49 生きる目標なんてある人のほうが少ない
ヒカリは彼の側に行くと、「ちょっといい?」と袖を捲り傷口の確認をした。
急にヒカリが手を取ったのでイグニスは戸惑っていた。
昼間なので気付かなかったが、近くに来ると彼女からは白い光が出ていることが分かったのだった。
「とりあえず、体の不調は治まったんじゃない?」
彼女は切断された方の手を持ったまま聞いてきた。
そう言われてみれば、痛みもさることながら、いつもの倦怠感がなく頭もすっきりしている!
「もしかしてお前も能力者なのか!?」
「そうよ」
イグニスの話を聞いて、ヒカリはすぐに治療しないとと思ったのだった。
もはや、第三者であるボルヴィーのことなど、頭の片隅にも存在していなかった。
「私なら、時間はかかるけれどもまた手を再生させられると思う」
例えば栄養を摂取する食事中にでも、彼の患部を触り続けていたら、ゆっくりではあるが、きっと元通りになると思えたのだ。
もしそれがダメだったらあの方法がある。
そちらの方では実証済みだったが、それは最終手段なので今は伏せておいた。
「そうか・・・火ではなく、治療できる能力なのか」
チャーコブに逃げてきて、イグニスを助けてくれたのは変わり者の金持ちのじいさんだった。
一人暮らしのじいさんはこの建物の持ち主で、端に住居を構えていた。
数日間、気を失っていたそうだが、じいさんは医者まで呼んでくれたようで、熱も下がり起き上がれるまでに回復していた。
じいさん家に厄介になっている間に、この店の親父とも知り合いになったのだった。
「荒くれ者に店をむちゃくちゃにされた!」と怒っていたので、暇つぶしに話を聞いていたのだ。
店中に水を撒き散らされ、売り物を台無しにされたそうなのだ。
何でも『すぐに火をつけられる品物』を売りに来る奴がいて、そいつがあまりにも強欲だったので懲らしめようとしたら逆にやり返されたそうだ。
「なんでも、あーいう奴らは能力者と呼ばれてるらしいぞ」
その話を真に受けて、てっきり自分と同じ火の能力者がいるのだと勘違いしたのだ。
だから親父が店を辞めた後も、じいさんに頼み込んでここに居させてもらった。
でもまさかここで、本当に能力者に会えるとは思ってもいなかった。
そしてそれが、よりによって水の能力者だというのは皮肉なものだ。
しかも緑色や白色と一度に3人もやって来るなんて、想像できる訳がなかった。
「どうして、お前とそれに青はそんなに光っていないんだ?」
能力者になってから自身を鏡で見た時の衝撃は忘れられない。
自身でも『うわーっ、燃えている!』と腰を抜かしたのだ。
だからさっき、緑色の光が目に飛び込んできたときは、心底驚いた。
青いのが水を出したので、やはり色が能力を表していることは理解できた。
そしてここに同じ火の能力者がいないこともわかった。
「これは素質のある人たちに、能力者だと気づかれないように、極力光を出さないようにしてるの」
だったらどうして緑はたくさん光を出しているんだと、尋ねようとしたら、本人が理由を述べ出した。
「この二人は能力者になってまだ日が浅いから、自身の身を守るためにこうしているんだよ。だから君もやっておくほうがいいだろうね」
プランはイグニスの身を案じて助言した。
彼は素直にヒカリからその方法を教えてもらい、早速、実践している。
「そうしておくと、悪い奴らには簡単に見つからない。それと人前ではできるだけ能力を使わないように」
「プランさん。私は彼の手を治してあげたいです」
「うん、分かってるよ。ヒカリちゃん。
いーい、連れて行くからにはみんなと仲良くすること、それと決して裏切るようなことはしないと約束できる?」
「一緒に行ってもいいのか?」
イグニスにはもう何もなかった。
金も帰る場所も、やるべきこともない。
大罪を犯した今、母に会う資格さえなくなってしまった。
「勿論だよ。今まで大変だったね」
その言葉には『これからも生きていていいんだよ』と言われたようで、救われたのだった。
助けてくれたじいさんにお礼を言って、イグニスは能力者のみんなに付いて行くことにしたのだった。




