59 とりあえず何でもやってみたい病
「何だか聞いていたのと違うな・・・」
リュードは違和感を覚え、シーラにだけ聞こえるように呟いた。
母はこの王宮から追い出されるように、離宮に連れて行かれたと話していた。
身体的な欠点を恥として、長年、薄情に扱われていたとばかり思っていた。
それなのに、上王と上王妃からはシーラに対する愛情が見受けられた。
しかし・・・とリュードは訝った。
この優しさは長年行方不明だった娘がやっと見つかったことへの安堵と、罪悪感からくるものかも知れないのだ。
今後の母が心配になり、リュードは意を決して口を開いた。
「母が生まれつき脚が不自由なことを、みんなが隠したがっていたと聞きました。
ここでは人目につかないように行動を制限されて、窮屈で居心地が悪かったそうです。
まるで王家の恥のような扱いをうけ、じょじょに居場所もなくなり、仕舞いには離宮に住まわされたと聞きましたが・・・」
「「シーラーーー!!!」」
リュードが話している途中だというのに、上王と上王妃はすごい剣幕で娘の名前を叫んだのでした。
「全くこの子ときたら!!」
さっきまで感涙していた上王妃は、今度は顔を真っ赤にして怒っていた。
かわいい孫にそんな誤解をされては、堪ったものではないと、堰を切ったように話し出した。
「まず、シーラは生まれつき脚が悪いわけではありません!」
母は昔っから、とにかく影響を受けやすい子だったそうだ。
本や昔話にはじまり、誰かの自慢話とか、面白い話も真に受けてすぐに行動に移していたらしい。
『父さんは小さい頃、木の上で1週間も暮らしたことがあるんだぞ〜』
父親の嘘丸出しの自慢話に目を輝かせ、『私もやってみる!!』とシーラは意気込んで、木に登ったそうだ。
そして案の定、足を踏み外して落下し、股関節を骨折したのだ。
これが原因で脚を引きずるような歩き方になったのだった。
「え、嘘よ!生まれつきだって言ってたじゃない・・・」
「それは・・・上王とあなたの名誉のためにそう言うしかなかったのよ!」
父親のバカな盛り話を間に受けて、お姫様が木から落ちて後遺症が残ってしまったなんて、聞こえが悪すぎた。
今まで本当のことを話す機会がなかったが、上王妃はもう時効だと、シーラの悪行を次々に暴露した。
「大体あなたは次から次へと問題ばかり起こしていたでしょう。
『馬のしっぽを持っていると願い事が叶う』
それを信じて、厩舎に忍び込んで、馬の後ろ足で顔を蹴られて大きなアザを作ったこともあったでしょう。その後は確かに行動を制限したわ!あんな顔で歩かれたら皆がどう思うことか!」
本人の過失なのに、肉親である親か兄姉が疑われるだろうとヒヤヒヤしたのだ。
「『生き物の神様になるんだ』と言って、昆虫を捕まえまくっていた時期もあったわね。瓶の中にぎゅうぎゅうに詰めたそれを何個も作っては、嬉々として部屋中に飾っていたわ。
あなたの部屋でそれを見てしまった私は、気を失ってそのまま丸2日も寝込んでしまったのよ!!今、思い出してもおぞましい!」
このように、シーラさんはこの王宮で姫様という肩書きに捕らわれず、好き勝手、思うがままに行動していたようだ。
これらのエピソードを聞いて本人は「そんなことあったわね、懐かしいわ〜」とあっけらかんとしている。
反対にリュードとプランは青ざめていた。
「母が、とんだご迷惑を・・・事情も知らずに失礼なことを言ってすいません」
リュードは母の話を鵜呑みにしていた自分を、殴ってやりたい気分だった。
「リュードが謝ることはないのよ。大体、シーラ本人は悪いことしたなんて、これっぽっちも思ってないんだから・・・・・・でも、息子のあなたがまともに育ってくれていて本当に良かった」
「まあー!お母様がいつも、そうやって大袈裟に騒ぐから、皆があれもダメこれダメと禁止してくるようになったのですわよ」
シーラはこちらには全くの落ち度はございませんとばかりに反論した。
しかし、リュードも母の変な行動に心当たりがあった。
「悪いのはきっと母さんだよ。思い出したよ・・・昔、家の玄関扉にも奇妙な絵をいっぱい書いて、家主さんに怒られてたじゃない」
「あれは魔除けの印じゃない!嫌なことがあった日に書いておくと、次の日に持ち越されないって教えてあげたでしょう」
「でもあまりにも怖くて、近所の子供たちに悪魔の家って呼ばれてたんだよ」
家には赤いインクしかなかったので、それで魔除けの印を書くのだが、絵がヘタな上にインクも垂れるので、まるで血みたいに見えたのだった。
それを繰り返すもんだから、扉一面は赤黒くなり、新しい部分は鮮血に見えるという恐ろしさだったのだ。
リュードは恥ずかしくて、誰も見ていないかを確認してから、こそこそと家に出入りしていたのであった。
「あっはは、それは面白いわね。悪魔の家ならもう魔除けなんていらなかったじゃない!」
シーラの剛胆ぶりに、みんなは唖然とするしかないのであった。




