも、ここに帰ってきてもいいんだからね」
「うん」
こうしてコッコは育ての母親と別れて、みんなと行くことになったのだった。
ヒカリは慰撫してあげたほうがいいだろうと、手を繋いだ。
「大丈夫?」
「寂しいけど、大丈夫。俺がいなくなったら、母さんもお隣のおじさんとやっと一緒に暮らせると思うんだ」
「いい人いたのね。じゃあ良かった」
「・・・・・ハッコにもそんな人いるのか?」
「え? 私? うーん」
どっちのことを言ってるんだろう。元の私はいるみたいだけど、今の私にはいないし。
「ははっ、いないのかよ!」
返事をしないことに、コッコが少しだけ笑ったので、ヒカリも少しだけ安心したのだった。




