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35 尊属殺人


その頃、広間では戻って来ない通訳に皆が苛立ちはじめていた。


「ちょっと遅くないですか?」

「そうだね」

リュードと同じように考えていたプランは、木に様子を伺いに向かわせる。


兵士たちは全員、樹冠に乗せられてしまった。

高い所が苦手な者はその場で怯え、勇敢に飛び降りて来た者は木に巻きつかれて身動きがとれないようにされている。


国王を立たせておくわけにはいかないと、伯爵はコントレに椅子を用意させた。

弟のエヴィも同じように椅子を取ってくると、父親に差し出した。

「あの父上も、どうぞ」

国王を前にどうしようかと迷っているようであったが「すまないな」と、伯爵は素直に腰を下ろしたのであった。


「あいつ・・ワシを・・見殺しに・・・つもりか」

あまりにも時間がかかり過ぎていることに、国王も不審に思い始めたようだ。

「どうやらそうみたいだね。鍵をかけて閉じこもっているようだよ」

プランはもう部屋を突き止めているようだ。

「頑丈そうな扉だから壊せるかな〜」

木を巨大化させるには地中に埋まっていないと出来ない。


「・・・取引をせんか・・・あいつを・殺してくれたら・・先ほどのことは全て・・・受諾しよう」

言葉に詰まりながらも、ハッキリと()()()()()()()と国王は口にしたのであった。


「こちらは条件を飲んでくれるなら、何でもいいんだけどね。口頭の約束はダメだよ!今すぐきちんと誓約書を用意して欲しい。」



「国王様は体調がすぐれないようだから、誓約書はまたの機会でも良いのではないか?」

伯爵は見兼ねて国王の味方をする。

「君、本気でそんなこと言ってるの?

この人たちは二枚舌なんだからこの状況を脱することができたら、すぐに『そんなこと知らん、存ぜぬ』で済ますよ!!ほら今すぐに誓約書を用意してきてよ」


「終わったら・・・誓約書は・・用意・・・よう」


「だからー、()()()はないと言っているだろう!」


プランは苛立つが、国王はその腰を上げそうにない。

己の今の立場が全くもって分かっていないようだ。

そちらがそうならと、取って置きのことを話し出した。


「この木達は一体どこから来たんだと思う?ここの城の庭園に植えられていたものだよ。木が抜けてしまったら、そこらじゅうに穴ができ・・・」


プランの話がまだ終わらないうちに、国王はその気力がどこから湧いて来たのか、慌てて立ち上がるではないか!

そしてよたよたと扉の方に向かって進み出したのであった。


「ほら、やっぱりまだ動けるじゃない!!息子とどちらが早く誓約書を持って来れるかな?急げ、急げ!」


通訳をしていた皇太子と親子関係であるにも関わらず、お互いがお互いを『この機に乗じて亡き者にしようとしている』ことにみんなは驚いていた。

しかし、この関係を知っていた伯爵は、冷静にどちらの味方につくのが得策だろうかと考えを巡らせていた。

すぐに躓き倒れてしまった国王を、息子達に助けに向かわせた。


二人に両脇を支えられて、何とか立ち上がれた国王はお礼を言うどころか、「付いて来るな!!」と凄んで見せたのだ。


「今更、庭園に向かったって意味がないよ。誓約書を持ってきてくれたら、木は元の場所に帰って今まで通りってことだよ」


国王はプランの言葉を聞くと安心したように「手を貸してくれ」と二人に頼んだのであった。

コントレとエヴィに付き添われて国王は退出して行く。


「これでもう、大丈夫だと思うよ!」

ひとりで安堵しているプランを、みんなは不思議そうに見ていた。

「ああ、庭にあの国王の秘密が眠っているんだよ。余程みんなには知られたくないらしい。だから必ず誓約書は持ってくるだろう!」



国王は息子の敵意に気がついている。

鍵のかけられた部屋に国王がやって来たら、彼は言い逃れができない状況に追い込まれるのだ。

逆上して二人が衝突する可能性もあった。


木に捕らえられても抵抗を続けている気骨ある兵士に、プランは声をかけた。

「今から君を解放するが、国王を守ってあげてくれるかい?」

兵士は当然だとばかりに首を縦に振った。

彼は体が自由になると、一目散に国王の後を追ったのだった。


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