56 動物に好かれやすいって最高
彼は追っ手を気にしつつ、そちらに向かって火を出さなくてはいけないので、ゆっくりとしか進めなかったそうだ。
体力は無くなっていくし、どこへ逃げればいいのか見当もつかない。
心が折れそうになっていたら、タイミング悪く前方から狼の大群がすごい速さでやって来たそうだ。
『もうこれまでか・・・』
彼は観念したのだが、その群れは彼のことを素通りして、追っ手のほうへ襲いかかって行ったのだ!
イグニスがホッとしていると、一際大きく、しかも真っ白な狼のようなクマのようにも見える動物がこっちをじっと見ていたそうだ。
「そいつは目が合う『付いてこい!』とばかりに頷いたんだ!」
まだ話を信用していないみんなは『またまた〜』とジト目でイグニスを見ていた。
その視線に彼は「チッ」と一つ舌打ちをし、続きを話し出した。
その大型動物はゆっくりと彼を先導するように進んだそうだ。
慣れてくると段々と距離を縮め、しばらくすると真横について歩いていたらしい。
「そのうち、出血のせいか意識が朦朧とし始めたんだ。
俺がフラフラしているとそいつは『俺の上に乗れ』とばかりに、俺の前にドンと立ち、両足の間にお尻を入れてきたんだ。俺はそいつのふわふわの背中に気を失うように乗っかったんだ。薄れていく意識の中、ヤツは俺を落とさないようにゆっくりと歩みだした」
「えー、羨ましい!」
ヒカリは夢のようなシチュエーションに思わず声を上げた。
これにイグニスは気を良くしたらしい。
「そうだろう、次に気が付いたら俺は川辺で目が覚めたんだ。
ヤツは側で守るように、俺を温めてくれていた。
俺が起きたとわかると、色んな動物が果物や木の実、それに魚まで持って来てくれるんだよ。
その魚を焼こうと俺が木の枝を集め出したら、次は木の枝を口に咥えてやって来て、それを置いていってくれるんだ」
流石にみんなも動物達が意志を持って、イグニスを助けようとしていることがわかってきた。
こうしてイグニスはその大型動物にずっと付き添ってもらい、他の動物達にも助けられながら、チャーコブに来たようなのだ。
しかし、怪我を押して移動をしていたせいか、熱が段々と高くなってとうとう動けなくなってしまった。
「俺を助けてくれたじいさんの飼い犬が、倒れている俺を見つけてくれたそうだ。犬が『こいつを助けてくれ』と言わんばかりに、じいさんをそこまで誘導したそうなんだ。
めったに人に懐かない犬なのに珍しいから救助したんだと話していた」
「そうだったんだ。親切な人と犬に助けてもらって命拾いしたのね。ところでずっと、付き添ってくれてた大型白モフモフは一体どこに行ったの?」
「気になってじいさんに訊いてみたんだが、そんな動物は見かけなかったそうだ」
「そうなんだ」
ヒカリもそんなにも賢いモフモフを見たかったので残念がった。
「そういや、じいさんの犬もお前と離れる時、すごく寂しそうにしていたな」
リュードが触ろうとしたら唸っていたのに、イグニスにはデレデレで妙に懐いていたことを思い出した。
「うーむ、俄かには信じられんが・・・」と上王が口を開いた。
「もし嘘をつくにしても、わざわざこんな奇想天外な話はせんだろう。
もっと無難な作り話をすればいいだろう。
実際のところ、こうして無事に逃げてきていることだし、信じるより他あるまい」
上王は過程よりも結果を信じることにしたのであった。
「だがしかし、そなたがここにいることは、この国にとっては甚だよろしくないのだ。見なかったことにするので一刻も早くこの国を立ち去って欲しい」
王は御用商人にも『今日、見聞したことは全て忘れるように』と固く口止めをして、退出させた。
たくさんいた護衛も続いて退出したので、部屋が急に広く感じられるようになったのだった。




