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6 相補関係


チャーコブに向かって出発してから、早数日が経過していた。


旅なれた人たちと一緒なので、天候の変化や火起こし、道に迷う等の心配はなかったのだが、とにかく歩くのが早い。

仕事のみんなにしてみれば重い荷物を持って、殆ど休みなく進むのが当たり前のようだが、こっちは必死だ。


若さと気合で何とか付いて行っているが、夜は疲れて果てて泥のように眠りについた。

翌日も朝はまだ元気なのだが、疲れが蓄積しているようで、昼ぐらいにはもう疲れ出した。

あまりにもグッタリしている俺を見て、可哀想になったのかヒカリが肩を揉んであげると言ってきたのだ。


「そんなの要らないよ」と遠慮したのだが(本当はリュックが擦れて触られるのも痛いほどにヒリヒリしていた)ヒカリは俺の肩を優しく擦った。


するとどうだろう!!

驚くほど肩の痛みが楽になったのだった。


「スゴいよ、ヒカリ!!アッという間に肩の痛みがなくなった!!」

彼女は唇に人差し指を当てた。

「しっ、声が大きい。 私の能力なの・・・他の人には知られたくないから黙ってて」


今まで打ち明けてこなかったのは、ヒカリも能力のせいで何かあったのだろう。

俺にも言うつもりがなかったから、彼女も俺の能力について、何も訊いてこなかったのかも知れない。


だが、俺の為にその能力を使ってくれたのだった。

「だって何時まで経っても『疲れたから、交代してくれ』って言わないんだもん」


ヒカリはもう俺に隠す必要ないからと開き直って、全身の疲れをすべて取ってくれた。

「あなたは私の能力を利用したりしないでしょう?」

「当たり前だ。約束するよ!」

能力者だからこそ、その苦しみは理解できた。


その日以来、旅は断然、楽になった。

他の人たちに申し訳ないが、肩、足をはじめ全く疲れない体を手に入れたのだ。

ヒカリは休憩の度に、体の不調がないかを聞いてきてくれた。


だが今度は自分だけが疲れ知らずなことが、後ろめたくなってきた。

余りにもみんなに申し訳ないので「もう一つ荷物を持つよ」と申し出たのだ。

みんなはその言葉に「助かるよ!」と感動してくれ、食事も分けてくれたりするようになり、だんだんと打ち解け出したのであった。


「みなさんはチャーコブには詳しいのですか?」

「この商品を売って、その金でまた仕入れして戻るだけだからな〜」


もしかして何か有力な情報が得られるかと思ったが、数日の滞在ですぐに帰ってしまうようだ。

それでも訊かずにはいられなかった・・・


「シーラという名前の女性を捜しているんですが、何か知りませんか?」

「う〜ん、シーラ、シーラ・・・」

「よく行く飲み屋のおかみさんがそんな名前じゃなかったか?」

「あの人はニーナだろ。シーラは宿屋のちびっこじゃねーか」

「あの前歯の抜けた子か!」

「確か王女様と同じ名前なんだと自慢してたっけな」

前歯のない王女様か~と、みんな大笑いしていた。


やはりそう簡単には母は見つからなさそうだ。

ヒカリは「何とかなる!」と言ってくれたが、前途多難そうだ。

とりあえずお金がないということが、勘所だ。


水の能力を使えば、権力者たちは群がってくるだろう。

そうすれば簡単に庇護下に置いてもらえ、生活の保障はしてもらえるだろう。

だが、そのうち能力者がお金を生み出すことに目がくらみ、手元に置いておきたくて、行動を制限し始めるのだ。

それでは汚物のところにいたときと、何ら変わりはない。


何とか自分たちの力で、普通に暮らせるようにならなくてはいけない。

逃げ場所というか、避難場所のようなところが必要だと考えていた。


「それは私も賛成! 結局、行くところがないから利用され搾取され続けるんだと思う。

本当に必要としている人の助けになりたいけど、私たちで金儲けしようとする奴らは雨後の筍のように湧いてくるもんね」


チャーコブに着いたら当面は仕事を見つけ、普通の生活を送れるように努力する。

そして合間を見て、母を捜そうと二人で決めたのだった。


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