63 よくある不幸話
「リュードさんはどう思いますか?私が素質のある者だとわかって恨んでいるのではないですか?本当なら、あなたではなく・・・」
ボルヴィーの近くにいたヒカリは、それ以上は言わせてはいけないと、よろめいたフリをした。
「それ以上は言ってはだめよ!」
耳元でそう囁きながら、もたれ掛かったのだ。
シーラさんにばれないように、リュードが能力者だということをずっとひた隠しにしていたのに、第三者の告白で知られては元も子もない。
ボルヴィーは咄嗟に話すのを止め、ヒカリの体を支えるべく手を出した。
ヒカリはボルヴィーを見上げると、にっこりと微笑んだ。
「黙っててくれてありがとう。詳細はあとでね・・・」と小声で言ったのだった。
一連の動きでヒカリは注目を浴びてしまった。
「そういえば、そちらの女性は誰なんだ?」
孫、婿、能力者、素質のある者と、4人の素性はわかった。
一緒にここに来た彼女は何者なのだろうと、国王は疑問を投げかけた。
「彼女はリュードの恋人なのよ!」
シーラさんが嬉しそうに、そう答えてしまったのだった。
「何だよ、お前ら付き合ってんのかよ!」
イグニスが不服そうに言った。
「ちが・・・・」
ヒカリは否定しようとしたが、口を噤むしかなかった。
能力者だと言うわけにもいかないし、ここで違うと言えば、どうして関係のない者がこの場にいるんだと、追い出されても困る。
『ここは話を合わせておけ』とばかりに、プランとリュードがこちらを見ていた。
「初めまして、ヒカリと申します」
簡単に名前だけを名乗った。
すぐにシーラさんがヒカリの情報を補足してくれていた。
「とってもいい子なの」「お嫁さん来てくれたら、私たち上手くやっていけそう!」だのと、話が三段跳びで遠くに飛んで行ってしまった。
「おお、そうかそうか。それは良い。ひ孫に会えるのも、そう遠くはなさそうだな」
「まあー、お父様ったらお気がお早いですわ」
「離宮での暮らしも、どうやら賑やかになりそうだな」
「ん、離宮での暮らしとは?」
プランはどういうことだと問い質した。
「シーラも無事に帰ってきたことだし、もうここにいる必要もないからな。
上王の座は息子に譲って、妃と一緒に離宮に越そうかと考えておる。
リュードとその妻も一緒に住めば良いではないか!」
その提案にシーラは目を輝かせたが、一方でプランは「同居・・・」と呟き、この世の終わりのようにドヨーンとしていた。
リュードとヒカリはすっかり結婚するような扱いで、二人とも開いた口が塞がらない。
上王はプランへの嫌がらせの為に、思いつきで離宮に住むと言い出したのだが、彼がめちゃめちゃダメージを受けているのも面白いし、失われた時間を娘家族と過ごすのは確かにいい考えであった。
この上王のペースに巻き込まれてはいけないと、ヒカリは大事なことを話し出す。
「失礼ながら、私はコーラー男爵という人を捜しているのです。何か心当たりはございませんか?」
不躾とは思うが、話の流れを断ち切るには、この質問をぶつけるしかなかった。
「ああ、勿論知っている。病気や怪我、何でも治療できるという噂の男だろう」
「その人がどこにいるか、ご存知ありませんか?」
「ドーリンク大陸のどこかだと聞いたことあるが・・・そなた病気でも患っているのか? だがあの男のことは信用しない方が良いぞ。
聞こえてくるのは、悪い噂ばかりだ。
最初に同意書にサインをさせておいて、先払いで高額な金を払わせるそうだ。
その同意書には病気が治らなくても一切の責任を負わないとか、お金の返却には応じないと書かれているのだそうだ。十中八九、詐欺だろう!」
ドーリンク大陸と聞いて、以前、そこにいたと話していたプランに心当たりがないか聞いてみた。
「聞いたことないな。大体、僕があの地を去ってから、もう30年は経ってるからね」
「そうですよね」
「ここにも腕の良い医師がいるのよ。一度見ていただいたら良いのでは?」
「おお、そうすればいい!」
ヒカリが落ち込んでいると思い、上王妃と上王は優しい提案をしてくれたのだった。
リュードが見兼ねて、口を出したのだった。
「彼女は病気なのではなく・・・そのー、あれです。
あれがですね、コーラー男爵と関係あるとか、ないとかで・・・」
「リュード、そういうのは感心できませんね。言いたいことがあるなら、はっきりと仰い!」
シーラさんは息子をぴしゃりと叱った。
「わ、私の・・・・・そう、私の姉がコーラー男爵のところにいるかも知れないのです。それで真相を本人に聞きたいのです」
ヒカリはリュードの作り話に適当に肉付けして嘘をついた。
「「どういうことなのですか?」」
女性二人がこの話に食いついて来た。
ヒカリはよくあるような、作り話をしてみせた。
「姉はとある屋敷に嫁いで幸せにしていたのですが、資金繰りに困った旦那さんがコーラー男爵に借金をして、その形に連れて行かれてしまったようなのです。
それ以来、姉とは音信不通なんです。何とかしてそのコーラーに姉の居場所を聞き出したいのです」
考えながらなので、ゆっくりと言葉を選んで話したことが、より真実っぽく聞こえたようだ。
「それはお気の毒に。ですが、あの男の黒い噂は大陸をまたいで聞こえてくるぐらいです。残念ですが、お姉さまはもう・・・」
上王妃は言葉を濁した。
「だとしても、私は真実を知りたいのです!」
あのクソヤローは罰を受けるべきだ!
彼女のお陰で裕福になり、名を揚げたくせに恩返しをするどころか、あんなにも粗末な待遇をしていたことは万死に値する。
そんなことを考えていたからか、ヒカリの顔は鬼のような形相になっていた。
その気迫に押され、上王がコーラーの居場所を調べてくれることになり、その間はこの王宮に滞在する運びとなったのだった。




