55 欲は落とし所が肝心
「話す前にひとつ条件がある。彼の話を聞くのなら命の保証はして欲しい。
もしビール帝国に引き渡すつもりなら、ここから彼を逃がすつもりだ!」
プランは仲間を庇った。
シーラの父親にケンカを売りたくはないが、能力があることによって裏切られたり、国に利用され散々な目にあったイグニスの力にはなってやりたい。
「ふん、こんなにも衛兵に囲まれているのに、逃げられるわけがないだろう!
心配するな、我が国はエール国と友好な関係だったのだ。
ラガーがエールを侵略しビール帝国などという国を作った所為で、こちらにもいつ攻めて来るかも知れんと警戒を強めておるのだぞ」
「だからこそですよ。彼をビール帝国に差し出して、エールの時のように友好関係に持ち込もうとしているのでは?」
「貴様はバカか!わざわざ強力な兵器を差し出して『これ渡すから、攻めて来るなよ』もないだろう!本末転倒だ!!」
「ではもう一つ、上王は彼の能力を手元に置いておきたいと思わないのですか?」
プランが本当に確かめたかったことはこれだ。
「うむ、能力者とは表裏一体の存在だ。
その力は使えば簡単に色んな物が手に入るだろう。
ラガーのように楽をして領土を広げることも可能だし、アクーアのように長年に渡り富を得る国もある。しかしその反面、その力が無くなってしまったときの反動は大きい。
幸いにもこの国は温泉という資源のお陰で、第三次産業が発達し、国は潤っている。
チャー連合国の後ろ盾もあるので、ビール帝国が攻めてきても隣接している連合国が大挙して助けにきてくれるだろう。
今のところ能力者に頼らずともこの国は安泰なのだ」
その話を聞いて、プランは上王の前で片膝を付き最敬礼をとった。
「数々の無礼をお許しください。能力者に対して上王様のような意向をお持ちの方に初めてお会いいたしました」
上王の考え方に、プランは心の底から敬服の意を示したのであった。
こうしてイグニスはここに来るまでに至った経緯を説明することになったのだった。
急に能力を手に入れたこと。
仲間に裏切られてラガー国に売られたことや、命令されてエール国に火を放って回ったこと。
英雄だと持て囃されていたが、近隣諸国から非難や怒りが寄せられたらすぐに処刑されそうになったことを包み隠さず話した。
「今から考えれば、多分、あいつら最初から俺を殺すつもりなんてなかったんだ。
俺の能力で、エールを簡単に落とすことができたと喜んでいた。
『この勢いでウイスキー国に侵攻する。次もよろしく頼む』とも話していた。
まさか、あんなにもチャー連合国の不興を買ってしまうとは考えていなかったのだろう。バカだよなー!」
チャー連合国はチャーリョク、チャーコウ、チャーハク、チャーセイ、チャーコク、チャーオウの6つから構成されている。
チャーリョクの中にも沢山の国(州)があって、チャーコブはその中の一つに過ぎない。
チャー連合国はそれだけ強大なのだ。
「文句を言ってきた国に、なんて言い訳しようか焦ったんだろ。
俺を処刑するのは惜しいから、手を落として見せしめにしたつもりだったのに、まさか俺に逃げられるとは夢にも考えていなかったんだろうよ」
「そうだったのか・・・今頃は血眼になって捜しているのではないのか?」
「きっとそうだろうな」
「そんな大きな怪我をしていたのに、よくもこんな遠くまで逃げて来られたものだな。誰か協力者でもいたのか?」
着の身着のままで、しかも大怪我を負っていたにも関わらず、国をまたいで逃げて来たことが上王には信じられないようだ。
「協力者というか、色んなのに逃げるのを助けてもらったな」
「「えっ!」」
「そうなの!」
イグニスの返事に、驚いたのは上王ではなく能力者のみんなだった。
「どうしてそれを教えてくれなかったんだい?それって信頼のおける人達なの?」
プランは責めるように言った。
協力者がいたのならその者の命の心配もあるが、口を割ってしまうことの方が心配だ。
「信頼・・・?そんなのわかんねーよ。だって動物だからな」
その言葉にみんなは押し黙り、困ったように目を逸らした。
「こーなりそうだったから、言いたくなかったんだよ!!」
イグニスはそれは不機嫌な顔をしたのだった。




