51 些細な変化は気付きにくい
シーラさんの待つ離宮に着くや、使用人たちが慌てた様子で出迎えてくれたのだった。
「大変です、シーラ様が王宮に連れて行かれてしまったのです!」
みんながペリーエ家に行った後、上王妃様がここへ静養にやって来たそうだ。
見つからないだろうといつものように使用人のフリをしていたのだが、そこは実母の勘が冴えていたようで、あっけなく見つかったのだそうだ。
「君たちはお咎めはなかったの?」
「シーラ様が庇ってくださいました。
『私が皆に黙っているように命令しました。王宮に出向きますのでみんなには手を出さないで下さい』と、そう仰って下さったのです」
「そう、わかった・・・では僕たちも王宮に行くとしよう」
そういうことで馬車に乗り込んだが、プランは落ち着かないようで、先ほどから饒舌にどうでもいいことをペラペラと息つく間もなく話している。
「プランさん、ちょっとは落ち着いてくださいよ」
「ヒカリちゃん、どーしよー?シーラ大丈夫かなー?」
「そ、そ、そりゃー大丈夫に決まっているでしょう!」
リュードも心配なようで、まるで自分に言い聞かせているようだ。
「二人共、ゆっくりと深呼吸して下さい!
上王とその妃様にしてみれば、シーラさんは実の娘なんですよ。心配するようなことはないですよ」
「いや、僕が心配しているのは、シーラがまた変な事を言ってないかと不安なんだよ」
例の花の精のような、火に油を注ぐようなことを口走ったら、絶対に結婚は認めてもらえないだろうと、プランは焦っているのだ。
「うーん、それは・・・」
ヒカリも何とも歯切れの悪い返事をした。
確かにシーラさんがチャーコブから姿を消した後のことを、どう説明をしているのか、図りかねた。
「そうだ、よかったら手でも繋ぎましょうか?」
プランは自分でも冷静さを欠いていることがわかっているようで、そうしてもらおうかなとヒカリの手を取った。
リュードも「俺も頼む」と空いている方の手を掴んだのだった。
「それ、何か意味があるのか?」
ヒカリに腕の治療してもらっているイグニスが不思議そうにきいてきた。
「ヒカリには慰撫の力もあるようなんだ。だから不安や高ぶった気持ちを落ち着かせてくれる効果もあるんだ」
「でも、君のように治療中の人には、力はそっちに向かうみたいだね」
そのイグニスの前腕部の治療は思うように進んではいなかった。
変化があるような、無いような、本当に手指まで元どおりになるのかは、まだまだ不確かな状態だ。
焦っているヒカリに対して、痛みが引いたイグニスのほうが楽観的で「別にこのままでもいいよ」なんて言い出していた。
「じゃあ、その慰撫の力を感じたことのないオレは、やっぱり治療が進んでるってことじゃないのか」
彼なりに気を遣ってくれているようで、ヒカリの不安を払拭するようなことを言ってくれた。
「そうだよね、まだ治療は始まったばかりだもんね。それに最終手段もあるから・・・」
独り言のように呟いたのだがリュードは聞き逃さなかった。
「最終手段って何だよ」
「言葉の通り、最後の手段だよ」
「そんなことは聞いてない!何をするのかって訊いてるんだよ!」
リュードは何をするのかを薄々気がついているのだが、一体どれをするのかが気になっているのだ。
プランのときのようなものなのか・・・それとも・・・
それ以上の粘膜接触と言えばアレしかないではないか!
「私だって極力やりたくないんだからね!
『元通りにできる』と言ってしまったからには、責任ってものがあるでしょう。でも、その時がきたら、ちゃんとリュードにも相談するから・・・」
やりたくない発言に気を良くしたリュードは、ひとまず気が済んだようで、それ以上は何も言ってこなくなったのだった。




