54 初めて会う人には緊張する
王宮はそれは立派なものであった。
見た感じアクーア王宮よりも大きそうだ。
こんなに広いとシーラさんがどこにいるのか、全く見当もつかない。
長い廊下をあっちこっちへ曲がり、中庭に出たと思ったら、またも同じような廊下を通って、やっと「こちらでお待ちください」と案内されたのだった。
「私も長い間この王宮に来ていますが、広間以外の場所に通されたのは初めてです」
ここは御用商人もが知らない場所のようで、物珍しげにキョロキョロと辺りを見回している。
ここはどちらかというとプライベートな部屋のようだ。
部屋とは言っても3LDKのマンションがすっぽりと入りそうな広々空間で、凝った椅子やソファーが『そんなに要る?』ってぐらい、たくさん並べられていた。
王宮に入ってすぐに、衛兵にどこかに連れて行かれたイグニスは、水を張った盥に手を付けたまま、後からここにやって来た。
火を出されたら困るのでその対策のようだ。
一緒に付き添って行ったボルヴィーが、心配ないとばかりにひとつ頷いて見せた。
イグニスは拘束こそされてはいるが、どうやら暴力を振るわれるようなことはなかったようだ。
ほどなく、沢山の衛兵を従えて上王は姿を現したのだった。
「報告ご苦労であった」
顔なじみの御用商人に労いの言葉をかけ「その者たちが能力者を見つけてきたのだな?」と確認をとった。
御用商人よりも先に口を開いたのはプランであった。
「上王様、お初にお目にかかります。僕はプランと申します。突然ではございますが、こちらに帰って来られているシーラ様との結婚をお許しいただきたいのです」
寝耳に水な話に、上王も御用商人もその内容を理解し切れず、しばらく顔の表情が抜け落ちていた。
我に帰った商人は何か言わなければと口を開いた。
「またまたー、とんでもない冗談を・・・ハハハ・・・」
誤魔化すための誘い笑いが虚しく響いた。
上王は値踏みでもするように憮然としたままプランを見つめていた。
彼も負けじと視線を逸らさない。
しかし、プランは心の中では焦りまくっていた。
「このリュードは、僕とシーラの息子です」
早くも切り札を出したのだった。
矢面に立たされたリュードは焦りながらも、上王にペコリとひとつ頭を下げた。
「そのー、母は無事なのでしょうか? あまり・・怒らないで・・やって下さい」
恐る恐る、か細い声でそう言うのがやっとだった。
「ガーハハハッ、そうかお前が息子なのか!心配するなシーラ元気だ」
その破顔した顔が、どことなく母と似ていてるなと思い、リュードは少し息をついたのだった。
「シーラには後で会わせてやるから安心しなさい。それよりもまず火の能力者についての報告をしてくれ!」
上王は至って冷静であった。
ここにいるのは、ラガーが言う『勝手にエール国を襲撃した』と責任を押し付けられた能力者なのか・・・処刑は虚偽の報告だったのか・・・
それとも全てがシーラに会うための嘘だったのかをハッキリさせたい。
「彼は間違いなく火の能力者だよ」
プランは答えたが、上王はまだ訝っているようだ。
能力をこの目で見て確認したいところだが、大きな炎でも出されたら大事だ。
困った上王はシーラの息子である孫に真意を確かめようとした。
リュードはそれに気がつき「はい、間違いなく火の能力者です」と答えた。
上王の機嫌を損ねたくない、御用商も口を挟んだ。
「私も、確とこの目で、手から火が出るのを見ました!」
「そんな疑うなら、出そうか? 火?」
イグニスはそう申し出たが、上王はどう返答すべきか思案しているようだ。
「彼はちゃんと小さい火を出しますよ。ここを燃やすような心配はありません」
『シーラ云々』と暴言を吐いた男の言葉を鵜呑みにするのは腹立たしいが、今は国の一大事だ。
「なら、頼む!」
イグニスは盥から手を出し、服で適当に水分を拭うと、パッと火を出したのだった。
「何と!!」
能力を目の当たりににして、それ以上の言葉が続かない上王に、ライターとの差を見せようとイグニスは少しずつ火を大きくして見せた。
「そなたが火の能力者だということはよーくわかった。エール国で一体何があったのか詳細を教えて欲しい」
上王は前のめりでイグニスにそう声をかけたのだった。




