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72 忘れられない人


二部屋しかない片方の部屋で、若い男達と同じ部屋で眠ることに抵抗があったようで、母親は「私はお隣さんのところで休ませてもらいます」と辞退してくれたのだった。

こうして誰に遠慮することなく、能力の話ができるようになったのだった。

スベル少年に光の出力の下げ方を教えているのだが、なかなか伝わらなくて苦戦していた。


ヒカリは夕食時に遠慮をして、蒸した芋にあまり手をつけなかったので、もうお腹が空いてきたのだった。

リュックに残してあった、最後の一つになったエネルギーメイトの箱を開けた。

「何だよ、それは!お前だけずるいぞっ!!」

イグニスが目敏く食べ物だと気がついた。

「イグニスがバカスカ芋を食べるせいで、こっちは全然食べられなかったんだからね」

そう言ってリュードとボルヴィーにも1本ずつ渡す。

「スベルも食べる?お菓子みたいに美味しくはないけど、お腹は満たされるよ」


「エネルギーメイトだ!!!!」

「えっっ???」

今、彼は間違いなく商品名を言ったのだった。

「お姉ちゃん、これどうしたの?どこで手に入れたの?」

彼は必死に質問してきた。

「そのー、知り合いの人からもらったの・・・」

()()のことを説明するのは面倒なので、そう言っておく。

「ねえ、その人ってどこにいるの?」


『僕以外にも日本人がいたんだ!!』

スベルは間違いなく日本語でそう話したのだった。

『今、日本人って言った?』

『お姉ちゃん、日本語喋れるんだっ!!!」

『だって私も日本人だもん』

『ハーフなの?』

そうだった、私は見るからに西洋風美少女の風貌だ。

『まあ、そんなところよ・・・ところで本当の名前もスベルなの?』

日本人なのにその名前はちょっと変な感じがしたからだ。

『ううん、本当は黒崎輝クロサキヒカルって名前なんだ』

その名前にヒカリはフリーズし動揺を隠せないでいた。


「どうかしたのか?」

二人にしか分からない会話に、リュードは説明を求めた。

ヒカリは「後で言うから」と話を断ち切った。


『蛇口から出ている水をできるだけ細くするような感じで、体の中心部を細くするようにしてみて!』

何が何でもこの黒い光を弱くして、顔を見たかった。

『目を閉じて集中するとやりやすいよ・・・そうそう、いい感じ。段々と光が弱くなってきてるよ』

輪郭の中から口、鼻、目が浮かび上がってきた。


『コッコ!!!!!』

ヒカリは歓喜の声を上げ、少年を力一杯抱きしめたのだった。

『生きててよかった・・・・みんなずーっと心配してたんだよ』

ヒカリはわんわん泣きながら、よかったを繰り返し何度も何度も口にしたのだった。


この黒崎少年こそ、何を隠そうヒカリにプロポーズをしてくれた子なのだ。

そして、この子供の()()()()()()()()()()をずっと覚えていたことにも理由があったのだ。


それは・・・その日を境に彼が行方不明になったからであった・・・


その日の夜、ヒカルのお母さんの切羽詰まった電話から、ヒカリの世界が一変してしまったのだった。

次の日から学校中は大騒ぎだった。

放課後はみんなで集まって、毎日ヒカルを必死になって捜した。

『きっと見つかるだろう』との確信が日を追うごとに薄れていき、そのうちヒカルの話はみんなの中で禁句になってしまった。

そして、みんなが小学校を卒業するときに必要以上に泣いていたことは、誰もが彼のことを忘れていないことと、もう帰ってこないんだの諦めも含まれていた。


ヒカリはそれからも大きなイベントがある度に彼のことを思い出した。

コッコがいたらどうだっただろう

コッコが大人になってたらどんな顔になってるかな

誰かと結婚してるかな

ずっとヒカリの心に大きな影を作っていたのだった。


黒崎輝、くろさきひかる、黒い光だから『こっこ』

白井光、しろいひかり、白い光だから『はっこ』

これが二人のあだ名だった。


『どうしてその名前を知ってるの?』

『わたし、私だよ、()()()!!』

自分を指差してそう言ったが、黒崎少年にとっては俄に信じられないだろう。

『信じてもらえないかも知れないけど・・・

こちらの世界にいた、とある女の人と中身が入れ替わってしまったのよ。

だけど私は間違いなく白井光よ。置屋小学校、3年2組 担任の先生は・・・』

『小山内麻衣子センセー!』

『幼い舞妓センセー』

コッコもハモった。

特徴的な名前の先生だったから30年近く経ってもこうして覚えているのだ。


コッコは笑顔のまま、はらはらと涙をこぼし出した。

『ハッコーーーーーー』

彼はヒカリに飛びつき、そのまま涙が枯れるほど泣いたのだった。


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