28 慰撫の力
「リュード、仕返しするつもりだったのに家族の中を取り持っちゃったよ」
「・・・ところで、いつから俺のこと呼び捨てになったんですか?」
「うっ、ついノリで・・・嫌なら戻すよ」
伯爵が死ぬかもしれないと思ったときに、やはり咄嗟に止めてしまった。
恨んではいるが、殺したいと思うほどに憎み切れてなかったようだ。
この家の為に強引に能力者にさせられ、言われるがままに仕事をした。
タダ働きだったが、生活面においては、この家の子供たちと遜色ない待遇を受けて育ったことは確かだ。
実は財政難であったことを思うと、まだ恵まれていたのかも知れない。
それにプランのひととなりもよく分かった。
母を悪く言われて激昂し、俺がされたことは全てやり返してくれた。
家は大きさではなく、そこにある『住んでいた人の想い』が大事なんだと言ってくれた。
心の底から俺たちと暮らせなかったことを後悔しているようだった。
「まあ、良かったんじゃないですか。俺も晴れて自由の身になれたし!」
「え、そっちのこと。名前はどうなの?」
そんな純真そうな目で俺を見るんじゃない。
意外と図太いところは何だか母さんに似てなくもないな。
「まあ、別にいいですよ」
「ヒカリちゃん、聞いてよ。リュードが呼び捨てしてもいいって言ってくれた」
嬉しそうに報告するんじゃない。
「そういや、ヒカリ。どうしてコントレとずっと手を繋いでたんだ?」
途中から視界に入ってきて、何やってんだと気になっていたのだ。
「べ、べ、別に疚しい気持ちはないよ!『こうしていると安心するから、繋いでて』って言われたからなのよ。本当よ!!私は分別ある大人なんだからさー」
妙に動揺しているな。
「お前、能力を使ったのか?」
「へ?ただ繋いでいただけだよ」
ヒカリの能力の素晴らしさは身をもって知っている。
だが白の能力は外傷じゃなければ、目に見えて何かが起きるわけではないのだ。
治療してもらった時も、ただ患部に手を置いているだけに見えた。
「ちょっといいか?」とヒカリの手を取って、繋いでみる。
「え!どうしたの?」
リュードは今現在、体の不調はないし疲れてもいない。
しかし、こうしてヒカリと手をつないでいると怒涛のような展開で高ぶっていた気持ちが、不思議と落ち着いていくではないか。
心のモヤモヤがサーっと消えていって、とても晴れやかな気分になっていく。
「ヒカリ、今、能力を使っているか?」
「特に何もしていないけど」
「では、能力の出し方はどうやるんだ?」
「それが、よくわからないのよ・・・彼女の体がその方法を記憶しているのかな〜。今度会ったときに聞いてみるよ」
「なになに?手なんか繋いじゃって、仲良いね〜!」
プランが嬉しそうに冷やかしてきた。
「そんなんじゃありません。それよりちょっとヒカリと手を繋いでみて下さい」
「ダメだよ!そんなことしたら、シーラに怒られちゃうよ!」
この人結構、面倒な男だな〜と思いつつ「母さんには黙っていますから!」と強引に二人の手も繋がせた。
「どうです?」
「どうって・・・・・・」
「気持ちが落ち着いてきませんか?」
「・・・・あ・・・確かに。さっきまでの負の感情が浄化されていくようだ。真っ新に塗り替えられていくような・・・ふぅぅ〜心地いいな〜」
その時、ヒカリが急に二人の手をバッと離したのだった。
前方を見て気まずい顔をしているので、どうかしたのかと振り返った。
するとこちらを凝視しているコントレと目があったのだった。
「どうかしたのか?」
「ええっ!な、な、何でもないよ」
その狼狽っぷりと、さっきの『疚しい気持ちはない』と焦っていたのを踏まえると、まさか・・・・・ヒカリのやつ・・・コントレのこと好きになったんじゃないだろうな?!
今までの嫌な印象は薄れたとは言え、何であんな劣等感の塊みたいな暗い奴がいいんだ?
「白のヒカリちゃんには慰撫の能力もあるんじゃない。
だから触れるだけでこんなにも心が落ち着いて、幸せな気持ちになるんだよ。
でも体に異常があれば、力はそちらに作用するようになってるんじゃないかな」
プランが的を射た意見を言っていたのに、俺は『はぁ?何でよりによってコントレなんだ?!』とずっとそのことが頭に引っかかっていたのであった。




