62 沈黙は金なり
「あなた、今まで黙っていてごめんなさい・・・」
上王妃は墓場まで持って行こうとしていた秘密を告白したのであった。
「いや、礼を言わなくてはいけないのはこちらのほうだ。お前の機転のお陰でシーラとリュードを引き裂かずに済んだのだからな」
シーラの子が男児であったからには、絶対に認める訳にはいかなかった。
城の誰かに引き取ってもらい、王家とは関係のない子として育てさせるつもりをしていた。
まさかシーラが子供を連れて、国外に逃げるなど考えてもみなかったが、王妃が手を貸していたのなら、素早く行動できたのも頷ける話だ。
俺があんなにも心配していたのを間近で見ていたのだから『教えてくれても良かったんじゃないのか!?』とは思うが、彼女のお陰で娘に恨まれることもなかったのである。
シーラもひとりで子供を育てるのに、相当な苦労をしたはずだ。
娘をそんな目に遭わせたこのプランという男は許せないが、今、娘が幸せそうなので、上王は言いたいことを胸の内にグッと秘めておくことにした。
「それで、これからどうするつもりなんだ?」
「許していただけるなら、シーラとあの離宮に住まわせて欲しいのです」
プランのド厚かましいお願いに、上王はムッとしながら反論した。
「そうさせてあげたいのは山々なのだが、能力者は諍いの種だから・・・・・・それは無理だな」
「そ、そんな!」
シーラはやっとプランと暮らせると思っていたので、非難の声を上げた。
「ああ、それでしたら・・・僕はこの緑の能力をそろそろ人に引き継ごうかと考えているんです」
「そ、そんな都合よく『素質のある者』が現れるものか!」
思わぬ答えに、上王はついつい意地悪なことを言ってしまった。
「それなら、もうここに。僕の能力を引き継いでもらうボルヴィー君です」
「「「「ええーーーっ」」」」
一緒に旅してきた人たちが、一斉に驚いた!
「ちょ、ちょちょっと待ってください、プランさん!ど、ど、どういうことですか?」
名前を呼ばれた本人が、一番焦っていた。
「だって君、光が見えてるでしょ?」
『そうなの?』と言わんばかりに、みんなはボルヴィーを見つめていた。
彼は観念し「まあ、一応」と認めざるを得なくなったのだった。
「どうしてわかったんですか?」
ずっと上手く隠せていると思っていた。
「僕のように長ーい間、能力を持っていると何となく視線で分かっちゃうんだよね!
特に君は『素質のある者』だと見つからないように必死だったみたいだから、余計に分かり易かったのかもね」
「あーーー!もしかして伯爵家から彼を連れてきたのも、初めから能力を継がせるためだったんですか?」
だとしたら、あんなに簡単について来ていいよと、許可を出していたのにも納得がいくなとヒカリは考えたのだった。
「あの時は、まだ正直決めかねていたんだ。
能力を継ぐのにふさわしい人なのかを見定めるには、共に時間を過ごすのが手っ取り早かったからね。それに彼自身も能力に興味津々だったでしょう」
「まあ・・・能力もそうですが、プランさんに憧れていたのほうが近いですね」
水伯爵とは全く違うタイプだった。能力を誇示せず、自分の思う善悪に対してのみに、その力を使うことに感激したのだった。
その昔、自身が素質のある者だと分かったのは、祖父に付き添われて、初めて水伯爵と面談をした日の夜のことだった。
「おじいちゃん、あの人何だか怖いよ」
「なーに、お前は器用じゃから大丈夫だよ。伯爵の横にいた人の言うことを聞いてしっかり働けば問題ないよ」
ボルヴィーはしっかり受け答えもできていたし、引き合わせは成功であった。
孫をひとり残して帰るのは心苦しいが、それは仕方がないことであった。
「じゃあ、あの青い人とはしょっちゅう顔を会わせるわけじゃないんだね?」
祖父は、伯爵の髪のことを指しているのだ思ったようだった。
「ボルヴィーはエヴィ坊ちゃんのお世話係になるようだから、そう伯爵とは顔を合わすこともあるまい」
「あー良かった、あの光をみていたら不安な気持ちが押し寄せてきて、心臓がギュってなったんだ」
「光?」
「そうだよ身体中から出てる青い光だよ、あれどうなってるの?」
その時の、祖父の絶望したような顔を今でもよーく覚えている。
そして光が見えることは、この家の者や肉親にさえ絶対に言ってはいけないと、『見えてないふりをしなさい』と何度も何度も釘を刺された。
後々になって、なぜ祖父があんなにも必死に口止めしていたのかを、知るはめになった。
リュードがここにやって来て、この家の者たちの彼への扱いを見ていて、その意味が嫌という程にわかった。
おじいちゃんが一族の繁栄よりも、孫の身を案じてそう言ってくれていたことがわかって本当に嬉しかった。
そして能力を継いだリュードに対しては、ずっと負い目のようなものを感じていたのであった。




