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39 男の一念岩をも通す


ボルヴィーはここに来る前、エヴィに今回のことを告げに行ったのだった。

「坊ちゃん、これからリュードさんがいなくなると、この家は財政難になるでしょう。そこで私に(いとま)を出して下さいませんか?」

「な、何言ってるの?!そんなのダメだよ!」


坊っちゃんの唯一の付き人であるボルヴィーが、伯爵家からクビを言い渡されるようなことは、まず無いだろう。

しかしここは、この家の為を思って身を引くように見せておきたい。


「いえ、今までお世話になった伯爵家の負担になるのは嫌なのです。

それにこの度の坊ちゃんのご活躍は目を見張るものがありました。

私がいなくても、もう坊ちゃんは大丈夫です!」

「そんなこと言わないでよ、ボルヴィー!!」

エヴィは半泣きになっていた。


実は王宮での話を聞いている間も、坊っちゃんの心配より『プランさんの活躍を見たかったなー!』のほうが勝っていたのであった。

どうして一緒に付いて行かなかったのかと、とても後悔していた。

一切の譲歩なしで、国王にまで全ての条件を飲ませるだなんて()()としか言いようがない。


坊ちゃんも兄のコントレと一緒に行動し、誓約書の内容まで確認させてもらったそうだ。

「僕にも確認するように()()()てくれたんだよ!」

「それと僕が差し出した椅子に、父さんがお礼を言って座ってくれたんだよ!」

報告してきた坊ちゃんの嬉しそうな顔ったら・・・こちらも同じように嬉しくなった。


少し前までは、肉親にすら目も合わせられなかったのに、会話もできるまでになったなんて急成長だ。

やはり()()()()()()()()()()らしい。


坊ちゃんは気弱ではあるが、バカではない。

伯爵やコントレに欠けているものを持っている。そして2人も段々とそのことに気が付いてきているようだ。


「だけど、ボルヴィーがいないと・・・ぼく、どうしたらいいのか」


俯く坊ちゃんは『私が庇ってやらないと!』と意気込んでいた頃の、幼さが顔を出した。

情に(ほだ)されてはいけない。俺もいい加減、お守りから解放されたい。

この機会を逃したら、また()()()()()()()()に戻るかもしれない。


「坊ちゃんならもう大丈夫ですよ」

「・・・ボルヴィーはここを辞めてどうするの?」


俺の実家はこの伯爵家から土地の管理を任されている地主の一つだ。

家は長兄が継いでいて、それ以外の子供は俺と同じようにどこかに出されている。

俺は(とお)で、坊ちゃんの元へ付き人として来たのであった。

それ以来、数える程しか実家には帰ったことはない。

優しい坊ちゃんは帰るところがないことを心配してくれているのだろう。


「プランさんに付いて行きたいなと思っているんです」

彼に拒否られるかも知れないが、何となく押し切ったら連れて行ってくれそうな感じがする。

彼には根底に人の良さがあって、それが常に見え隠れしていることが魅力であった。

それこそが伯爵との決定的な違いであった。


「じゃあ、じゃあ、リュードさんともこの先、一緒だよね?!」

坊ちゃんの声が急に弾んだ。

「2人は親子関係ですから、この先も一緒でしょうね」

「よし、ボルヴィー行ってもいいよ!!

そのかわりにあの女とリュードさんの中を必ず引き裂いてくるんだよ。これは命令だからね、わかった!!」

「・・・・・・」


坊ちゃんはいつからこうだったのだろう??

好きになるのは別に男でも女でも構わないのだが、その執念というか粘着さは、俺の許容範囲をラクラクとこえてくる。

坊っちゃんはリュードさんが絡むと、急に積極性が増すようだ。


さっきまでの『ボルヴィーが居ないと心細いよ〜』が嘘のように、「よーし、これであの2人の心配はいらなくなったー」と両手を高く上げている。


2人の邪魔をするなら『少しは手当を出してくれる』との約束を取り付けたので、まあ悪い話ではなくなった。

こうして坊ちゃんとの交渉は済んだのだった。


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