66 ひねくれスイッチ
「本当にいいんだね?」
そう念押しをしてきたプランの顔が、若干ニヤついているように見えたのであった。
『しまった、ハメられたのかっ!』
そう思ったが、もう後の祭りだった。
体中を何かが駆け巡る感覚がして、俺は緑の能力者になったのだった。
伯爵家から逃げる為に彼を利用させてもらったと思っていたが、それはとんでもない間違いで、プランは初めて会ったときから俺を能力者にしようと画策していたのではないのかと思えた。
だとすれば、プランは俺も気付かないぐらいに上手く心に入ってきて、いつの間にかすっかり掌握されていることになる。
彼に悪意がないことは、勿論わかっている。
だから『嵌められた』とわかった今も、恨む気持ちも湧いてこないのだ。
気持ちよく騙されたがしっくりくるのだ。
それから、力の使い方を教えてもらった。
植物と意思疎通ができるというのは不思議な感覚であった。
正確には、植物に力を貸してもらっていることになる。
「力を借りたのならいっぱいお礼を言ってね。そうやって関係を強固にしていくんだよ。そのうちに思っている以上の力を貸してくれるようになるから」
プランのように、木を巨大化させたり出来るまでは、まだまだ時間が掛かりそうだ。
しかし植物を早めに成長させることは、簡単にできた。
今は、さまざまな種からどのくらい早く大きくさせられるか、もしくは実をつけさせることができるかの訓練を行なっている。
そんなに急がなくてもゆっくりと力に慣れればいいと思っていたのだが、プランはなるべくたくさんのことを教えておきたいようだ。
「前任者から能力を受け継ぐことは、知識を教えてもらえる又と無い機会に恵まれているんだ。僕は自分が苦労したから、君にはできる限りのことは教えてあげたいんだ。
それに君たちはみんな、まだ能力者になって日が浅いだろう。
全員で力を合わせて、身を守れるようになって欲しいんだ」
俺だって利用されたりするのはごめんだ。
だからこそ、力は使いこなせるようになりたい。
しかしヒカリに教えてもらった自身の光を最小限に抑える方法を使えば、まずバレることはないだろう。
ボルヴィーが元素質のある人だったからこそ、その効果の程は分かっている。
能力を継いだら再び、青、赤、白の光が見えるようになったからだ。
この光を小さくする方法を知っていたヒカリには感謝している。
だから彼女の言っていた、とある他人と中身が入れ替わった話も信じられるようになったのだ。
俺が彼女の秘密を聞いて、心の中で葛藤していたときに、彼女は訪ねてきたのだった。
「何か用ですか?」
さっきまでの動揺を悟られないよう、ぶっきらぼうに返答した。
俺の反応に彼女は少し困った様子だった。
「みんなボルヴィーに能力者になって欲しいようだけど、自分の気持ちを一番に尊重して欲しいなーと思ってさ。
さっき話したことも私自身の問題だから、あなたが復讐に付き合う必要はないんだからね。流れで話しただけだから責任を感じないでね!
この先も能力者として人生は続くんだから、そのこともちゃんと考えてね」
それだけ言って帰って行ったのだった。
『ああ、クソー!』と俺はその場で項垂れた。
この気持ちを一体どうしてくれるんだよ!
そんな風に言われたら・・・・
『能力者になって、助けてあげたくなっちゃうじゃないか!!』
自身の感情が複雑な生き物で、本当にイヤになってくる。
振り出しに戻った気分だ!
だけど、緑の能力は俺に向いている。
植物たちと接していると心が穏やかでいられるからだ。
プランも言ってたが、向こうが素直に力を貸してくれるからこそ、こちらも素直にお礼を言えた。
しかも余計なことを考えなくても良いのだ!
『頑張ったんだよ(だから褒めて!)』
褒めてやるけど、次への圧力かけとくか
『こんなお願い無理だよね・・・(勿論、やってくれるよね!)』
やってやるけど、大変だったと恩着せがましく報告しよう
『あなたの好きにしてもいいんだよ(話の流れて、どうするべきか気付いてね!)』
術中に嵌まってやるんだから、同等の対価をもらおう
植物には裏心を読み解く必要がないから、俺のひねくれスイッチが入ることが全く無いのだ!
それは、子供の頃の坊っちゃんのように、無垢で可愛く、素直に成長を喜べるものであったのだった。




