26 我を忘れる怒り
扉まで後退していなかったプランは、あっさりと兵士に捕まってしまった。
「残念だったな・・・結局は地位や名誉のある者が勝つんだよ!!
お前達のような能力者は、その力を有効に使う者がいるからこそ、世の中の役に立っているんだ!さあ、お前の力も私が遺憾なく活用してやろう!」
「言いたいことはそれだけか」
伯爵の方を睨んだプランの目は真っ赤であった。
「ドゴーーーーーン!!!」
「バッリーーーーーン!!!」
大きな音とともに、床がぐらついた。
子供の時から防災訓練を繰り返し受けているヒカリは、サッと頭を抱え、低い体制をとった。
幸いにも、揺れはその一度だけであった。
恐る恐る顔を上げ、様子を伺うと、窓側の壁がほぼ無くなっていたのだった!!
そしてそこには、さっきまでなかったはずの大きな木の樹冠が乗り上げていたのである!!!
プランが木を操って壁を破壊したのだと、すぐに分かった。
大きな木は、枝を四方八方に伸ばし、器用に兵士をクルッと掬い取ると外に向かってポイッポイッと投げ捨てて行くではないか!
「うわーーーーー、何だアレは!!」
「オバケの木だーーー!!」
兵士たちはパニックになり逃げ出していた。
ふと横を見たら、コントレが腰を抜かしていた。
あまりの出来事に驚愕の表情を浮かべ、言葉も出ないようだ。
「大丈夫。プランさんは植物の能力者なのよ。だからあれは彼が操っているの。私たちに危害を加えたりすることはないから安心していいよ!」
「そ、そ、そうなのか?!」
半信半疑の返事だったが、白の安心させる能力のお陰なのか少しは落ち着いたようだ。
ヒカリは手を差し出した。
「大丈夫? 立てる?」
「あ、ああ」
彼は手を取るとゆっくりと立ち上がった。
そして、手を離そうとしたら、なぜがキュッと握り返してきたのだ。
「そのー、もう少しこのままでいてもいいか?」
私は訳が分からず、首を傾げた。
「・・・・その、こうしていると何だか安心するんだ」
コントレは恥ずかしそうに、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でモゴモゴと言ったのだった。
うっ! カ、カワイイところあるじゃないの〜!
これから先、生きていてこんな若い子に『手を繋ぎたい』と言われることはあるだろうか?
否、そんなことは断じてない!ネヴァーだ!
決して疚しい気持ちは無いですよ〜、これは母性本能ってヤツなんですよ〜。
ヒカリがそんな言い訳を考えている間に、兵士たちは次々と排除されたようで、伯爵はとうとう独りになってしまった。
いつものポーカーフェイスは剥がれ、恐怖に慄いている。
何か言おうと口を開いたが、彼の口から言葉が発せられることはなかった。
枝は伯爵の両足を掴むと逆さ吊りにし、別の枝がお尻をペンペン叩き出した。
『プランさんにしては手ぬるい仕返しだな〜』
そう思って眺めていると、おもむろにこちらを振り返った。
「リュード、他にはどんなことをされた?」
ああ、そう言うことか。
伯爵にされたと話していた折檻を、次々と本人にもやり返しているのか。
リュードが返事をする前に、プランさんは大事なことを思い出したようだ。
「ああ、そうだ。シーラとの住まいを目の前で焼かれたんだったね」
「ま、待てっ!あの家とこの屋敷とでは価値が全然違うだろう!」
「君は愚かな男だな。家とは『そこに住んでいた人達の想い』が詰まっているものなんだよ。そこには家の大きさなんて関係ないんだ!そのことに気がついていないから平気で酷いことができるだろうね・・・」
「でもお前はあの家で一緒に暮らしていなかっただろう!」
伯爵はプランさんが一番気にしていることを突いてきたのだった。
「・・・・・そうだね、君の言う通りだ」
プランの声のトーンが変わったことを、伯爵はすぐに察知した。
「君が2人をきちんと養っていれば、あの女・・・彼女も息子を手放すことなどしなかったんじゃないのか!君にも責任の一端はある!」
「2人にはこれから一生かけて償うつもりだよ・・・・だけれども・・」
枝が伯爵の首にしなやかに巻きついた。
「初めから何が何でもリュードを手に入れるつもりだったのだろう?
シーラにどんな甘い言葉を言った。
『家に来れば躾や教育も充分にしてあげる事ができる』
『お金のことなど心配無用だ』
『彼のような才能ある者に投資をしたいんだ』
『きっと立派な青年に育てると約束しよう』
どうだ、違うか? もしシーラがリュードを手放さなかったらどうするつもりだった?強引にでも彼を誘拐するつもりだったのか?」
首に巻きついた枝はしなりながら少しづつ締め上げていく。
「そんなことはない。彼女が受け入れてくれたから、ううっー・・・引き・・取った・・だ」
言葉は切れ切れになっていった。
枝は皮膚にめり込み、伯爵の顔色は赤紫のような色になっていく。
「もう、やめろ!!それ以上やったら死んでしまう」
止めたのはリュードだった。
けれども、その言葉はプランには全く聞こえていないようであった。
彼は走ってプランの元に駆け寄り、肩をグイッと掴んだ。
「あんたが人殺しなんかしたら、母さんが悲しむだろう!!」
ドサッと鈍い音がして、伯爵は床に落とされたのだった。
「ああ、リュード。すまない・・・我を忘れていた」
そう言ったプランの眼は、赤ではなくいつもの色に戻っていたのであった。




