27 事情は打ち明けたほうがいい
苦しさから解放された伯爵は、咳き込みながら「・・・ト・・レ、コン・・トレ」と息子に救いを求めた。
彼はそんな父の姿に狼狽する。
ここで手を差し出したら、自身もあの木に何かされるのではないかと、体が動かない。
それと同時に、常に孤高で手の届かない遠い存在だった父が、無様に泣きながら救いを求めていることに、微かな優越感を感じていた。
心のどこかでは、今までされた酷い仕打ちや心無い言葉を思い返し、ざまあみろと思っている冷めた自分がいた。
ずっと虚栄虚を張って誤魔化していたようだが、能力を失った父など所詮はこの程度であったのだ。
今まで能力至上主義で、目的の為に数々の非道なことを行なってきた父の罰ではないのだろうか。そんな風に思えた。
プランは父親に駆け寄って行かないコントレを見ていた。
助けを求めるならそちらではなく、末っ子の方だろう・・・と思うが、彼がエヴィを呼ぶことは終ぞなかった。
この男は子供達の性格すら知らないのだろうか。
「君には随分ともったいない良い息子が二人もいるじゃないか!」
「フンッ、手を貸してももらえないがな」と自虐的に答える。
伯爵は床に這っているこの状況がどうにも我慢ならないようで、何とか上体を起こそうと必死だ。
「君のその自尊心の高さには敬服するよ。けれども、もうそろそろ退くべきだ」
「私が居なくなれば、リュードはここにいてくれるのか?」
「それはない・・・・・・もう能力に頼るのは止めるんだ」
彼は何を言っているんだとばかりに首を横に振った。
「それは、ダメだ。能力者のいないこの家はすぐに爵位を剥奪される!
なにせお祖父様がこの国を乗っ取ろうと画策した前科がある。
あの人のお陰で公爵から伯爵に降格され、今なお国王から煙たがられている始末だ」
伯爵が必死になって能力者を探していたのにも理由があったのだった。
野心家の祖父が起こした裏切りの代償は大きかった。
この家が廃位されなかったのは、能力者が生み出す富が惜しかったのと、報復を恐れてのことだ。
財産の半分以上を没収され、高額な税金を課すことで国王は赦してくれたのであった。
能力者が居なくなってしまえば、そんな税金を支払うことなど、到底できなくなる。
「そこまでして爵位が必要か?」
「何を、当たり前のことを!!」
元農民であったプランも、その昔は身分の高いことに憧れを抱いていた。
実際にそちら側に入って、高慢な見栄の張り合いにうんざりしてさっさと手放した。
しかし生まれからずっと貴族として生きていた伯爵にとって、爵位は命と同じぐらい大事なものであった。
庶民だなんて・・・そんな地を這うような生き方はできないのであった。
「しかし君の息子は能力に頼ることのない方法を懸命に考えていたようだよ」
「それは、この領地があることが前提です。爵位がなくなるなど考えても見ませんでした」
コントレはこの家がそんな窮地に立たされていたことに愕然としていた。
祖父の所為で降格させられたことは知っていたが、そんなにも重罪を犯していたことは初耳だった。
それに伴って制裁課税のように重い納税を強いられていることも知らなかった。
父の能力至上主義な考えも、それを支払う義務からそうなっていたのだと分かった。
父の機嫌を損ねないようにしておけば人生は安泰だなどと、温く考えていた自身が本当に恥ずかしい。
自身が相当、足場の悪いところに立っていたのだと、やっと気がついたのだ。
「君はもっと息子達を頼って、そのことを打ち明けるべきだったんじゃないのか?
リュードにだって頭を下げて『協力してほしい』とお願いをすればよかったのではないか?」
「それは!!」
「それは、何だ!子供に頭を下げるのは恥ずかしかったか?暴力で支配するよりもずっといいだろう。
子供に身内の失態を晒すことは恥ずかしいことか?この子達にそんなことはするなと悪例として教えようとは思わなかったのか?」
この男の言う通りだ。
自尊心が邪魔をして独りで突っ走っていた。
「・・・・・・私が全て悪かった、すまなかった」
「「父上!」」
コントレとエヴィは伯爵のところに駆け寄った。
息子達は泣きながら父の苦労に気付けなかったことを謝り、父もずっと話せなかったことを詫びていた。
この様子なら力を合わせて乗り越えて行けそうだなとプランは思っていたのであった。




