47 もうひとりの男
順調に馬車は進んでいて、チャーコブの領土に入っていた。
「もうすぐセイロン商会の辺りじゃないですか?」
ボルヴィーに言われて、伯爵の長子クリスターのことを、3人はやっと思い出したのであった。
「あっ、そうだった。すっかり忘れてた!」
プランは正直にそう漏らした。
ボルヴィーもあいつのことはどうでもいいのだが、出立する前に伯爵に頼まれたので、それを言ったに過ぎない。
「まあ、俺も別にどっちでもいいんですけどね」
「そういう訳にはいかないよ!」
さっきまで全く忘れていたのに、プランは息子の手前、急に常識人のように振る舞い出す。
立ち寄ったセイロン商会はお休みのようだった。
クリスターを埋めた木は、店の裏庭にあるので、店の中を通らないとそこには行けない。
高い塀を登って侵入すればいいのだが、出来れば泥棒のような真似ごとはしたくはない。
「あれ?品物が無くなっているようだね」
薄暗い店内を覗き込んでいたプランが言った。
ボルヴィーが隣に話を聞きに行ってくれた。
「どうやら、あの一件で店を閉めたようですね」
「それは、悪いことをしたな・・・」
リュードは店内を水浸しにしたことを少しだけ後悔する。
「あれは、あのオヤジが欲をかき過ぎたのがいけなかったんだ。リュードは悪くないよ」
プランは息子を庇った。
「どうやって中に入りましょうか?」
「意外と鍵が開いてたりして〜」
プランが扉をガチャガチャと触ったが、そんなに都合のいいことはなかった。
「すいませーん、誰かいませんかー?」
プランはダメ元で、中に向かって声をかけてみる。
反応が無いので、ボルヴィーが「隣でこの家の管理者が誰だか訊いてきましょうか?」と提案したときだった。
「何か用か?」
意外にも中から男の声が聞こえたのだった。
「ちょっとこちらの中庭に大事なモノを忘れているので、取りたいんです。ちょっと通していただけませんか?」
モノが『物』ではなく『者』であるとは思うまい。
若い男の声なのであの支配人ではなさそうだが、リュードはヒカリを庇うように前に立った。
鍵を外す音がして現れた男は、真っ赤だったのだ!!
先頭にいたプランは男を凝視していた。
男も目をまん丸にして、こちらの人間をひとりひとり確認していた。
「お前、大丈夫かーっ!」
プランを押しのけるように前に行くと、リュードは男に向かって放水したのである。
「違う、違うよリュード!彼は燃えているのではなく能力者だ!!」
「えっ、は、はあ?!」
確かに彼は水をかけても赤いままで、何ら変わってはいなかった。
ビチャビチャにされた男は、リュードを睨んだ。
「お前、俺よりも能力が勝っているからって、火の能力をバカにしてんのか!!」
「そ、そんなわけないだろ!本当に燃えていると思ったんだ!」
「ふん、どうだかな」
彼はかなり怒ってはいたが、店の中にみんなを通してくれた。
しかしながら裏庭ではなく、そこは元商談室だった所であった。
本人は着替えを済ませて戻ると、髪をふきふきしながら、椅子にどっかと腰を下ろした。
「早とちりだった。すまなかった」
リュードは素直に謝った。
彼はまだ不機嫌そうな顔をしていたが、それよりも訊きたいことがあるようで話し出した。
「お前らがこの店で派手に暴れたっていう能力者だな?」
彼はそれを確信しているようで、返事を聞かず続けた。
「俺が探しているのは、すぐに火をつけることができる物を売り回っている奴なんだ。お前なんだろう?」
男は支配人から話を聞いていたようで、ヒカリをじっと見据えて訊いてきたのだった。




