7 どこの家族も色々ある
その頃
水伯爵は必死になってリュードの行方を捜していた。
彼がいなくなってかれこれ数週間が経過しようとしていた。
どうやら本当にこの領地内から姿を消したようなのだ。
息子たち3人にも捜すようにと命令を出した。
「見つけて来たものが、家督を継ぐ者としてふさわしいだろう・・・」
はっきり継がせるとは言っていないが、そう匂わせてやったら、飛んで出て行った。
あいつを拾って来たばかりの頃は逃げ出さないかと警戒をしていたが、何年も経つ内に、もうそんなバカなことはしないだろうと気が緩んでいた。
こんなことになるなら、世間体など気にせず監禁しておけばよかった。
すぐに見つかるだろうと楽観視していた。
あいつには現金は一切持たせていなかったし、母親も行方知れずで頼る者もいない。
なのにどうして見つからないのだ!!
あの能力は代々、この家に受け継がれて来た貴重なものだ!
我が一族が能力によって確固たる地位を築き上げてきたことなど、余所者のあいつにわかるわけがないのだ。
わざわざ伯爵家に迎え入れ、貧しい暮らしから救ってやったというのに、礼を言うどころか能力を持ち逃げして行きやがった!!
伯爵は怒りにまかせテーブルを叩いた。
あの女と逃げたのだろうか・・・突然、庭に現れた白い光の少女。
あそこまで眩しく輝いていることに、伯爵は度肝を抜かれたのだった。
白い光は『怪我や病気を治す』と言われているが、そんな胡散臭い話は信じていなかった。
だが、わざとナイフでつけた切り傷を一瞬で治したのだった!
この事を報告すべく、国王にすぐに手紙を出した。
息子たちもすぐに呼び出して、誰でもいいからあの少女に気に入られるようにしろと命を下した。
息子たちは光が見れないから何のことかわかっていないが、この家のさらなる発展のためには、あの力は喉から手が出るほど欲しかった。
金の卵の登場に、あの夜は興奮して眠れなかった・・・・
だが翌朝、冷水を浴びせられた。
もう少女は全く光っていなかったのである。
能力を確認するまでもなかった、光がなくなるのは能力が消えた証だと、ずっと聞かされていたからである。
国王にまで『能力者を見つけました』と手紙を出したのに、とんだ赤っ恥をかかされたと憤慨していた。
それでいつもより強くリュードに当たったのだった・・・
だから夜になるまで、あいつがいなくなっていることを真剣に受け止めていなかったのであった。
今から思えば、なぜあの時すぐに捜索しなかったのだろうと悔やまれるのだった。
父親から、リュード捜しを命じられた三人の息子たちは、三者三様だった。
長男のクリスターは面倒だなと思いつつ「俺が必ず、あの恩知らずを捜し出しましょう!」と頼もしさを見せつけた。
あとで三男のエヴィのところに寄っていった。
「俺は領内を捜してみる。お前は国外を捜しに行ってこい!」
「えっ・・・」
「わかんねぇのか、頭を使えよ!協力し合おうと言ってんだよ。
俺が家督を継げば、お前を右腕にしてやるよ!!」
「でも・・・」
気乗りしないエヴィの返事に苛立ち、クリスターは恫喝した。
「さっさと行け!! あいつを見つけたら必ず、俺に連絡してこい。わかったな!!!」
そう強引に押し切ったのだ。
と言うのも、長男のクリスターは次男のコントレが大嫌いだったからだ。
いつも澄ました顔をしていて、人のことを見下してくる。
自分よりも少しだけ頭の出来がいいだけなのに、父でさえ長男の俺よりもあいつに目をかけているように思えた。
あいつを出し抜くためなら、グズな三男のエヴィも大事な手駒であったからだ。
その次男のコントレは、はじめからこの搜索に参加するつもりがなかった。
まず、父はこんなことで家督を誰に譲るのかを決める人ではない。
父が何よりも大事なことは光の能力を継ぐ素質があるかどうかだ。
だから町で拾って来たような素性のよくわからない子供を、俺たちよりも大事に保護しているのだろう。
「おまえに能力を引き継ぎたかった・・・」
父に何度この言葉を言われただろうか。
その度におまえには大きな欠陥があると告げられているような気分だった。
どんなに努力しても叶わないものがあるのだと、諦めるしかなかった。
大体、光のみえないこちら側から言わせてもらうなら『能力に頼らなくても、この家は地位も名誉も財産もあるでしょう!』と言い返してやりたいところだ。
だが父の機嫌を損ねないようにしておけば人生は安泰だと自身に言い聞かせている。
幸いにも馬鹿な兄とグズな弟のお陰で、彼の無気力は左程、目立たないのであった。
三男のエヴィは、長兄のクリスターに言われ仕方なく、遠くまでリュードを捜しに出ていた。
自身もこれまで国外に出たことはなかった。
従者の意見でこの領地から一番近い国がチャーコブだと教えてもらい、馬を走らせている。
「こんなに広いのに見つかるわけないよ・・・」
まだ搜索3日目だと言うのに早くも弱音を吐いている。
ずっと馬車に座りっぱなしで腰を揉んでもらっていた。
「はぁ〜、また兄さんにどやされるなぁ・・・」
エヴィは溜息をついた。
「坊ちゃん、まだ搜索は始まったばかりですよ。そのうちリュードさんもきっと見つかりますよ!」
そんな慰めの言葉も頭に入ってこないようで、帰りたい、疲れたと泣き言ばかりいっている。
「気を取り直して下さい。せっかく、領外に出たのですから旅行だと思って楽しみましょうよ!」
従者のボルヴィーは坊っちゃんのご機嫌とりに大忙しなのであった。